第八十四話 「臨界点の突破と不可逆な熱量譲渡。俺は竜娘の最も深い場所へ、極限に圧縮された『流体』を注ぎ込んだ」
夜の静寂を切り裂くように、甘く、ひどく熱を帯びた吐息が部屋に響き続けていた。
シーツは既にぐしゃぐしゃに乱れ、俺とミリムの肌は、密着した境目がわからないほどに汗で滑らかに濡れそぼっている。
「あっ、あぁっ……! ししょー、すごい……お腹のなか、おっきくて……熱いのが、いっぱいくるの……っ!」
ミリムが俺の背中に爪を立て、狂おしいほどに身を捩る。
竜族特有の異常な基礎代謝と体温。それに加えて、ゼロ距離で繰り返される激しい『摩擦運動』によって生み出された熱エネルギーは、俺たちの間に存在するエントロピーを急速に増大させていた。
「ミリム……お前、中が……締め付けが……」
俺の理性を司る演算回路は、すでにメルトダウン寸前だった。
彼女の内部――極めて高い圧力と熱を帯びた『密閉された空間』は、俺の存在を一切の隙間なく包み込み、まるで万有引力のように俺のすべてを最も深い場所へと引き摺り込もうとしていた。
「ししょー……もっと、もっと奥まで……ミリム、ししょーの全部、ほしい……っ」
ミリムの潤んだ瞳が、俺を真っ直ぐに射抜く。
普段の俺であれば、いかに理性が吹き飛ぼうとも、最後の瞬間には必ず『安全弁』を機能させる。極度に圧縮されたエネルギー(流体)を、対象の外部へと逃がすか、あるいは薄い魔力膜(結界)を展開して直接の混ざり合いを防ぐのが、物理学者としての最低限の防衛線だった。
だが、今の俺にはそれができなかった。
彼女の熱量に絆され、俺自身の内奥で沸騰し、圧縮され続けている『高圧の流体』は、もはや安全弁で抑えきれる臨界を遥かに超えていたのだ。
「……ミリム。このまま限界を超えたら、俺のがすべて、お前の内側に注ぎ込まれる。物理的に『不可逆』な状態になるぞ」
俺が荒い息を吐きながら最後の警告を発すると、ミリムは花が綻ぶような、ひどく艶やかな笑みを浮かべた。
「いいよ……。ししょーの熱いの、ミリムの一番奥に、いーっぱい注ぎ込んで? ミリムのなか、ししょーで満たして……絶対に、離さないから……っ」
彼女の強靭でしなやかな両脚が、俺の腰を逃げ場のないようにきつく絡め取る。
もはや、逃避のベクトルは存在しなかった。
ボイル=シャルルの法則。
一定の空間内において、気体や流体の圧力は、温度に比例し体積に反比例する。
極限まで圧縮され、行き場を失った俺の全エネルギーは、彼女の最も深い『極小の体積』の空間に向かって、一気に押し上げられていく。
「は、あぁっ……! ミリム……っ!!」
「し、しょーっ! きて、いっぱい、ちょうだいぃぃっ!!」
そして、臨界点。
俺の脳内で、理性のストッパーが完全に弾け飛んだ。
俺は彼女の柔らかな身体を強く抱きしめ、最も深い座標へと深く、深く打ち込み――。
極限まで高められた圧力と共に、白く濁った高熱の『流体』を、彼女の密閉された最奥の空間へと、一滴残らず激しく注ぎ込んだ。
「あっ……! あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!!」
ミリムの身体が弓なりに反り返り、絶頂の波に打たれて激しく痙攣する。
彼女の内部に直接解き放たれた俺の熱量は、行き場のない密閉系の中で凄まじい熱膨張を起こし、彼女の深奥をパンパンに満たしていく。
俺の流体と、彼女の熱が完全に混ざり合い、物理的にも、そして生物学的にも、決して元には戻せない『不可逆な結合』を果たした瞬間だった。
「ふぁぁ……っ、あ……ししょーの……あついの、お腹のなかで、どくどく、してる……っ」
ミリムは恍惚とした表情で俺の首に腕を回し、熱に浮かされたように甘い吐息を漏らす。
彼女のお腹にそっと手を当てると、俺が注ぎ込んだ莫大な熱量が、彼女の身体の奥深くで確かに脈打っているのが感じられた。
「……やってしまったな」
俺はミリムの汗ばんだ前髪を優しく撫でながら、天井を見上げた。
避妊の結界も張らず、外部へ逃がすこともせず、完全に彼女の「中」で解放してしまった。もしこれで、俺と彼女の遺伝子情報(DNA配列)が新たな生命のアルゴリズムを構築し始めたら、俺は本当の意味で、この辺境の地から逃げられなくなる。
「えへへ……ししょー、だいすき。……ずっと、ミリムのなかにいてね」
満足そうに俺の胸に頬を擦り付け、子猫のように喉を鳴らす竜娘。
後戻りのできない不可逆の事象を引き起こしてしまったというのに、俺の胸の中にあったのは後悔ではなく、彼女の柔らかな重みに対する、どうしようもないほどの愛おしさだけだった。
俺は深くため息をつき、彼女のぬくもりに身を委ねて、甘い疲労の底へと沈んでいった。
「物理用語の隠喩がエ◯い!」「ついに一線を越えたか……!」
と思っていただけたら、
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