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第六十八話 「濃厚すぎる夜の代償。完璧なメイドのショート回路と、気まずさMAXの朝食風景」



 ――翌朝。

 俺は、徹夜明けの錬金術師のような酷い顔で、ダイニングテーブルの席についていた。


「おはようございます、師匠。昨夜は……その、とても有意義な『熱量交換』でしたね」

 俺の右隣に座るアリアが、普段の冷徹なスナイパーの面影を完全に消し去り、新婚妻のようなトロトロの笑顔で紅茶を啜っている。その肌は、信じられないほどツヤツヤに輝いていた。


「キキッ、ボウヤったら朝からクマができてるわよ? まぁ、あれだけ『激しい運動』をしたら無理もないけど。私の扱いに少しは慣れたかしら?」

 左隣のクロエは、いつも以上に妖艶なオーラを放ちながら、俺の頬を指先でツンツンと突いてくる。


 右と左から押し寄せる、圧倒的な「事後」の空気感。

 昨夜の記憶がフラッシュバックし、俺の顔から火が出そうになる。だが、俺の胃痛の種はそれだけではなかった。


「……ご、ご主人様。本日の、あ、朝食をお持ち、しました……っ」


 ダイニングに現れたエリスの声が、旧式のゴーレムのようにガタガタと震えていた。

 彼女の顔は、耳の先から首の根元まで、茹でダコのように真っ赤に染まっている。俺と目が合った瞬間「ひぅっ」と小さな悲鳴を上げ、彼女は盆を持ったままビクッと硬直した。


「エ、エリス。おはよう。……その、昨夜はよく眠れたか?」

 俺は極力、何事もなかったかのように(平静を装って)声をかけた。


「ね、ねねね、眠れました! ととと、とても深く! 幻覚を見るほどに!」

 エリスは早口でまくしたてながら、俺の前に朝食のプレートをドンッ!と置いた。


「……エリス。これは何だ」


「本日のメインディッシュ、目玉焼きとベーコン……です……っ」


「いや、俺の皿に乗っているのは『生のジャガイモ(皮付き)が三つ』だが」


「……ッッ!! も、申し訳ありません!! 私の視覚センサーが、光の屈折でジャガイモを目玉焼きと誤認したようで!!」


 完璧なメイドが、あり得ないバグを起こしている。

 エリスは慌ててジャガイモを回収すると、今度は俺のティーカップに、コーヒーではなく『塩』をサラサラと注ぎ始めた。


「待てエリス! 塩だ! それは塩分濃度が高すぎる!」


「ああっ!? す、すみません! 塩分と水分の浸透圧を計算し間違えました!!」


 エリスが涙目でパニックに陥っている。

 普段はどんな暗殺者にも冷徹に対処する彼女が、お盆を抱えてオロオロと部屋を右往左往していた。

 無理もない。敬愛する主人の前で、あんな無防備で熱の篭もった『一人での行為』を見られてしまったのだ。彼女のメイドとしてのプライドは、現在進行形でメルトダウンを起こしているのだろう。


(俺だって気まずいんだよ……! あの後、一睡もできなかったんだからな!)


「……あら? エリス、今日はずいぶんとポンコツね。熱でもアルノ?」

 クロエが面白そうに目を細める。


「エリス。貴女らしくありませんね。師匠の体調管理を任されているというのに、そのようなミスを連発するとは」

 アリアが少し咎めるような視線を向けた。


「うぅ……っ。申し訳、ありません……アリア様、クロエ様……」

 エリスは二人の顔を見た瞬間、さらに顔を赤くして俯いた。

 おそらく彼女の脳内では、昨夜の『三人での濃厚な光景』が再び再生されているに違いない。


「……わたくし、お腹が空きましたわ! エリス、早くパンにジャムを塗ってちょうだい!」

 何も知らないシャルロットが、ナイフとフォークを握りしめてテーブルをバンバンと叩く。

「おにくー! 朝からお肉たべるー!」

 ミリムもしっぽを振って無邪気に笑っている。

 この二人の存在だけが、今の俺にとって唯一の癒やし(オアシス)だった。


「ひ、ヒィィ……ただいま! ただいまご用意いたしますぅぅ!!」


 エリスは半泣きになりながら、シャルロットのパンに『からし』を塗りたくり始めた。


「ぎゃあああああ!? 辛いですわ!! エリス、これ罰ゲームですの!?」

「あわわわ! 中和します! お水を!」

 エリスが慌ててシャルロットの顔面にコップの水をぶちまけた。


「ぶふっ!? ……ヴィ、ヴィクトルゥゥゥ!! お前のメイド、今日絶対に壊れてますわよーーーッ!!」


 阿鼻叫喚のダイニング。

 右からはアリアの重い愛、左からはクロエの妖艶なプレッシャー。そして正面では、王女がからしと水でむせ返り、メイドが頭を抱えてしゃがみ込んでいる。


「……ふぅ」


 俺は塩の山ができたティーカップを見つめながら、深く、深くため息をついた。

 物理法則は絶対だが、女心の力学だけは、どれだけ複雑な方程式を用いても解き明かせる気がしなかった。

「ポンコツエリス可愛いw」「ヴィクトルの胃に穴が空く日も近い」

と思っていただけたら、

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