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第五話 「伝説のドラゴンをデコピンで倒したら、ペットになりたいと言い出した」

『グオオオオオオオオオッ!!』


 災厄竜カラミティ・ドラゴンが、天を焦がすほどの灼熱のブレスを吐き出した。

 本来なら、この一撃で山一つが溶解し、俺たちなど骨も残らず蒸発するはずだ。


 だが。


「……師匠、なんだか温風ドライヤーみたいです」

「ああ。『熱量・ゼロ』にしておいたからな」


 俺たちはブレスの直撃を受けながら、涼しい顔で立っていた。

 炎は俺たちの服を焦がすどころか、ほんのりと温める程度だ。


 『!?』


 ドラゴンの巨大な瞳が、驚愕に見開かれる。

 最強の攻撃が通じない? 

 いや、それ以前に、なぜ自分の体がこんなに「軽い」のだ?


 今のドラゴンは、俺のデバフによって全てのステータスが『1』に固定されている。

 攻撃力1、防御力1、素早さ1。

 その辺の野良猫よりも弱い状態だ。


「な、なめるな人間ンンンッ!!」


 ドラゴンが人語を話し(高レベルの魔物は知能が高い)、巨大な前足で俺を踏み潰そうとする。

 質量だけはある。だが。


 ポヨン。


 俺の頭上で、ドラゴンの足が止まった。

 まるでゴム風船で叩かれたような感触だ。


「……遅いし、軽いな」

「師匠! 私、やっていいですか!?」


 アリアがキラキラと目を輝かせて前に出る。


「ああ、頼む。ただし、ミンチにするなよ? 素材としての価値が下がる」

「はい! 手加減します!」


 アリアは可愛らしく頷き、ドラゴンの鼻先に近づいた。

 そして、中指と親指を重ねる。


「えいっ」


 パチンッ!


 可愛い音が響いた。

 アリアのデコピンが、ドラゴンの硬質な鱗(防御力1)に炸裂する。


 『ギャアアアアアアアアアアアアッ!?!?』


 次の瞬間、絶叫が轟いた。

 ドラゴンの巨体が、まるでピンポン玉のように弾き飛ばされたのだ。

 山頂の岩盤を砕きながら転がり、数百メートル後方でようやく止まる。


「……あ、あれ?」


 アリアが自分の指を見て首を傾げる。


「おかしいな……『岩砕き』の百分の1くらいの力だったのに」

「相手の防御力が紙以下だからな。クリティカルヒットしたんだろう」


 俺は倒れたドラゴンの元へ歩み寄った。

 ドラゴンは白目を剥き、ピクピクと痙攣している。

 HPバーが見えるなら、間違いなく『1/99999』で点滅している状態だ。


「お、おい……嘘だろ……?」


 ドラゴンが震える声で呟く。


「我は……災厄竜だぞ……? 神話の時代から生きる、最強の……」

「時代が変わったんだよ」


 俺は冷徹に見下ろした。


「立て。まだ素材としては使える」

「ひぃっ!?」

「皮は上質な防具になるし、牙は武器になる。肉は……食えるか?」

「た、食べないでくれぇぇぇ!!」


 ドラゴンは涙と鼻水を流し、俺の足元に頭を擦り付けた。

 見事な土下座ドゲザだ。


「降参! 降参だ! なんでもする! 宝もやる! だから命だけは助けてくれぇぇ!」

「……ふむ」


 俺は顎に手を当てて考える。

 ここで殺して素材にするのも合理的だが、生かしておけば別の使い道があるかもしれない。


「移動手段にはなるか」

「な、なります! 空も飛びます! 背中はフカフカです!」

「荷物持ちもできるな」

「やります! 山ほど持ちます!」


 ドラゴンは必死だ。

 俺はアリアを振り返った。


「どうする、アリア。こいつを飼うか?」

「ええー……」


 アリアは露骨に嫌そうな顔をした。


「弱そうですよ、師匠。こんなトカゲ、役に立ちますか?」

「と、トカゲ……ッ!」

「まあ、空を飛べるのは便利だ。それに、街まで歩いて帰るのは面倒だろう?」


 俺の提案に、アリアは少し考えてから頷いた。


「分かりました。師匠がそう仰るなら」

「よし。じゃあ契約だ」


 俺は簡易的な従魔契約魔法を結ぶ。

 これでドラゴンは俺たちの命令に逆らえなくなった。


「名前が必要ですね」

「そうだな。アリア、何かいい案はあるか?」


 アリアはドラゴンの顔をじっと見つめ、興味なさそうに言った。


「ポチ」

「……え?」


 ドラゴンが絶句する。


「ポチでいいです。顔が犬みたいに情けないので」

「……だ、そうだが?」

「わ、ワン……」


 ドラゴン――改め『ポチ』は、プライドをかなぐり捨てて吠えた。

 こうして、世界最強の生物が、俺たちのペットになった。


   ◇


 数時間後。冒険者の街テラ。


 街は騒然としていた。

 北の空から、巨大な影が近づいてきていたからだ。


「おい見ろ! ドラゴンだ!」

「災厄竜が来たぞ! 終わりだ!」

「逃げろぉぉぉ!」


 鐘が鳴り響き、衛兵たちが槍を構える。

 その混乱の最中、ギルドの前で飲んだくれていた勇者アルヴィンたちも、空を見上げて腰を抜かしていた。


「嘘だろ……本物が来やがった……!」

「嫌よ! 死にたくない!」


 だが。

 近づいてくるドラゴンの背中に、人影があることに気づいた者が声を上げた。


「……おい、あれを見ろ! 誰か乗ってるぞ!?」


 ザッザッザッザッ……。


 ドラゴンが広場に着陸する。

 そのあまりの巨大さに、誰もが息を呑んだ。

 だが、その背中から降りてきたのは――。


「ふぅ。意外と快適だったな」

「はい! 風が気持ちよかったです、師匠!」


 涼しい顔をした俺と、満面の笑みを浮かべたアリアだった。


「ヴ、ヴィクトル!?」


 人混みの中から、アルヴィンが裏返った声を上げる。


「お前……まさか、そのドラゴン……」

「ああ、これか」


 俺はポチの頭をポンと叩いた。


「討伐に行ったんだが、懐かれたから連れて帰ってきた」

「は……?」


 アルヴィン、聖女、剣聖。

 そしてギルドマスターや冒険者たち全員が、ポカンと口を開けて固まった。


「お座り、ポチ」

「ワンッ!」


 ズシンッ!

 全長10メートルの巨体が、行儀よくお座りをする。


 俺は凍りついた勇者パーティに向かって、ニッコリと笑いかけた。


「ああそうだアルヴィン。お前ら、このドラゴンに勝てずに逃げ帰ったんだってな? おかしいな、ポチは『お手』と『お座り』しかできない愛玩動物なんだが……」


 その瞬間。

 広場は静寂に包まれ――そして、爆発的な騒ぎになった。

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