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第四十八話 「ピエロ女が招待状を送ってきた」



 その日の午後。

 俺はテラスで、至高の昼寝を貪っていた。

 左手にアリア(冷却枕代わり)、右手にシャルロット(抱き枕代わり)、腹の上にミリム(重し)。

 この「ハーレム拘束具」にも慣れてきたもので、最近はこの重みがないと熟睡できない体になりつつある。


 平和だ。

 昨日までの筋肉痛も癒え、今日は天気もいい。

 このまま世界が滅びるその日まで、ここで寝ていたい。


『――緊急警報エマージェンシー。マスター、起きてください』


 オメガの無機質な声が、脳内に直接割り込んでくる。

 俺は不機嫌に片目を開けた。


「……なんだ。またシルヴィアか? 今度はルンバじゃなくて食洗機で撃退しろ」


『いいえ。……空を見てください』


 言われて、俺は上空を見上げた。

 そして、眠気が一瞬で吹き飛んだ。


「……は?」


 空が、割れていた。

 いや、正確には「模様が変わっていた」。

 いつもの青空が、毒々しい紫とピンクの「市松模様(チェック柄)」に塗り替えられている。

 雲の形が、歪な笑みを浮かべるピエロの顔に見えた。


「な、何ですのあれ!?」

 シャルロットが飛び起きる。


「……広範囲にわたる幻術? いいえ、物理的な『空の色』そのものが置換されています」

 アリアが眼鏡を直しながら戦慄する。


「変な空! 美味しくなさそう!」

 ミリムが威嚇する。


 俺は舌打ちをした。

 こんな悪趣味な「改変」をする奴は、一人しかいない。


『王都上空に巨大な魔力反応。……識別コード「クロエ(ピエロ女)」です』


 次の瞬間。

 空に浮かぶ巨大な雲(ピエロ顔)が、口をパクパクと動かして喋り始めた。


『あー、あー。テステス。……聞こえてるかしら、ボウヤ?』


 王都全域、いや、この国全体に響き渡るような拡大放送。

 あの、人を小馬鹿にした声だ。


『退屈だから、少し模様替えをしてみたの。……ねえ、私の「おもちゃ箱」に遊びに来ない? 来ないと……この国の人形たち(・・・・)、全部壊しちゃうわよ?』


 キキッ、キキキッ!

 不快な笑い声と共に、空から無数の「風船」が降ってきた。

 それが王都の城壁に触れた瞬間――


 ボシュッ。


 堅牢な城壁が、一瞬で「お菓子のウエハース」に変わって崩れ落ちた。


「お父様のお城がぁぁぁぁ!!」

 シャルロットが絶叫する。


「……物理法則の書き換え。物質の構成要素を無視して、定義そのものを『お菓子』に変更しましたね」

 アリアが冷静に分析するが、その顔は蒼白だ。


 俺は拳を握りしめた。

 DNAは違った。あいつは師匠じゃない。

 だが、やっていることは師匠の十八番オハコである「事象改変イベント・オルタレーション」そのものだ。

 しかも、規模がデカすぎる。王都まるごと人質に取る気か。


「……行くぞ」


 俺は立ち上がった。

 隠居生活? こんな騒音の中で寝ていられるか。


「シャルロット、案内しろ。お前の実家(王都)を更地にする前に、あのピエロを叩き潰す」


「はいっ! 不敬罪で極刑にしてやりますわ!」


     ◇


 王都への転移。

 到着した俺たちの目に飛び込んできたのは、悪夢のような光景だった。


 石造りの街並みは、ねじれたプラスチックのような質感に変わり、街灯はキャンディに、噴水はチョコレートに変わっている。

 そして、逃げ惑う人々は――


「たすけてくれぇぇ!」

「体が……体がぁぁ!」


 市民たちの体が、ブリキやフェルトの「ぬいぐるみ」に変えられていた。

 意識はあるようだが、関節が勝手に動き、強制的にパレードをさせられている。


「……趣味が悪い」

 俺は吐き捨てた。


「あら、可愛いじゃなーい?」


 空間が歪み、広場の中央にある時計塔の上に、あの女が現れた。

 黒いローブに、泣き笑いのピエロ仮面。

 クロエだ。


「ようこそ、私の『ワンダーランド』へ。……相変わらず、無粋な連れを歩かせているのね」


 彼女はアリアたちを見下して笑った。


「貴様! 私の国民を元に戻しなさい!」

 シャルロットが杖を構える。


「あら、王女様? 貴女のお父様なら、あそこにいるわよ?」


 クロエが指差した先。王城のバルコニーに、王冠を被った「テディベア」が座らされていた。


「お、お父様ぁぁぁぁ!!」


「さて、ボウヤ。……前回の続きをしましょうか」


 クロエが空中にふわりと浮き、俺の目の前に降り立った。

 仮面の奥の瞳が、俺を値踏みするように細められる。


「DNA鑑定、したんでしょう? ……結果はどうだった? 私が『あの人』に見えた?」


「……シロだったよ。お前はただの偽物フェイクだ」


 俺は即答した。

 すると、クロエは肩を震わせて笑った。


「キキッ! そうね、遺伝子は嘘をつかない。……でも、魂はどうかしら?」


「なに?」


「私はね、ボウヤ。……『あの人』が捨てた(・・・)モノを拾い集めて出来た存在なのよ」


 彼女が右手を掲げる。

 世界が軋む音がした。


「さあ、見せてあげる。貴方の『物理演算ロジック』と、私の『事象改変シナリオ』……どちらがこの世界の真理に近いか!」


 ドォォォォン!!


 地面から巨大なビックリ箱が飛び出し、中から鋭利な刃物を持ったピエロ人形が無数に射出された。


「総員、迎撃だ!」


 俺の号令と共に、三人のヒロインが動く。


「凍りなさい、ガラクタ共!」

 アリアが絶対零度の吹雪を放つ。


「消し飛びなさい!」

 シャルロットが極大レーザーを薙ぎ払う。


「オラオラオラァ!」

 ミリムが人形を次々と粉砕していく。


 だが。

 倒したはずの人形が、瞬時に「再生」……いや、「破壊された事実」がなかったことにされて、無傷で襲いかかってくる。


「嘘でしょう!? 直撃しましたわよ!?」


「……『再生』ではありません。時間が巻き戻っている? いいえ、因果律の逆転……!」


 アリアが焦る。

 そう、これが「事象改変」。

 『倒された』という結果を、『倒されていない』という事実に書き換えているのだ。


「無駄よ。私の脚本シナリオに『敗北』は書かれていないもの」


 クロエが高笑いする。


「……チッ。面倒な」


 俺は前に出た。

 書き換え合戦か。上等だ。

 俺の演算能力クロックと、お前の改変速度……どちらが先に焼き切れるか、我慢比べといこうじゃないか。


「アリア、シャルロット、ミリム! お前たちは雑魚を散らせ! 本体は俺がやる!」


了解ラジャー!」


 俺は右手に膨大な魔力を収束させた。

 物理法則の守護者として、このふざけたお遊戯会を終わらせてやる。


「来い、偽物! その仮面、俺が剥がしてやる!」

「いきなりクライマックス感」「お菓子のお城、食べてみたい」

と思っていただけたら、

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