第四十七話 「迷宮攻略(デート)のつもりが、ただの環境破壊でした」
筋肉痛地獄から復活して数日後。
俺は朝の食卓で、一枚の地図を広げた。
「今日は遠出するぞ。ピクニックだ」
「ピクニックですの!?」
シャルロットが目を輝かせ、トーストを落としそうになった。
「素敵……! ヴィクトルとお弁当を持って、草原で追いかけっこ……これぞ恋人たちの王道イベント!」
「肉! 肉いっぱい持っていく!」
ミリムがフォークとナイフを打ち鳴らす。
「……場所はどこですか、マスター。日照条件や気温を計算して、最適な服装を選定します」
アリアが端末を取り出す。
俺は地図の赤丸を指差した。
「ここだ。『嘆きの古城』地下50階層」
「「「……は?」」」
三人の動きが止まった。
「そこ、S級指定の最難関ダンジョンじゃありませんこと?」
シャルロットが引きつった笑顔で言う。
「ああ。先日の特訓で、お前たちの単体の火力は分かった。だが、実戦での『連携』は未知数だ。あのピエロ女に対抗するには、個の力だけでは足りん」
俺はコーヒーを飲み干し、不敵に笑った。
「俺が指揮官となる。お前たちの新しい力、試させてもらうぞ」
◇
数時間後。
俺たちは『嘆きの古城』の入り口に立っていた。
腐敗した瘴気が漂い、奥からは魔物の呻き声が聞こえてくる。
「いいか、作戦目標は『最深部のボス討伐』だ。だが、ただ倒せばいいわけじゃない」
俺は三人に釘を刺した。
「『効率』だ。無駄な魔力消費を抑え、最小の手数で最大の戦果を上げる。それが俺の流儀だ」
「了解です、師匠。……最小コストで殲滅ですね」
アリアが冷徹に頷く。
「任せてくださいまし。王家の優雅さを見せてあげますわ」
シャルロットが扇子を開く。
「ん! がんばる!」
ミリムが拳を合わせる。
頼もしい返事だ。これなら安心して指揮が執れるだろう。
……そう思っていた時期が、俺にもありました。
◇
地下10階層。
スケルトンの大群が現れた。その数、およそ三百。
「敵影確認。数は多いが、個体戦力は低い。……シャルロット、広範囲魔法で牽制しつつ、ミリムが前衛で――」
俺が指示を出そうとした、その時だった。
「邪魔ですわああああ!!」
ドォォォォン!!
シャルロットがいきなり極大魔法をぶっ放した。
牽制? 違う、これは殲滅だ。通路ごと骨が消し飛んだ。
「お、おい! 通路が崩落するぞ!」
「あら、ごめんなさい。ヴィクトルとの『接続』のおかげで、魔力が溢れて止まりませんの! うふふ、絶好調ですわ!」
「加減を覚えろ!」
◇
地下30階層。
物理攻撃が効かない霊体のエリア。
「ここは魔法主体のエリアだ。アリア、氷魔法で実体化させてから――」
「面倒ですね」
パキィィィン……。
アリアが指を鳴らした瞬間、階層全体がダイヤモンドダストに包まれた。
ゴーストたちは悲鳴を上げる間もなく、空中で凍結し、美しい氷のオブジェへと変わった。
「……絶対零度による熱運動の完全停止。霊体だろうと、存在そのものを凍らせれば物理干渉可能です」
「……効率的すぎるだろ。生態系が壊れる」
「師匠への愛の冷たさに比べれば、これくらい温いくらいです」
「意味が分からん」
◇
地下45階層。
強固な鱗を持つ、ドラゴン種の亜種が現れた。
「ミリム、同族だ。説得できるか?」
「んー? あいつ、生意気な顔してる。ミリムの方が偉いって教えてあげる!」
ドゴッ! バキッ! ズドン!
ミリムは魔法も使わず、素手でドラゴンを殴り倒し、最後はジャーマンスープレックスで地面に叩きつけた。
巨大なドラゴンが白目を剥いて痙攣している。
「はい、師匠! 降参させたよ!」
「……それは降参じゃなくて、瀕死と言うんだ」
◇
そして、最深部。ボス部屋。
そこには、巨大な『不死の王』が待ち構えていた。
禍々しい魔力を纏い、周囲には無数のアンデッドナイトを従えている。
『グォォォ……人間よ……よくぞここまで……』
ボスが威厳たっぷりに口上を述べようとした。
「……チッ。うるさいですね」
「話が長いですわ」
「お腹すいた!」
三人のヒロインは、ボスの言葉など聞く耳を持たなかった。
「合わせるぞ! ……と言いたいところだが、お前ら勝手にやりそうだな」
俺は諦めて指揮棒(杖)を振った。
「総員、攻撃開始!」
瞬間、三つの災害が同時に発生した。
――アリアの【氷界創生】がボスの動きを止め、
――シャルロットの【王家流・聖光砲】が護衛を一掃し、
――ミリムの【竜王崩拳】がボスの核を粉砕した。
チュドォォォォン!!
閃光と爆風。
古城が激しく揺れ、天井から瓦礫が降り注ぐ。
「……やりすぎだ」
俺は【重力制御】で瓦礫を防ぎながら、呆れ返っていた。
煙が晴れると、そこには何もなかった。
ボスも、護衛も、そして期待していた『宝箱』さえも。
すべてが消滅し、更地になった部屋があるだけだった。
「……あ」
ミリムが更地を見て声を上げた。
「……計算ミスです。宝箱の耐久値を考慮していませんでした」
アリアが眼鏡の位置を直す。
「……ま、まあ、勝てばよかろうなのですわ! ね、ヴィクトル?」
シャルロットが冷や汗を流しながら俺に抱きついてくる。
「……はぁ」
俺は深いため息をついた。
連携? 効率?
そんなものはここにはなかった。あるのは「暴力」と「破壊」だけだ。
「お前ら……来週から座学だ。『手加減』という言葉を辞書で引くところからやり直しだ」
「ええーっ!?」
三人の悲鳴が、更地になったダンジョンに木霊した。
帰り道。
結局、何の戦利品も得られなかった俺たちは、夕日の中をとぼとぼと歩いていた。
「……でも、楽しかったですね、師匠」
アリアがふと、柔らかい声で言った。
「そうですわね。こうして四人で歩いていると、本当に家族みたいで……」
シャルロットが俺の腕に頬を寄せる。
「ミリム、お肉食べ損ねたけど、師匠と一緒だからいい!」
ミリムが反対側の腕にぶら下がる。
俺は両腕の重みを感じながら、苦笑した。
まあ、ピエロ女への対策としては不安が残るが、チームワーク(精神的な意味での)は悪くないのかもしれない。
「……次は、もう少し平和な場所にするか」
「はい! 海がいいですわ!」
「雪山がいいです」
「焼肉屋!」
……前言撤回。
こいつらを制御するには、俺の演算能力があと10倍は必要だ。
「強すぎて草」「ヴィクトルの苦労が絶えない」
と思っていただけたら、
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