第四十話 「アリアとの『接続』が深すぎて、他のみんなの脳が破壊された」
その朝、ダイニングルームの空気は、死んだように静まり返っていた。
カチャ……カチャ……。
食器が触れ合う音だけが響く。
シャルロット、ミリム、エリスの三人は、目の前の朝食に手をつけていなかった。
彼女たちの視線は一点――上座に座るヴィクトルと、その膝に当たり前のように座っているアリアに釘付けだった。
「……んっ。あぁ……師匠、そこ……魔力が……」
アリアが艶めかしい声を漏らし、ビクリと体を震わせた。
彼女は食事をしているのではない。ヴィクトルの首に腕を回し、彼の魔力を「摂取」していた。
「……おい、アリア。食事中だぞ。降りろ」
「嫌です。……昨晩の『最適化』で、私の回路は貴方なしでは動かない体にされてしまったのですから。……責任、取ってくださいね?」
アリアは上気した頬をヴィクトルの胸に擦り付けた。
その姿は、いつもの冷静な「氷の魔女」ではない。
完全にオスに組み敷かれ、開発され尽くした「雌」の顔だった。
「それに……師匠の魔力が流れてくると、奥が熱くて……じっとしていられないんです」
彼女の吐息が熱い。
昨晩の「リミッター解除」という名の魔力回路接続は、想像以上の副作用をもたらしていた。
常時接続。
今の彼女は、俺の心臓が鼓動するたびに、その余波を快楽として受け取る体質になってしまっていた。
――ドクン。
俺がコーヒーを飲もうと脈拍を少し上げると、
「んあぁっ! ……だめ、今、濃いのが……きちゃった……っ!」
アリアが嬌声を上げ、ガクガクと腰を震わせて俺にしがみつく。
スカートの下で、太ももが擦れ合う音が聞こえそうなほどだ。
その目尻には涙が浮かび、瞳孔が開いている。
……見ていられない。
あまりにも、みだらだった。
「な、な……何を見せられていますの……?」
シャルロットが、引きつった笑顔でフォークを握りしめていた。
ギリギリと音がして、銀食器がひしゃげている。
「魔力供給……? いえ、あれはただの……事後ですわよね? 朝から……あんな……」
彼女のプライドはズタズタだった。
自分こそが正妻候補だと自負していたのに、目の前で「所有権」を見せつけられているのだ。
「……臭い」
ミリムが低い声で唸った。
彼女の竜の瞳が、嫉妬の炎で赤く輝いている。
「アリアから、師匠の匂いがプンプンする。……中まで、全部。師匠のモノで埋め尽くされてる匂い」
ミリムは自分の腕を噛んだ。
悔しい。羨ましい。どうして自分じゃないのか。
野生の本能が、「負け犬」であることを理解してしまっていた。
「ご主人様……」
エリスに至っては、すでに泣いていた。
彼女はメイドとして、朝一番にヴィクトルの着替えを手伝おうとしたのだ。
だが、寝室から出てきたのは、ヴィクトルのシャツ一枚を羽織ったアリアだった。
その時の、アリアの勝ち誇った目。
『貴女にはまだ早いわ』とでも言いたげな、優越感に満ちた微笑み。
「私……もう要らない子ですか? アリアさんがいれば、お世話も、夜のお相手も……全部……」
エリスの心が、音を立てて崩れていく。
そんな地獄のような空気の中で、アリアはさらに追い打ちをかけた。
「ふふ。……皆さんも、そんなに睨まないでください」
アリアはヴィクトルの膝の上から、憐れむような目で三人を見下ろした。
「師匠の『一番深い場所』に入れるのは、私だけ。……この快感は、凡人の回路では焼き切れてしまいますから」
彼女はわざとらしく、自分の首筋を見せた。
そこには、昨晩の術式によって刻まれた、赤い幾何学模様の刻印(キスマークのような魔法陣)が輝いていた。
「ああ……また、脈動が……。師匠、もっと……私を書き換えて……」
アリアがヴィクトルの耳元で囁き、舌を這わせる。
公然猥褻だ。
だが、俺も拒絶できなかった。彼女とのパスが繋がりすぎていて、彼女の快感が俺にもフィードバックしてくるのだ。
「……くっ、アリア。少し出力を絞れ。俺までおかしくなる」
「ふふっ、一緒におかしくなりましょう? ……もう、戻れないんですから」
プツン。
何かが切れる音がした。
三人のヒロインの理性が、同時に崩壊した音だった。
「……許せません」
シャルロットが立ち上がった。その背後に、王家の亡霊のようなどす黒いオーラが立ち昇る。
「私だけ置いてけぼりなんて……そんなの、あんまりですわ!!」
「ズルいズルいズルい!!」
ミリムがテーブルをひっくり返した。
皿や料理が宙を舞うが、誰も気にしない。
「私も! 私も師匠にグチャグチャにされたい!!」
「ご主人様ぁぁぁ!! 私の中も! 私の中も掃除してくださいぃぃ!!」
エリスが涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、俺に飛びかかってきた。
「ちょ、お前ら、落ち着け!?」
「落ち着けません! アリアだけあんなに気持ちよくなって! あんな顔して! 私だって……私だって師匠色に染まりたいんですの!!」
シャルロットが俺の左腕にしがみつき、爪を立てる。
ミリムが右足に噛みつく。
エリスが背中から羽交い締めにする。
全員の目が、狂気に染まっていた。
「やって! 今すぐやって! 私の回路も焼き切れるくらい、師匠のを注ぎ込んで!」
「壊れてもいいです! アリアさんより深く! もっと深く!」
「……師匠。大変ですね」
元凶であるアリアは、俺の膝の上でくすくすと笑っていた。
余裕の笑みだ。
「でも、無駄ですよ。……師匠の『一番』は、もう埋まっていますから」
彼女は俺の唇を、三人の前で見せつけるように塞いだ。
チュッ、と濃厚な音が響く。
「……ああっ!!!」
「きぃぃぃぃぃ!!」
「うわぁぁぁぁん!!」
絶叫が響き渡る。
嫉妬と羨望と劣情が渦巻く、カオスな朝。
俺の平穏な隠居生活は、完全に崩壊した。
ここにあるのは、ただの「ヴィクトル争奪戦(殺し合い)」だけだった。
「アリア最高」「他ヒロインの曇らせ具合が良い」
と思っていただけたら、
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