第四話 「魔力測定器が爆発したので、弁償かと思ったら国を救うことになった」
冒険者ギルド『銀の翼』テラ支部。
そこは、荒くれ者たちが酒を飲み交わし、依頼の奪い合いをする騒がしい場所だ。
だが、今は水を打ったように静まり返っていた。
原因は、カウンターに置かれた「魔力測定水晶」――の残骸だ。
「……あの、お客様?」
「すまん。壊すつもりはなかったんだが」
俺は受付嬢に頭を下げた。
隣では、新しいローブに身を包んだアリアが、涙目でおろおろしている。
「ご、ごめんなさい師匠! 私、ちゃんと言いつけ通り『魔力出力1%』に絞ったんです! 本当です!」
「ああ、分かっている。きっとこの水晶の整備不良だろう。経年劣化で脆くなっていたに違いない」
俺はアリアを慰めた。
まさか、1%に絞って尚、Sランク冒険者の基準値を振り切るとは思わなかったのだ。
測定器の針が振り切れ、真っ赤に発光した挙句、パァァァン! と粉砕したあの光景は、なかなかにシュールだった。
「……せ、整備不良……?」
受付嬢が引きつった笑顔で呟く。
周囲の冒険者たちは、恐怖で顔面蒼白になっていた。
「おい、今の見たか?」
「ああ……あの子、水晶に触れた瞬間、ギルド全体が揺れたぞ」
「魔力測定不能なんて初めて見た……」
ひそひそ話が聞こえてくる。
まずいな。目立ってしまった。
俺はあくまで「Eランクの地味なデバフ使い」として、平穏に暮らしたいのだが。
「弁償金はいくらだ? 手持ちは少ないが……」
「い、いえ! お金の問題では……少々お待ちください! ギルドマスターをお呼びします!」
受付嬢は慌てて奥へ駆け込んでいった。
数分後。
ドタドタという足音と共に、筋肉隆々の初老の男が現れた。
この支部のギルドマスター、ガンダルだ。
「測定器をぶっ壊した規格外の魔法使いはどいつだ!?」
「……俺の弟子だが」
「ヴィクトルか! お前、いつの間にこんな化け物を拾ってきた!?」
ガンダルは俺の顔を見るなり、詰め寄ってきた。
顔見知りだが、ここまで焦っている彼は初めて見る。
「化け物とは失礼な。アリアは優秀な生徒だ。少し加減が苦手なだけでな」
「加減の問題じゃねぇ! あれは王都の本部にある『聖水晶』と同じ強度だぞ!? それを指一本で粉砕だと!?」
ガンダルは荒い息を吐き、周囲を見回してから声を潜めた。
「……ちょうどいい。ヴィクトル、お前に頼みたいことがある。いや、お前のその弟子に、だ」
「依頼か? 悪いが、アリアはまだ新人登録も済んでいない」
「ランクなんて関係ねぇ! これは『緊急クエスト(エマージェンシー)』だ!」
ガンダルはカウンターに一枚の依頼書を叩きつけた。
そこには、血のような赤文字でこう書かれていた。
【討伐対象:古の災厄竜】
【推奨ランク:SSS】
【報酬:金貨1000枚、および爵位】
「……おい、正気か?」
俺は眉をひそめた。
災厄竜といえば、神話級の怪物だ。
一息で国を滅ぼすとされる伝説のドラゴンが、なぜこんな辺境に?
「昨日、北の山脈で目撃情報があった。王都からの援軍を待っていたら、この街は火の海だ。だが、今のこの街にSランク以上の冒険者はいない」
「勇者パーティが帰ってきたはずだが?」
「あいつらか! 『装備のメンテナンスがある』とか言って、速攻で逃げ出しやがったよ!」
(……あいつら、俺がいなくなってから本当に駄目だな)
俺は呆れた。
スライムに苦戦する実力だ。ドラゴン相手なら、秒で炭になるのがオチだろう。逃げたのはある意味で賢明(合理的)だ。
「頼む、ヴィクトル! お前のその『奇妙なデバフ』と、その嬢ちゃんの『破壊力』があれば、万が一にも勝機があるかもしれん!」
ガンダルが頭を下げる。
プライドの高い彼がここまで必死になるとは。
俺はチラリとアリアを見た。
「どうする? アリア。実践訓練には少々荷が重いかもしれんが」
「師匠がやれとおっしゃるなら、神でも殺してみせます」
アリアは即答した。
その瞳に迷いはない。というか、殺る気満々だ。
「報酬も悪くない。金貨1000枚あれば、当面の研究費とアリアの生活費には困らないな」
合理的だ。
俺は頷いた。
「分かった。引き受けよう」
「お、おお! 恩に着る! だが相手は伝説のドラゴンだぞ? 準備期間は……」
「いらん。今すぐ行く」
「は?」
「善は急げだ。アリア、行くぞ」
「はいっ!」
俺たちは呆気に取られるギルドの連中を背に、出口へと向かった。
災厄竜?
まあ、俺の『絶対浸食』にかかれば、トカゲも同然だ。
問題は、アリアがまた地形を変えないように調整することくらいか。
◇
北の山脈。頂上付近。
そこには、絶望が具現化したような巨体が鎮座していた。
全長100メートルを超える黒き鱗。
口からは溶岩のような炎を垂れ流し、その咆哮だけで雲を吹き飛ばす。
『GROOOOOOOOOOOAAAAAAA!!』
災厄竜が俺たちに気づき、咆哮を上げた。
普通の人間なら、この威圧感だけで心臓が止まるだろう。
「……大きいですね、師匠」
「ああ、的が大きくて助かるな」
俺は平然と言い放ち、右手をかざした。
さあ、授業の時間だ。
――『全ステータス・ロック』『数値改変:ALL 1』
俺の固有魔法が、神話の怪物を「ただの大きなトカゲ」へと書き換える。
勝負は、始まる前に終わっていた。
お読みいただきありがとうございます!
ついに次回、ドラゴン戦(という名の虐殺)です。
勇者たちが逃げ出した相手を、師弟がどう料理するのか?
そして、アリアの「やりすぎ」伝説がまた一つ……。
「続きが気になる!」「師匠つえええ!」
と思っていただけたら、
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