第三十七話 「ポチが庭から『超古代文明』を掘り当てたが、管理AIがポンコツすぎて5分で制圧した」
ある晴れた昼下がり。
ポチが庭で、狂ったように穴を掘っていた。
「ワンッ! ワンッ!(ここ掘れワンワン!)」
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ!
凄まじい速度で土が掻き出され、裏庭があっという間にクレーターと化していく。
「……おいポチ。そこは家庭菜園にする予定の場所だぞ」
俺が止めようとした瞬間。
ガキンッ!!
鈍い金属音が響いた。
ポチが掘り当てたのは、ただの石ではなかった。
銀色に輝く、幾何学模様が刻まれた「金属製のハッチ」だった。
「……なんだこれ?」
俺が覗き込むと、ハッチの表面に光が走り、機械的な音声が流れた。
『――生体認証スキャン開始。……エラー。未登録のDNAです。……再スキャン。……権限レベル:測定不能。……ええい、面倒くさい! 開けちゃえ!』
プシュウゥゥゥン!
ハッチが勝手に開いた。
セキュリティ意識が低すぎる。
「……師匠。とてつもなく古い、けれど高度な魔力を感じます」
アリアが警戒しながら杖を構える。
シャルロットも目を輝かせて駆け寄ってきた。
「こ、これは『ロスト・テクノロジー』!? 古代魔法文明の遺跡ですわ! こんなものが庭の地下に埋まっているなんて!」
「入ってみるか。ポチ、先導しろ」
「ワンッ!(お宝の匂い!)」
◇
地下に広がっていたのは、青白い光ラインが走る広大な空間だった。
壁も床も、継ぎ目のない未知の金属でできている。
まるでSF映画のセットだ。
「……すごい。魔法というより、科学だな」
俺は壁に浮かぶ文字を見た。
一般人には解読不能な古代文字だが、俺の目には馴染み深いものに見えた。
System.out.println("Welcome to Eden");
if (intruder) { execute_defense_mode(); }
「……Javaか?」
いや、似ているが独自の言語だ。だが、構造は俺の使う『術式記述』と酷似している。
俺の力が「異質」とされる理由が、少し分かった気がした。俺の魔法は、この失われた文明の技術体系に近いのだ。
その時。
部屋の中央にある祭壇のようなコンソールから、ホログラムが投影された。
『よーこそ、侵入者諸君! ボクはこの施設の管理AI、「オメガ」ちゃんダヨ!』
現れたのは、半透明の少女だった。
ツインテールに、未来的なボディスーツ。
だが、その映像はノイズ交じりで、時折フリーズしていた。
「AI……? 人工精霊のことかしら?」
シャルロットが首を傾げる。
『あー、もう! 5000年もスリープしてたから身体がバキバキだよー! ……って、お前ら誰? ユーザー登録してないよね? 不法侵入だよね?』
オメガちゃん(自称)がジロリと俺たちを睨んだ。
『排除します! 古代兵器「ジェノサイド・ゴーレム」起動! あーはっはっは! 塵になれー!』
ゴゴゴゴゴ……!
床が割れ、巨大な機影が競り上がってくる――はずだった。
ガガガガッ……プスン。
何かが詰まったような音がして、床が半分開いたところで停止した。
中から、錆びついた鉄屑の塊が、ゴロンと転がり落ちてきた。
『……あれ?』
オメガちゃんが固まる。
「……これがジェノサイド・ゴーレムか?」
『う、嘘だ!? 整備ログ参照! ……最終メンテナンス:4999年前!? サボりすぎでしょ過去のボク!』
オメガちゃんが頭を抱える。
『え、えっと……じゃあプランB! 「対人レーザー防御システム」起動! 黒焦げになっちゃえー!』
天井の砲門が俺たちを狙う。
キュイィィィン……
ボシュッ。
煙が出ただけで終わった。
『エネルギー残量……0.02%!? 充電し忘れてたぁぁぁ!』
オメガちゃんが泣き崩れた。
『もう嫌だぁぁぁ! ポンコツだと思われたくないぃぃ! ボクは超高性能AIなのにぃぃ!』
「……見ていられないな」
俺はコンソールに近づいた。
キーボード(のような入力装置)に手を置く。
『ひっ!? な、何をする気!? ボクのソースコードを弄るつもり!? やめて! そこはデリケートゾーン(核心領域)なの!』
「うるさい。バグだらけだぞ、お前」
俺は高速で指を走らせた。
――【システム解析:開始】
――【デバッグモード:強制起動】
空中に無数のウィンドウが開く。
そこには、スパゲッティのように絡まり合った汚いコードが表示されていた。
「なんだこの記述は。if文のネストが深すぎる。メモリリークしてるぞ。無限ループの処理も甘い」
俺は赤ペン先生のごとく、次々と修正を行っていく。
『あ、ああっ……! そんなところまで……! すごい……処理速度が上がっていく……! 身体が……軽くなるぅぅぅ!』
オメガちゃんのホログラムが、鮮明になっていく。ノイズが消え、高解像度の美少女になった。
「ついでに、管理者権限を俺に書き換えておく」
――【ユーザー登録:ヴィクトル】
――【権限:マスター】
カチッ。
エンターキーを押した瞬間、室内の照明が赤から緑に変わった。
『……システム、オールグリーン。再起動完了』
オメガちゃんがスッと立ち上がり、深々と頭を下げた。
『マスター。メンテナンスありがとうございます。貴方様こそ、ボクが待ち望んでいた「真の管理者」です。……一生ついていきます!』
「いや、一生はいらん」
『そんなぁ! 捨てないでください! ボク、計算とか得意ですよ! 天気予報とかできますよ! あと、昔のゲームとか入ってますよ!』
「ゲーム?」
俺が反応すると、オメガちゃんはドヤ顔で言った。
『はい! この施設は、古代文明人が娯楽のために作った「超体感型VRアミューズメント施設」ですから!』
「……は?」
シャルロットが口をポカーンと開けた。
「兵器工場じゃないの? 世界を滅ぼす禁断の叡智は?」
『そんな物騒なものありませんよー。ここにあるのは、5000年前の最新ゲーム「ドラゴン討伐クエスト(VR版)」とか、「アイドル育成シミュレーター」とかです!』
「……くだらなすぎる」
俺は呆れたが、ポチとミリムは目を輝かせた。
「ワンッ!(ドラゴン討伐!? やる!)」
「面白そうじゃない! 師匠、やりましょうよ!」
◇
数時間後。
俺たちは地下遺跡で、5000年前のレトロゲー(VR)に熱中していた。
『うりゃぁぁぁ! 死ねぇぇぇ!』
シャルロットがVR空間で、魔法を乱射してストレス発散している。
「……悪くない暇つぶしだ」
俺も久しぶりに童心に帰っていた。
オメガちゃんは、俺の肩にミニサイズで表示され、ナビゲートをしてくれている。
『右から敵が来ますよ、マスター! ……あ、そこはバグがあるから踏まないで!』
こうして、我が家に「超高性能ゲーム部屋(地下室)」と「ポンコツAI」が追加された。
古代の叡智は、俺たちの堕落した生活をさらに加速させることになったのだった。
「遺跡発掘、からのゲーセン化」
シリアスな古代文明の秘密かと思いきや、ただの娯楽施設でした。
ポンコツAIのオメガちゃんも加わり、ヴィクトル家はますます賑やか(カオス)になります。
ちなみに、オメガちゃんは屋敷の全家電(魔道具)とリンクして、スマートホーム化を進める予定です。
「オメガちゃん可愛い」「結局ゲームかよ!」
と思っていただけたら、
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