第三十六話 「元パーティが『復縁』を迫ってきたが、今カノ(?)たちが強すぎて戦力差が絶望的だった」
その日の午後、屋敷のリビングは、地獄のような静けさに包まれていた。
「……で? なんの用だ?」
俺はソファに深々と座り、目の前の集団を見下ろした。
薄汚れた鎧、傷だらけの剣、そして疲労困憊の顔。
かつて俺が所属していたSランク(自称)勇者パーティの面々だ。
「頼む、ヴィクトル! 戻ってきてくれ! お前がいないとダンジョンが進めないんだ!」
勇者アルドが、プライドをかなぐり捨てて土下座していた。
その後ろには、戦士と魔法使いも気まずそうに立っている。
「断る。俺は今、隠居生活を満喫している」
「そう言わずに! 報酬は弾む! ドロップアイテムの『一割』をやる!」
「前は『ゴミ拾い係だからゼロ』だったな。進歩はしたが、足りない」
俺が冷たく突き放すと、勇者は焦って横にいた少女を前に出した。
「み、見ろ! 新しい仲間もいるんだ! 聖女セシリアの代わりに加入した、アイドルヒーラーのリナちゃんだ!」
「はぁい☆ リナで〜す! 私の歌と踊りで、みんなを癒やしちゃうぞっ☆ キュルルンッ!」
フリフリの衣装を着た少女が、あざといポーズでウィンクした。
……頭が痛くなってきた。
「ヴィクトルさんだっけぇ? あたしぃ、攻撃魔法とか使えないけどぉ、応援は得意なのぉ! だからぁ、アンタが壁になって守ってくれたらぁ、たまにウィンクしてあげるぅ!」
リナが上から目線で言った。
どうやら、「自分は姫、俺は肉壁」という認識らしい。
「……帰れ。虫唾が走る」
「なによぉ! せっかく勧誘してあげてるのにぃ! あたしSランクよぉ!?」
その時。
背後の扉が、ギィィィ……と重々しく開いた。
「あら。懐かしい顔ぶれですね。どこのドブネズミかと思えば」
現れたのは、エプロン姿の聖女セシリアだった。
手には、さっきまで料理に使っていた肉切り包丁が握られている。
「セ、セシリア!? なんでここに!?」
勇者たちが驚愕する。
「貴様、教会に戻ったんじゃなかったのか!? しかも、なんだその所帯じみた格好は!」
「私は今、ヴィクトル様の専属メイド兼・二番弟子です。……ところでアルドさん。私の後釜が、その『お遊戯娘』ですか?」
セシリアの目が笑っていない。
リナがピキッと反応した。
「はぁ!? お遊戯ですってぇ!? あたしの【ラブリー・ヒール】は最強なんだから! あんたみたいな地味な聖女と一緒にしないでよね!」
「ほう。最強、ですか」
セシリアが包丁をテーブルに突き刺した。
「なら、比べてみましょうか? どちらの癒やしが『上』か」
空気が凍りついた。
さらに、屋敷の奥から続々とメンバーが集まってくる。
「……師匠。こいつら、埋めますか? 庭の肥料にちょうどいいかと」
アリアが杖を構え、勇者たちの足元を凍らせる。
「あーん? 私の師匠にたかろうなんて、百年早いのよ雑魚ども!」
ミリムが竜の瞳を発動させ、殺気を放つ。
「何ですの、この品のない連中は。……リナ? ああ、三流アイドルの。私の国では出入り禁止ですわよ?」
シャルロットが扇子で口元を隠し、冷ややかな視線を送る。
「ワンッ(餌だ!)」
ポチがよだれを垂らす。
勇者パーティが絶句した。
「こ、氷の魔女アリア!? それに、災厄竜の娘!? 第一王女まで!?」
彼らの顔色が青から白、そして土気色へと変わっていく。
自分たちが勧誘しようとしている男が、とんでもない化け物たち(美女含む)に囲まれていることを理解したらしい。
「ひぃぃっ……! な、なんだこの面子は……!?」
リナだけが状況を理解できず、震えながら叫んだ。
「な、なによあんたたち! 数が多いからって勝てると思わないでよね! あたしには勇者様たちがついてるんだから!」
「……勇者? ああ、その腰抜けのことか?」
俺は顎でしゃくった。
勇者アルドは、アリアの殺気だけで失禁寸前だった。
「ヴィ、ヴィクトル……お前、こんな化け物どもを従えて……魔王にでもなるつもりか……?」
「失礼な。俺は平穏を愛する一般市民だ」
俺は立ち上がった。
「お前たちが戻れと言うなら、条件を出そう」
「じょ、条件……?」
「この中の誰か一人でも倒せたら、戻ってやってもいい」
俺は背後の女性陣を指差した。
瞬間、彼女たちの目が肉食獣のように輝いた。
「はいはいはい! 私がやります! 物理で『癒やし』て差し上げますわ!」
セシリアが拳を鳴らす。
「いいえ、私が。氷像のコレクションが欲しかったところです」
アリアが一歩前に出る。
「全員まとめて燃やしてあげるわ!」
ミリムが炎を吐く。
「王家流の礼儀作法(魔法爆撃)を教えて差し上げますわ!」
シャルロットが杖を抜く。
勇者たちの顔から、完全に生気が消えた。
勝てるわけがない。
レベルが違う。次元が違う。
「ひ、ひぃぃぃぃ!! ごめんなさいぃぃぃ!!」
リナが最初に泣き出した。
「あたし帰るぅぅ! こんなの聞いてないぃぃ! ママぁぁぁ!」
「ま、待てリナちゃん! ……くそっ、覚えてろヴィクトル! 後悔させてやるからな!」
勇者は捨て台詞を吐き、仲間と共に脱兎のごとく逃げ出した。
……が。
「逃がしませんよ」
俺は指をパチンと鳴らした。
――【空間座標操作:ループ設定】
――【対象エリア:屋敷の玄関前】
勇者たちが玄関から飛び出す。
しかし、次の瞬間、彼らは裏口から「入って」きた。
「え? あれ?」
彼らはまた玄関に向かって走る。
そしてまた、裏口から戻ってくる。
「なんでだぁぁぁ! 出られないぃぃぃ!」
無限ループだ。
俺の演算で作った『終わらない回廊』。
「さて、みんな。ストレス解消の時間だ」
俺はコーヒーを飲みながら言った。
「手加減はしてやれよ。死なない程度にな」
「「「はいっ、師匠(ご主人様)!」」」
歓喜の声と共に、一方的な蹂躙(お仕置き)が始まった。
ドゴォォォォン!!
バキィィィッ!!
ギャァァァァ!!
勇者たちの断末魔と、リナの泣き叫ぶ声が屋敷に響き渡る。
セシリアの拳が勇者の顔面にめり込み、アリアの氷が戦士を凍らせ、ミリムの炎が魔法使いのアフロを焼き尽くす。
シャルロットは「おほほほ!」と高笑いしながら、リナにマナー講座(精神攻撃)を行っていた。
……数分後。
ボロ雑巾のようになった勇者一行が、庭に転がされていた。
「二度と来るな。次は『ポチのおやつ』にするぞ」
「は、はいぃぃぃ……!」
彼らは這いつくばって逃げていった。リナに至っては「アイドル辞めますぅ……」と呟いていた。
「ふぅ。スッキリしましたわ!」
セシリアが晴れやかな笑顔で汗を拭う。
彼女にとって、過去との決別(物理)が完了した瞬間だった。
「……しかし師匠。あんな弱小パーティにいたなんて、信じられませんね」
アリアが呆れたように言う。
「まあな。……だが、おかげでお前たちに会えた。それだけは感謝してるさ」
俺がボソッと言うと、四人の顔が一斉に赤くなった。
「……っ! も、もう! 師匠ったら!」
「狡いですよ、そういうの!」
照れ隠しに怒る彼女たちを見ながら、俺は苦笑した。
勇者パーティには悪いが、今の「パーティ」の方が、俺には合っているようだ。
「勇者一行、フルボッコ」
調子に乗っていた勇者たちが、最強女子ーズに成敗されました。
特にセシリアさんの拳が輝いていましたね。
これでもう、彼らが関わってくることはないでしょう(たぶん)。
「ざまぁスカッと!」「ヴィクトル一派強すぎw」
と思っていただけたら、
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