第二十九話 「宿が定員オーバーになったので、混浴と添い寝で解決(?)してみた」
限界だった。
俺の精神力も、宿のキャパシティも。
「ヴィクトルさぁぁぁん! もう勘弁してくださいよぉぉぉ!」
宿の主人が、カウンターで泣き崩れていた。
無理もない。
俺、アリア、ポチ。ここまではよかった。
そこに竜王の娘、魔王の息子(レオン・通い)、そして聖女が加わったのだ。
「毎日がお祭り騒ぎだ! 壁は凍るわ、天井は焦げるわ、廊下で悪霊が働いてるわ、風呂場から謎の讃美歌が聞こえるわ……! もう他の客が全員逃げちまったよ!」
「すまん。善処する」
俺は主人に金貨を数枚握らせ(口止め料)、自室に戻った。
「……師匠。やはり間引きが必要です。誰を始末しますか?」
部屋ではアリアが、真剣な顔で「殺人計画書」を作成していた。ターゲット欄にはミリムとセシリアの名前がある。
「やめろ。それより問題は今夜だ」
俺は狭くなった部屋を見渡した。
セシリアの荷物が運び込まれ、ミリムが勝手に持ち込んだ巨大なぬいぐるみ(ドラゴン型)が鎮座し、足の踏み場もない。
「部屋が足りない。今日はどうやって寝るつもりだ?」
「私は師匠のベッドで寝ます。当然の権利です」
「あら、抜け駆けは許さないわよ泥棒猫! 私はポチ様と一緒に寝るの! つまりポチ様が寝る場所=私の寝床よ!」
アリアとミリムが火花を散らす。
ポチは俺の枕元で「グゥ(ここが定位置)」と主張している。
「……はぁ。とりあえず、風呂に入って頭を冷やすか」
俺はタオルを手に取り、部屋を出た。
この宿には、時間帯で男女が入れ替わる大浴場がある。今はちょうど男湯の時間だ。
レオンは帰ったし、やっと一人になれる貴重な時間だ。
ガララッ……。
脱衣所の戸を開ける。誰もいない。完璧だ。
俺は服を脱ぎ、湯気が立ち込める浴室へと足を踏み入れた。
「ふぅ……」
広い湯船に浸かり、息を吐く。
日々の喧騒を忘れさせる、至福のひととき――。
ガララッ!!
背後の扉が、勢いよく開いた。
「失礼いたします! 師匠!」
「ブフッ!?」
俺はお湯を噴き出した。
湯気の中から現れたのは、バスタオルを一枚巻いただけの聖女セシリアだった。
濡れた金髪が肩にかかり、薄いタオルの上からでも分かる豊満な肢体が、湯気の中で艶かしく浮かび上がっている。
「な、何しに来た! ここは男湯だぞ!」
「はい! 存じております! ですが、弟子たるもの、師匠の背中を流すのは当然の務め! さあ、お体を清めさせてください!」
セシリアはタオルを握りしめ、目をキラキラさせて迫ってくる。
彼女に羞恥心はないのか。いや、あるはずだ。顔が赤い。だが、それ以上に「師匠への奉仕」という謎の使命感が勝っているらしい。
「来るな! 俺は一人で洗える!」
「ご遠慮なさらず! 教会の秘儀『聖女洗い』をご堪能ください!」
セシリアが湯船に入ってくる。
お湯で濡れたバスタオルが肌に張り付き、体のラインが露わになる。
ドォォォン!!
さらに扉が蹴破られた。
「ポチ様ー! 一緒に入りましょー!」
ミリムだ。
彼女は――何も着ていなかった。
古竜だから人間の常識が通じないのか、生まれたままの姿で堂々と仁王立ちしている。未発達ながらも形の良い体が、湯気に晒される。
「……チッ。害虫どもが。師匠の視界を汚さないでください」
続いてアリアが入ってきた。
彼女は辛うじて湯浴み着を着ているが、その表情は絶対零度。手には氷の剣が握られている。風呂場で凶器はやめろ。
「お、お前ら……! 全員出て行け!」
俺は湯船の隅に縮こまり、タオルで前を隠した。
だが、女たちは止まらない。
「師匠! 背中を!」(セシリアが密着してくる)
「ポチ様どこー!?」(ミリムが湯船で泳ぎ始める)
「離れなさい売女! 師匠の半径1メートル以内は私の聖域です!」(アリアが氷魔法を放つ)
カッキィィィン!
湯船の一部が凍りついた。
「きゃあっ! 冷たい!」
「何すんのよ! ここ風呂場よ!?」
大パニックだ。
湯気が視界を遮る中、柔らかい何かが俺の腕に当たったり、誰かの足が俺の腹に乗ったり。
視覚的にも触覚的にも、情報量が多すぎる。
「ええい、静まれ!」
俺は指を鳴らした。
――【システムコマンド:強制転移】
――【対象:俺以外】
――【転送先:脱衣所】
シュンッ。
一瞬で静寂が戻った。
湯船には俺と、ぷかぷかと浮いているアヒルのおもちゃ(ポチが遊んでいたやつ)だけが残された。
「……疲れた」
俺は深くため息をつき、のぼせる前に風呂を出た。
◇
だが、地獄はこれで終わりではなかった。
部屋に戻ると、そこは戦場だった。
「ここは私が寝る場所です!」
「嫌よ! ポチ様の隣は私!」
「師匠の足元は私の定位置です!」
狭い部屋で、三人が場所取り合戦をしていた。
「……もう好きにしろ」
俺は抵抗を諦め、ベッドの端っこに倒れ込んだ。
すぐに意識が遠のく。
……数時間後。
「ん……重い……」
「暑い……」
深夜、俺は息苦しさで目を覚ました。
体が動かせない。金縛りか?
薄目を開けると、月の光が部屋を照らしていた。
右腕が重い。見ると、アリアが俺の腕を抱き枕にして、スヤスヤと寝息を立てていた。普段のクールさはどこへやら、少し口が開いていて可愛い。
左側が暑い。ミリムだ。彼女は俺の腹の上に半分乗り上げ、ポチ(俺の胸の上で寝ている)に抱きつこうとして、間違えて俺に抱きついていた。寝相が悪すぎる。
そして、足元。
何か柔らかいものが当たっている。セシリアだ。彼女はベッドの端で丸くなり、俺の足に頬擦りしながら寝言を言っていた。
「むにゃ……師匠……もっと物理で……癒やして……」
どんな夢を見ているんだ。
シングルベッドに、男一人と美少女三人(+竜一匹)。
完全にキャパシティオーバーだ。
少女たちの体温と、甘い匂い、そして柔らかい感触が、四方八方から俺を包囲している。
「……これ、何の修行だ?」
俺は天井を見上げた。
動けば誰かを起こしてしまう。トイレにも行けない。
これは、ある種の拷問ではないだろうか。
「……はぁ。やっぱり、広い家が必要だな」
俺は少女たちの重みと温もり(と少しの理性の危機)に耐えながら、強くそう決意した。
明日は絶対に、新居を探しに行こう。
初めての「ちょいエッチ」回でした。
混浴ハプニングからの、すし詰め添い寝。
ヴィクトル師匠の理性と、宿の床が限界を迎えました。
「役得すぎるだろ師匠!」「アリアの寝顔かわいい」
と思っていただけたら、
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