表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/74

第二十五話 「勇者『俺たちは最強だ!』 俺『それはバフのおかげだ』 ポチ『ワンッ!』」



 宿の玄関前。

 そこには、かつて大陸最強と謳われた勇者ライオットが、額を地面に擦り付けていた。


「頼む! ヴィクトル! 戻ってきてくれぇぇぇ!」


 その姿は、あまりにも哀れだった。

 輝いていた聖鎧は泥とすすで汚れ、かつての覇気は見る影もない。後ろに控える新しいパーティメンバー(僧侶と魔法使い)も、疲労困憊で死んだ魚のような目をしている。


「……お断りだ」


 俺は即答し、扉を閉めようとした。


「ま、待て! 話を聞いてくれ!」


 ライオットが扉の隙間に足をねじ込んでくる。


「今の俺たちは不調なんだ! なぜか剣が重い! 敵の攻撃が痛い! 魔法が当たらない! これは全部、運が悪いだけなんだ!」


「運じゃない。実力だ」


 俺は冷たく言い放った。

 彼らは気づいていない。

 剣が軽かったのは俺の『重力軽減ウェイト・コントロール』のおかげ。

 痛くなかったのは『自動障壁オート・シールド』のおかげ。

 攻撃が当たっていたのは『必中付与エイム・アシスト』のおかげだということに。


「……師匠。見苦しいです。不法侵入者として氷漬けにして、生ゴミの日に出しましょうか?」


 アリアが絶対零度の視線を向ける。


「おい、そこな小娘! 口を慎め! 俺は選ばれし勇者だぞ!」


 ライオットが逆ギレした。

 すると、奥から優雅に紅茶を飲んでいたミリムが、クスクスと笑った。


「勇者? ああ、あの弱そうな人間のこと? あんなのが『最強』だなんて、人間のレベルも落ちたものね」


「な、なんだとぉ!? このチビ女!」


 ブチッ。

 ミリムのこめかみに青筋が浮かぶ。

 アリアの時と同じだ。地雷を踏み抜いたな、勇者よ。


「……ヴィクトル。このゴミ、掃除してもいい?」


「殺すなよ。掃除が面倒だ」


 俺が許可を出すと、ライオットは鼻で笑った。


「はっ! 女子供とトカゲしかいないパーティが、俺に勝てると思っているのか? 俺には聖剣エクスカリバーがあるんだぞ!」


 ライオットが腰の剣を抜く。

 だが、その剣先は震えていた。重くて支えきれないのだ。


「いいだろう。俺の力がどれほどのものか、思い出させてやる!」


 ライオットがミリムに斬りかかった。

 ――遅い。

 あくびが出るほど遅い。


「【デコピン】」


 パチンッ。


 ミリムが指を弾いた。

 ただそれだけの動作だ。

 だが、古竜の身体能力フィジカルは、人間の常識を超えている。


 ドゴォォォォン!!


「ぶべらっ!?」


 ライオットの体が砲弾のように吹き飛び、背後の塀を突き破って隣の家の庭まで転がっていった。


「……へ?」


 残されたパーティメンバーが凍りつく。


「あーあ。手加減したのに」


 ミリムがつまらなそうに手を払う。

 瓦礫の山から、ライオットがよろよろと這い出してきた。鎧がひしゃげ、顔面が腫れ上がっている。


「ば、馬鹿な……!? 俺の聖なる鎧が……一撃で……!?」


「当たり前でしょ。あんたの鎧、ただの鉄くずじゃない。強化魔法エンチャントがかかってないもの」


 ミリムが呆れたように言う。


「く、くそぉぉぉ! ならば、このトカゲだ! そのマヌケ面のペットなら勝てるはずだ!」


 ライオットは標的を変え、足元で昼寝をしていたポチに狙いを定めた。


「死ねぇぇぇ! 聖剣・閃光斬シャイニング・スラッシュ!」


 必殺の一撃。

 かつて魔王軍の将軍すら倒した(と勘違いしている)技だ。

 ポチの眉間に剣が振り下ろされる。


 ガキンッ!!


 金属音が響いた。

 ポチの頭が割れた――わけではない。

 ポチはあくびを噛み殺しながら、片方の前足(爪)で、聖剣の刃を受け止めていた。


「……は?」


 ライオットの動きが止まる。

 ポチは「ワンッ?(爪楊枝?)」と首を傾げ、爪に力を込めた。


 パキィィィィン!!


 聖剣エクスカリバーが、飴細工のように砕け散った。


「あ……あぁ……俺の……ローン30年払いの聖剣が……」


 ライオットが絶望のあまり膝をつく。

 ポチは砕けた刃の破片を拾い上げ、カリカリと食べ始めた。


「ワンッ!(鉄分!)」


「ひ、ひぃぃぃ! 聖剣を食ってるぅぅぅ!?」


 パーティメンバーたちが悲鳴を上げて逃げ出した。

 残されたのは、プライドも武器も粉々になった勇者だけだ。


「……なぜだ……なぜ俺はこんなに弱いんだ……! 俺は勇者だったはずだ……!」


 地面を叩いて泣くライオット。

 俺は彼を見下ろし、静かに告げた。


「お前が強かったんじゃない。俺が『強く見せていた』だけだ」


「な、なんだと……?」


「お前の攻撃力、防御力、敏捷性。すべて俺が常時50倍のバフをかけていた。お前はただ、俺という『補助輪』付きの自転車に乗って、速く走れると勘違いしていただけだ」


 俺は指をパチンと鳴らした。


 ――【視覚効果:可視化ビジュアライズ


 ライオットの周囲に、かつて俺が付与していたバフの履歴ログがホログラムのように表示される。

 その数、数千行。

 『筋力増強』『思考加速』『自動回復』『運命操作』……。


「これだけの支援を受けて負ける方が難しい。お前は、ただの『装備品』だったんだよ。俺のな」


「あ……あ、あぁ……」


 ライオットは理解したようだ。

 自分が英雄なのではなく、ヴィクトルという巨大なシステムの一部だったことを。


「もう二度と来るな。俺は忙しいんだ」


 俺はきびすを返した。


「ポチの散歩と、ミリムの餌やりと、アリアの授業があるからな」


 バタンッ。

 扉を閉める。

 外からは、勇者の慟哭だけがしばらく聞こえていたが、やがて衛兵に引きずられていく音がした。


「……師匠。スッキリしましたか?」


 アリアが新しい紅茶を淹れてくれる。


「ああ。せいせいした」


 これでようやく、過去との決別が完了した。

 俺はティーカップを受け取り、平和なリビングを見渡した。

 最強の弟子。

 伝説の古竜ペット

 竜王の娘(居候)。


 ……勇者パーティにいた頃より、今のパーティの方がよほど戦力が高い気がするのは、気のせいだろうか。


「さて、アリア。今日の授業を始めるぞ」


「はい、師匠!」


 俺たちの隠居生活(?)は、まだまだ続きそうだ。

「勇者、完全敗北」

バフなしの勇者なんて、ただの村人Aです。

ポチに聖剣を折られ(食べられ)、ミリムにデコピンされ、ヴィクトルに真実を突きつけられました。

ざまぁ完了です。


「勇者の勘違いが痛快!」「ポチ最強すぎる」

と思っていただけたら、

【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ