第二十四話 「王都の食糧危機を『ダンジョン産直バイキング』で解決してみた」
俺の目の前には、二つの山があった。
一つは、空っぽになった皿の山。
もう一つは、王都中のレストランから届いた請求書の山だ。
「……おい。これはどういうことだ」
俺が震える手で請求書の一枚(金貨500枚)をつまみ上げると、目の前の少女――古竜王の娘ミリムは、ナプキンで口を拭いながら優雅に微笑んだ。
「あら、ヴィクトル。ごちそうさま。人間界の料理って量は少ないけれど、味付けは悪くないわね」
悪びれる様子が微塵もない。
彼女の足元では、ポチがパンパンに膨れたお腹をさすりながら「ゲフッ」と満足げなゲップをしている。
「……師匠。計算しました。このままのペースでこいつらが食事を続けると、あと3日で師匠の貯金が尽きます。5日後には宿を売り払い、1週間後には私たちが路頭に迷います」
アリアが電卓(俺が作った魔道具)を叩きながら、冷徹な事実を告げる。
「ふん! 細かいことを気にしないの! 私は高貴なる竜姫よ? 食費くらい国が出せばいいじゃない!」
「お前は亡命してきた不法入国者だ。国が出すわけないだろ」
俺は頭を抱えた。
ミリムの食欲はブラックホールだ。
ポチだけなら魔物の肉や失敗した魔法薬(廃棄処分)で誤魔化せたが、このお姫様は「舌」が肥えている。
「肉! もっと上質な肉を持ってきなさい! 霜降りのA5ランクよ!」
ミリムがテーブルをバンバン叩く。
「……仕方ない」
俺は立ち上がった。
これ以上、俺の財布を削らせるわけにはいかない。
「行くぞ、お前ら。今日は『食べ放題』だ」
「本当!? ヴィクトル大好き!」
「ワンッ!(肉!)」
「……師匠? 目が笑っていませんが」
俺たちは王都を出て、北の山脈へと転移した。
◇
転移先は、通称『魔の樹海』。
高レベルの魔物が大量発生し、王都騎士団ですら立ち入りを禁じられている危険地帯だ。
「わあ、大自然! ここでピクニック?」
ミリムが呑気に周囲を見回す。
その時、茂みから体長5メートルの『キング・ボア(猪の王)』が飛び出してきた。
さらに空からは『ワイバーン』の群れが、地中からは『大百足』が襲いかかる。
「グルァァァァァッ!!」
殺気立った魔物の群れ。
だが、俺はエプロンを着け、巨大なフライパン(魔法加工済み)を取り出した。
「いらっしゃいませ。当店はセルフサービスの焼肉店だ」
俺は指を鳴らした。
――【広域支援:食材下処理】
シュパパパパッ!!
目に見えない斬撃が走り、襲いかかってきた魔物たちが一瞬で「一口サイズ」のブロック肉に解体された。
骨と皮は綺麗に取り除かれ、肉だけが空中に舞う。
「え?」
ミリムが目を丸くする。
――【広域支援:瞬間加熱】
――【味付け:秘伝のタレ(ガーリック醤油)】
ジュワァァァァァ!!
空中で肉が踊る。
絶妙な焼き加減で火が通り、香ばしい匂いが森中に充満した。
「さあ、食え。ここにある魔物は全部『食材』だ。金ならいらん。その代わり、この森の生態系が崩壊するまで食い尽くせ」
俺が宣言すると、ポチとミリムの目の色が変わった。
「わ、ワンッ!!(いただきまぁぁぁす!)」
「なんて野性的なバーベキュー……! いただきますわ!」
二匹(?)の猛獣が飛び出した。
ポチはワイバーンのステーキを空中でキャッチし、ミリムはキング・ボアの焼肉を優雅に、しかし猛烈な速度で口に運ぶ。
「美味しい! このタレ、絶品よ!」
「ハフハフ! ガツガツ!」
次々と現れる魔物たち。
だが、それらは俺の支援魔法によって、現れた瞬間に「調理」され、二人の胃袋へと消えていく。
「……師匠。これ、魔物討伐ですよね?」
アリアが呆れたように紅茶を飲んでいる。
「人聞きが悪いな。『屋外レストランの運営』だ」
俺は次々と肉を焼きながら答えた。
実はこの森、最近魔物が増えすぎて国が困っていたのだ。
騎士団が討伐すれば莫大な費用がかかるが、俺たちが「食事」として処理すれば、国から報奨金が出る。
つまり、食費が浮くどころか、プラスになる。
「おかわり! 次はあの大きな熊さんがいいわ!」
ミリムが指差したのは、森の主『タイラント・ベア』だった。
ベアは恐怖に顔を歪め、脱兎のごとく逃げ出そうとした。
「逃がすか。特上カルビだ」
――【空間固定】【瞬間調理】
数分後。
魔の樹海は、静寂に包まれた。
魔物は一匹残らず食い尽くされ、そこには満腹で動けなくなったミリムとポチ、そして大量の「素材(皮や牙など)」が転がっていた。
「うぅ……もう食べられない……」
「クゥーン……(幸せ……)」
二人は大の字になって寝転がっている。
「……師匠。計算しました。今回の魔物素材と、国からの討伐報奨金を合わせると、金貨5万枚の黒字です」
アリアが満足そうに頷く。
「よし。これで当分は安泰だな」
俺はエプロンを外した。
こうして、王都の食糧危機(と俺の財政破綻)は、魔の樹海の消滅という小さな犠牲と共に回避されたのだった。
◇
数日後。
王宮から表彰状が届いた。
『謎の料理人集団により、長年の脅威だった魔の樹海が壊滅。感謝状を贈る』
……どうやら、俺たちの正体はバレていないらしい。
平和な日常が戻ってきた。
そう思った矢先、宿の扉が激しく叩かれた。
「ヴィクトル! いるか!? 俺だ、勇者ライオットだ!」
扉の向こうから聞こえたのは、聞き覚えのある焦った声。
俺を追放した張本人、勇者ライオットだった。
「……居留守を使おう」
「賛成です」
「ワン(賛成)」
俺たちが息を潜めようとした瞬間。
「開けなさいよ! この元同僚が!」
ドォォォォン!!
ミリムが扉を蹴破った。
彼女は満腹で機嫌が良かったのだ。
「あら、お客様? 余ったお肉ならあるわよ?」
扉の前には、ボロボロの鎧を着て、ひどくやつれた勇者ライオットと、その後ろで気まずそうにしている聖女(代役)たちが立っていた。
「……ヴィクトル。頼む、戻ってきてくれ。お前がいないと……俺たちはもう、スライムにすら勝てないんだ……!」
勇者が土下座した。
俺、アリア、ポチ、ミリム。
全員の冷ややかな視線が、勇者に突き刺さった。
「食費がかかるなら、魔物を食えばいいじゃない」
ヴィクトル流・財政再建術でした。
ついに元凶である勇者が接触してきましたが、タイミングが悪すぎます。
「ざまぁ展開キタ!」「勇者の落ちぶれっぷりが最高」
と思っていただけたら、
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