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第二十一話 「ラスボスが『魔神を宿す筋肉』だったので、ペットのくしゃみで浄化してみた」



 武闘大会、決勝戦。

 中央闘技場は、異様な静寂に包まれていた。


 対峙するのは、俺たちと、大会主催者の老人――ゲンゾウ。

 彼は杖をつき、よぼよぼとした足取りでリングに上がった。


「ホッホッホ。ワシが直々に相手をするのは、五十年ぶりかのう」


 ゲンゾウが不敵に笑う。

 その背後には、禍々しい黒いオーラが立ち昇っていた。


「……師匠。あの爺さん、ただの老人じゃありません。体の中に『何か』飼っています」


 アリアが警戒する。

 彼女の腕の中では、ポチが真っ赤に発光しながら、苦しそうに唸っていた。


「キュ〜……(お腹パンパン……)」


 前回の試合で『拳聖』のオーラを食べ過ぎたせいだ。消化不良を起こしているらしい。

 時折、ポチの口から「ボフッ」と小さな炎が漏れている。


「おい爺さん。さっさと始めようぜ。うちのペットの機嫌が悪くてな」


「若造が、急ぐでない」


 ゲンゾウが杖を捨てた。

 次の瞬間、彼が羽織っていたローブが弾け飛んだ。


 バリィィィィン!!


「ぬんっ!!」


 現れたのは、老人の体ではなかった。

 身長三メートル。岩盤のような胸板。丸太のような腕。

 顔だけは老人だが、首から下はギリシャ彫刻を10倍マシマシにしたような、超・筋肉ダルマだった。


「ワシこそが『筋肉賢者マッスル・セージ』ゲンゾウ! そしてこの肉体こそが、古の魔神を封印せしケージじゃ!」


 会場がどよめく。

 観客たちは拝むように叫んだ。

 「おお! 大賢者様が本気を出された!」

 「筋肉万歳! 筋肉万歳!」


「……師匠。絵面が汚いです。吐き気がします」


 アリアが露骨に嫌な顔をする。


「同感だ。だが、あれが魔神の封印だとはな」


 俺はゲンゾウの肉体を解析スキャンした。

 なるほど。彼の筋肉繊維の一本一本に、高密度の封印術式が刻まれている。

 筋肉を極限まで鍛え上げることで、魔神の力を物理的に抑え込んでいるらしい。


「行くぞ若造! 魔神の力、味わうがよい! 【暗黒筋肉・破壊衝動ダークネス・マッスル・インパクト】!!」


 ゲンゾウが拳を振り下ろす。

 ただのパンチではない。魔神の瘴気を纏った、紫色の衝撃波が放たれた。


 ドゴォォォォン!!


 闘技場の地面が割れ、衝撃波が俺たちに迫る。


「……面倒だな」


 俺は指をパチンと鳴らした。


 ――【システムコマンド:物理防御・無効化スルー

 ――【レイヤー変更:物理次元→霊体次元】


 ヒュン。


 衝撃波は俺たちの体をすり抜け、背後の壁を粉砕した。


「なっ!? 避けたのではない……透けたじゃと!?」


 ゲンゾウが驚愕する。

 俺たちは今、幽霊のように物理干渉を受けない状態になっている。


「筋肉は素晴らしいが、次元の違う攻撃には無力だろ?」


「ぬぐぐ……! ならば、これならどうじゃ!」


 ゲンゾウが両腕をクロスさせ、筋肉をさらに膨張させた。


封印解除リミッター・カット! 魔神よ、我が肉体を喰らい、顕現せよ!」


 バキバキバキッ!


 ゲンゾウの背中の筋肉が裂け、そこから真っ黒な煙が噴き出した。

 煙は空中で凝固し、巨大な悪魔の姿を形作る。


『グオォォォォ……! 我は魔神ザルモス……! 久しぶりのシャバだ……!』


 現れたのは、伝説に語られる破壊の魔神。

 その邪悪なプレッシャーだけで、観客たちが次々と気絶していく。


「見よ! これが『古代竜の秘宝』の正体! この魔神を倒さねば、秘宝(封印の核)は手に入らんぞ!」


 ゲンゾウが高笑いする。

 魔神が俺たちを見下ろし、巨大な爪を振り上げた。


『人間よ、死ねぇぇぇ!』


「……師匠。魔神です。どうしましょう? 凍らせますか?」


 アリアが杖を構える。

 だが、俺は首を振った。


「いや、いい機会だ。ポチの消化不良を治してやろう」


 俺はアリアの腕の中で苦しんでいるポチを見た。

 ポチの顔色は最悪だ。

 「拳聖」のオーラを食べ過ぎて、エネルギーが暴発寸前になっている。


「ポチ。我慢しなくていいぞ。出しちまえ」


「……キュウ?」


 俺の許可が出た瞬間。

 ポチが大きく息を吸い込んだ。


 スゥゥゥゥゥ…………。


 周囲の空気が、ポチの小さな口に吸い込まれていく。

 魔神が「あん?」と動きを止めた。


『なんだそのトカゲは。……ん? この魔力反応は……まさか、竜……?』


 魔神が気づいた時には、もう遅かった。

 ポチの口の中で、食べたばかりの「龍王の気」と、本来の「災厄竜のブレス」が混合ミックスされ、臨界点を超えた。


 『ヘックチュウウウウウウウウッ!!!(くしゃみ)』


 ズドォォォォォォォォォォォン!!!!!


 それは、くしゃみというにはあまりにも凶悪な破壊光線だった。

 極太の熱線が、魔神の顔面を直撃した。


『ギャアアアアアアアアア!?』


 魔神の断末魔が響く。

 だが、それも一瞬。

 光線は魔神の体を分子レベルで分解し、そのまま背後のゲンゾウ、闘技場の壁、さらにその向こうの山脈まで貫いた。


 空に、巨大な風穴が開いた。


 シーン……。


 数秒後。

 土煙が晴れると、そこには何もなかった。

 魔神も、ゲンゾウの筋肉も、闘技場の半分も。

 全てが綺麗さっぱり消滅していた。


 残っていたのは、パンツ一丁で黒焦げになり、地面に大の字になっているゲンゾウだけだ。

 彼の自慢の筋肉は、エネルギー切れでシワシワのおじいちゃんに戻っていた。


「……わ、ワシの……筋肉が……」

「……スッキリした」


 ポチが鼻水をすすりながら、満足げに尻尾を振った。

 体の発光も収まり、元の可愛いトカゲに戻っている。


「師匠。汚いものが全て浄化されましたね」


 アリアが感心したように頷く。


「ああ。デトックス完了だ」


 俺は黒焦げのゲンゾウに歩み寄った。


「おい爺さん。魔神は消えたぞ。約束の『秘宝』とやらを貰おうか」


「……も、持っていけ……。バケモノめ……」


 ゲンゾウが震える手で懐から出したのは、虹色に輝く奇妙な『骨』だった。


「これは……『古代竜の牙』か?」


「そうじゃ……それを煎じて飲むと、筋肉が100倍になると言われておる……」


 なるほど。筋肉増強剤の元ネタか。

 俺がそれを手に取ると、ポチが「ワンッ!(おしゃぶり!)」と反応した。


「……どうやら、こいつの歯固めにちょうど良さそうだ」


 俺はポチに牙を投げ渡した。

 ポチは嬉しそうにガリガリと齧り始めた。

 伝説の秘宝が、ただの犬(竜)のおもちゃになった瞬間だった。


 こうして。

 俺たちは武闘大会を制覇し(主にポチのくしゃみで)、秘宝を手に入れた。

 筋肉の国アギトには、新たな伝説が刻まれた。

 『筋肉よりも、くしゃみが強い』と。


   ◇


 宿に戻った夜。

 俺たちは戦利品を整理していた。

 すると、窓の外からフクロウ便が飛んできた。


「また手紙ですか?」


 アリアが封を開ける。

 中に入っていたのは、黒い封筒と、一枚のカード。

 そこには、不気味な髑髏ドクロのマークが描かれていた。


死霊術師ネクロマンサー協会より、ヴィクトル殿へ。 貴殿の魂の輝きに魅入られました。 我が国の「百鬼夜行祭」にお招きします。 ――拒否権はありません』


「……今度はオカルトかよ」


 俺はため息をついた。

 どうやら、俺の休日はまだまだ訪れないらしい。

ラスボス(筋肉)、ペットのくしゃみでワンパン。

魔神もろとも消し飛びました。

ポチの消化不良も治って何よりです。


「くしゃみ最強w」「秘宝がおしゃぶりw」

と思っていただけたら、

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