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第十九話 「『魔法無効』の鎧を着た敵が現れたので、物理法則で遊んでみた」



 武闘大会、本戦第一回戦。

 会場のコロシアムは、異様な殺気に包まれていた。


「殺せー! 魔法使いを殺せー!」

「卑怯な手品野郎を叩き潰せ!」


 観客席の筋肉モリモリのマッチョたちが、口々に俺への呪詛を吐いている。

 どうやら、予選での「岩を指一本で持ち上げた」件が、余計に彼らのプライドを刺激してしまったらしい。


「……師匠。観客がうるさいです。全員、氷漬けにしましょうか?」


 アリアが観客席に向けて杖を構える。


「待て。今は試合中だ。それに、相手を見ろ」


 俺はフィールドの向こう側を指差した。

 そこには、全身を黒く濁った金属鎧で覆った巨漢が立っていた。

 歩くたびにズシン、ズシンと地面が揺れる。


「ガハハハ! 俺様が第一回戦の相手、処刑人ガガンだ!」


 ガガンが大剣を担いで笑う。

 その鎧からは、魔力を拒絶する独特の波動が出ていた。


「見ろ、この鎧を! これは『魔封石アンチ・マジック・ストーン』を削り出して作った特注品だ! あらゆる魔法を無効化し、吸収する!」


 ガガンが得意げに鎧を叩いた。


「つまり、貴様の貧弱なファイアボールも、その小娘の氷魔法も、俺様には一切通じないということだ! どうだ、絶望したか!?」


 なるほど。

 魔法使いにとっては天敵のような相手だ。

 魔力による直接干渉ができないため、普通の魔術師なら逃げ回るしかないだろう。


「……師匠。私の氷の刃も、あの鎧に触れると霧散してしまいます。物理的に殴るしかありません」


 アリアが悔しそうに唇を噛む。


「ふむ。合理的だな」


 俺は冷静に頷いた。


「だが、魔法が効かないなら『環境』を変えればいいだけだ」


「環境、ですか?」


「ああ。奴自身には干渉できなくても、奴が立っている『地面』は魔法無効じゃないからな」


 俺はニヤリと笑い、ガガンに向かって一歩踏み出した。


「おい、鉄クズ。自慢の鎧だが、重くないか?」


「重い? バカめ! この重量こそが破壊力を生むのだ! 貴様のようなヒョロガリには分かるまい!」


 ガガンが猛然とダッシュした。

 重戦車のような突進だ。直撃すればミンチになる。


「死ねぇぇぇっ!!」


 俺は棒立ちのまま、指先を地面に向けた。


 ――【領域指定:半径10メートル】【物理定数変更】

 ――【摩擦係数(μ)=0.0000】


 カチッ。


 世界の設定が書き換わった。


「うおぉぉ……ん?」


 ガガンが踏み込んだ足が、ツルッと滑った。

 いや、滑ったどころではない。

 氷の上など比較にならない。「摩擦」という概念が消滅した地面の上で、彼の足はグリップを完全に失った。


 ズデッ!!


「ぶべらっ!?」


 ガガンが派手に転倒する。

 だが、摩擦がないため、転んだ勢いは止まらない。

 彼は仰向けになったまま、ものすごいスピードで地面を滑走し始めた。


 シューーーーーッ!!


「な、なんだ!? 止まれねぇぇ!?」


 ガガンはそのまま俺の横を通り過ぎ、背後の壁に向かって一直線に滑っていく。


「おいおい、どこへ行くんだ?」


「ふ、ふざけるな! なんだこの床は! ヌルヌルしやがって!」


 ガガンが必死に手足でブレーキをかけようとするが、手も足も空回りするだけだ。

 亀がひっくり返ったように手足をバタつかせながら、彼は壁に激突した。


 ガォンッ!!


「ぐっ……!」


 だが、さすがは重装甲。ダメージは少ないようだ。

 ガガンは壁を蹴って立ち上がろうとした。


「おのれぇぇ! 小賢しいマネを!」


「まだだ。摩擦がないだけじゃつまらないな」


 俺はさらにコマンドを追加した。


 ――【追加設定:対象(鎧)】

 ――【反発係数(e)=2.0(超弾性)】


 これは「当たった時の跳ね返り具合」を決める数値だ。

 通常、1.0で完全に跳ね返る(スーパーボールくらい)。

 だが、2.0なら「ぶつかった衝撃の倍の速度で跳ね返る」ことになる。


「立て! 立つんだ俺様!」


 ガガンが壁に手をついて起き上がろうとした瞬間。


 バイィィィィン!!


「へ?」


 壁に触れた手が、爆発的な反発力で弾かれた。

 その勢いでガガンの体は砲弾のように射出され、反対側の壁へ飛んでいく。


「うわあああああ!?」


 ドォォォォン!!(反対の壁に激突)


 バイィィィィン!!(さらに加速して跳ね返る)


「ぎゃああああああ!」


 ドガァァァァン!!(床に激突)


 バイィィィィン!!(天井へ)


 ガガンは人間ピンボールと化した。

 壁、床、天井。あらゆる場所にぶつかるたびに速度を増し、高速で飛び回る黒い鉄球。

 コロシアムの中に、凄まじい轟音が響き渡る。


「な、なんだあれは!?」

「ガガン様が……飛んでいる!?」

「速すぎて見えねぇ!!」


 観客たちは口をあんぐりと開けて空を見上げた。


「た、助けてくれぇぇぇ! 目が回るぅぅぅ! ゲロ吐きそうだぁぁ!」


 鎧の中身は地獄だろう。

 俺は腕を組んで、その様子を眺めていた。


「……ふむ。エネルギー保存の法則を無視しているな。永久機関ができそうだ」


「師匠。楽しそうですね」


 アリアが呆れたように言う。


「だが、そろそろ飽きたな」


 俺は指を鳴らし、設定を解除した。


 ――【物理定数:リセット】


 ドサッ。


 空中で勢いを失ったガガンが、フィールドの中央に落下した。

 彼はピクピクと痙攣し、鎧の隙間からはリバースした何かが漏れ出していた。

 白目を剥いて気絶している。


「勝者、ヴィクトル!!」


 審判が震える声で宣言した。

 会場は静まり返り、やがて恐怖のざわめきが変わった。


「……あいつ、魔法使ってねぇぞ?」

「指を鳴らしただけで、ガガン様が自滅した……」

「呪いだ……あれは呪術師だ……!」


 どうやら、新たな誤解が生まれたようだ。


「……師匠。あの鎧、高そうでしたけど、中身がシェイクされて使い物になりませんね」


「そうだな。回収してポチの鉄分補給にでもするか」


「ワンッ!(硬そうだからいらない)」


 ポチも拒否した。


 こうして、魔法無効の強敵(?)を物理演算で完封した俺たちは、準決勝へと駒を進めた。

 だが、その様子を高い場所から見つめる、一人の男の影があった。


「……ほう。面白い術を使う。あれが『古代の理』を操る者か」


 全身を赤い闘気で包んだ、この国の最強王者『拳聖』バング。

 彼がニヤリと笑い、その背後の空間が歪んだ

摩擦ゼロ+反発係数2倍=人間ピンボール。

魔法が効かないなら、物理で遊べばいいじゃない。

ヴィクトル師匠の教育的指導でした。


「物理演算強すぎw」「ガガンかわいそう」

と思っていただけたら、

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