表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/81

第十五話 「対抗戦の相手がSクラスの嫌味な貴族なんですが」



 王立魔術学院、中央闘技場。

 そこは、全校生徒と教職員、さらに貴族の見物人たちで埋め尽くされていた。


 今日は年に一度の『クラス対抗戦』。

 その第一試合が、学院最強のSクラスと、最底辺のFクラスの対決だとあって、会場は異様な熱気に包まれていた。


「おい見ろよ、Fクラスの連中だ」

「あいつら、昨日泥まみれで裏山から出てきたらしいぜ」

「どうせ瞬殺だろ。Sクラスのエリック様には勝てっこない」


 観客席からの嘲笑が降り注ぐ中、ライルたちFクラスの生徒が入場してきた。

 彼らの装備はボロボロの制服のみ。杖すら持っていない者もいる。

 だが、その目は死んだ魚のように濁りつつも、奇妙に据わっていた。


「……師匠。観客がうるさいです。凍らせて静かにさせましょうか?」


 特別席で観戦する俺の横で、アリアが不穏な提案をする。


「待て。今は生徒たちの晴れ舞台だ」


 俺は腕を組んでフィールドを見下ろした。

 対面に立つSクラスの集団は、煌びやかな特注のローブに身を包み、高級な杖を構えている。

 その中心にいるのが、Sクラスの首席、エリック・フォン・ローゼンバーグだ。


「やあ、ゴミ虫くんたち。昨日は裏山で泥遊びかい?」


 エリックが優雅に髪をかき上げながら、ライルを挑発した。


「棄権するなら今のうちだよ? 僕の魔法は加減が難しいからね。君たちみたいな『魔力1』のカスには、耐えられないかもしれないよ?」


 エリックの取り巻きたちがドッと笑う。

 しかし、ライルは無表情のまま、淡々と答えた。


「……ああ、そうだな。お前の魔法は凄そうだ」


「はんっ、怖気づいたか?」


「いや。……師匠(あの悪魔)の殺気に比べれば、お前の威圧なんて『そよ風』以下だなと思って」


 ライルの言葉に、Fクラス全員が深く頷いた。

 彼らにとっての恐怖の基準は、すでに「災害級ドラゴン」と「アリア」に更新されている。

 温室育ちのエリートの殺気など、赤子の夜泣きに等しい。


「……なんだと? この落ちこぼれがぁぁ!」


 エリックの顔が怒りで歪んだ。


「試合開始!」


 審判の合図と同時、エリックが杖を振り上げた。


「後悔させてやる! 極大火炎球ギガ・ファイアボール!!」


 詠唱破棄で放たれたのは、直径三メートルを超える巨大な火の玉だ。

 直撃すれば骨も残らない。


「死ねぇぇぇ!」


 轟音と共に火球がFクラスの陣地に着弾し――爆発した。

 会場がどよめく。


「やったか!?」

「さすがエリック様! 一撃だ!」


 土煙が舞い上がる。

 だが、煙が晴れた時、そこに死体はなかった。


「……え?」


 エリックが目を見開く。

 Fクラスの生徒たちは、全員無傷で立っていた。

 いや、正確には「立っていた」ではない。

 彼らは爆風のわずかな隙間、炎が届かない死角に、紙一重で身を滑り込ませていたのだ。


「お、おい……今、避けたのか……?」


「……遅い」


 ライルが呟いた。


「昨日のスライムの体当たりのほうが、出が早かったぞ」


「はぁ!?」


「それに、あのドラゴン(ポチ)の鼻息に比べれば、この程度の熱風……ぬるま湯だ」


 昨日の地獄の訓練。

 ステータス1の状態で、触れれば即死(溶解)するスライムの群れから、パンツ一丁で一時間逃げ続けた彼ら。

 その結果、彼らの『回避能力』と『動体視力』は、生存本能によって限界突破していた。


「ふざけるな! なら、これでどうだ!」


 Sクラスの生徒たちが一斉に魔法を放つ。

 氷の矢、風の刃、雷撃。

 嵐のような魔法の雨が降り注ぐ。


 だが、当たらない。

 Fクラスの生徒たちは、まるで川の中を泳ぐ魚のように、魔法の隙間をスルスルと抜け、前進してくる。


「な、なんだあいつら!? 気持ち悪い動きをしやがって!」

「当たらん! なぜ当たらんのだ!?」


 焦るSクラス。

 無駄撃ちを繰り返し、魔力が枯渇し始める。


 そして、ライルがエリックの懐に潜り込んだ。


「くっ! 近寄るな! 防御障壁シールド!」


 エリックが慌てて魔力障壁を展開する。

 Sランクの魔力で作られた壁は、中級魔法すら弾き返す鉄壁だ。

 魔力1のライルの攻撃など、通じるはずがない。


「無駄だ! お前の貧弱な魔力で、この壁が破れるものか!」


「ああ、破れないな。力押しなら」


 ライルは杖の先端を、障壁の表面に軽く触れさせた。

 コン。

 ただそれだけだ。

 だが、その一点は、障壁の魔力循環が最も集中し、かつ脆い『接合点』だった。


 昨日の訓練で叩き込まれた『観察眼』。

 スライムの核を見抜く集中力が、障壁のわずかなムラを見抜いていた。


 ――【魔力干渉:一点突破】


 パリンッ……!


 軽い音がして、エリックの自慢の障壁が粉々に砕け散った。


「な、なっ……!?」


 エリックが無防備になる。

 ライルはそのまま杖を突き出し――エリックの鳩尾みぞおちを突いた。

 筋力1の、ひ弱な突きだ。

 だが、呼吸のタイミング、重心の崩れ、全てが重なった瞬間の一撃は、人体の急所を的確に捉えた。


「う、ぐっ……!?」


 エリックが白目を剥き、崩れ落ちる。

 呼吸困難になり、地面に蹲った。


「……え?」


 会場が静まり返る。

 最強のSクラス首席が、魔法も使わない杖の一突きで倒された。


「そ、そんな……エリック様が負けた……?」

「嘘だろ……?」


 他のSクラスの生徒たちも、接近戦に持ち込まれ、関節を極められたり、足を払われて転ばされたりして、次々と無力化されていく。

 魔法に頼り切り、肉弾戦など想定していない彼らに、死線を潜り抜けた野良犬たちの動きは見切れなかった。


「勝者、Fクラス!!」


 審判が震える声で宣言した。


「やった……勝ったぞぉぉぉ!」

「俺たちがSクラスに勝った!」


 ライルたちが抱き合って喜ぶ。

 観客席は呆気にとられ、言葉を失っていた。


 俺は満足げに立ち上がった。


「……ふむ。合理的勝利だな」


「師匠。彼ら、まだステータス1のままですよね?」


 アリアが感心したように言う。


「ああ。解除し忘れていた」


 俺が指を鳴らすと、ライルたちの体に光が戻った。

 封印されていた本来の魔力と筋力が解放される。


 ドォォォォォォン!!


 その瞬間、ライルから凄まじい魔力の奔流が噴き出した。

 極限状態での魔力操作と、抑圧からの解放。

 それが、彼の潜在能力を一気に覚醒させたのだ。


「うおっ!? なんだこれ、力が溢れてくる……!」


 ライル自身も驚いている。

 今の彼なら、Sランク魔法すら使いこなせるだろう。


「……なるほど。これが師匠の狙いでしたか」


 アリアが納得顔で頷く。


「一度『無』を知ることで、『有』のありがたみと使い道を知る。……深いですね、師匠」


「いや、単にデバフ解除を忘れていただけだが」


「さすが師匠! 計算尽くですね!」


 こうして、Fクラスの下克上は成し遂げられた。

 翌日から、俺の授業には他クラスの生徒までが殺到し、「先生! 僕もステータス1にしてください!」と懇願してくる異常事態となった。

 ……マゾなのか、こいつらは。

ステータス1のまま、Sクラスを撃破。

「回避特化」と「急所攻撃」。

これぞ最強の育成術スパルタです。


「ざまぁ展開キタコレ!」「ライルくん成長した!」

と思っていただけたら、

【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ