第十二話 「師匠、古代の魔神が出てきましたが、ステータスが文字化けしてます」
それは、皇女リリアーナが押しかけてきてから三日後のことだった。
俺たちは宿のテラスで優雅なティータイムを過ごしていた。
天気は快晴。ポチは早朝の散歩(という名の近隣諸国への威嚇飛行)から帰ってきたばかりだ。
「師匠、ポチの様子が変です」
アリアが紅茶のカップを置いて、中庭を指差した。
見れば、全長10メートルの災厄竜が、なにやら縮こまって震えている。
その巨大な足の裏には、ボロボロになった石柱のようなものがへばりついていた。
「……ポチ。何をあちこち踏み荒らしてきたんだ?」
「クゥーン……」
ポチが申し訳なさそうに鳴く。
俺はため息をつき、その石柱を鑑定した。
【名称:封印の楔(古代級)】
【状態:破損】
【封印対象:終焉の魔神ゼギオン】
「……おい」
俺は思わずこめかみを押さえた。
どうやらポチは散歩中に、うっかり古代遺跡の封印を踏み抜いてしまったらしい。
しかも「終焉の魔神」とかいう、名前からしてヤバそうなやつの封印を。
ズズズズズズズッ……!!
その直後だった。
世界が揺れた。
空が紫色に染まり、禍々しい雷鳴が轟く。
「な、なにごとですか!?」
リリアーナが悲鳴を上げて俺の背中に隠れる。
アリアは即座に立ち上がり、創造魔法で巨大な氷の大槌を作り出した。
「師匠。害虫です。潰しましょう」
「待て。まずは様子見だ」
俺たちが空を見上げると、空間に亀裂が入り、そこから漆黒の霧が噴き出した。
霧は凝縮し、やがて一つの巨大な人型を形成する。
四本の腕、三つの目。そして全身から放たれる、生物を死滅させるような瘴気。
魔神ゼギオン。
数千年前、世界を半分滅ぼしたと言われる伝説の存在だ。
『……我は帰ってきた……!』
魔神の声が、直接脳内に響いてくる。
『忌々しい封印より数千年……。世界よ、恐怖せよ! 絶望せよ! 我こそが新たな支配者なり!』
魔神が手を掲げると、王都の上空に直径数キロの火球が出現した。
あれが落ちれば、国どころか大陸の一部が消滅する。
「ひぃぃっ! あんなの勝てませんわ!」
リリアーナが腰を抜かす。
だが、俺は冷静に魔神のステータスを確認していた。
――【鑑定】
【名前:ゼギオン】
【種族:魔神】
【HP:?????】
【MP:?????】
【攻撃力:?????】
「……ふむ」
俺は眉をひそめた。
ステータスが全て「?」で表示されている。
これは相手が強すぎるからではない。単に「データ形式が古すぎる」からだ。
数千年前の魔術体系と、現代の鑑定魔法では互換性がない。
いわば、最新のパソコンでフロッピーディスクを読み込もうとしているようなものだ。
「師匠、解析不能です。やはり物理で消し飛ばすのが合理的かと」
アリアが殺る気満々で氷槌を構える。
「いや、待て。パッチを当てればいい」
俺は指を鳴らした。
――【システム強制アップデート】【互換モード:現代規格】
ピロン。
俺の視界の中で、魔神のステータスが再計算される。
文字化けしていた数値が、現代の基準に変換されていく。
【名前:ゼギオン(旧式)】
【HP:530000】
【MP:120000】
【攻撃力:8500】
「……なんだ、大したことないな」
俺は鼻で笑った。
確かに数千年前なら最強だったかもしれない。
だが、魔法技術が進化した現代において、この数値は「Sランク冒険者の上位」程度だ。
ましてや、俺やアリア(規格外)の敵ではない。
『ぬぅ? なんだ今の光は……?』
魔神が首を傾げる。
俺はテラスから声を張り上げた。
「おい、そこの古臭いオッサン!」
『む? 貴様、我をオッサンと呼んだか? 我は神だぞ!』
「神だか何だか知らんが、時代遅れだ。その火球、燃費が悪すぎるぞ」
俺は指先を魔神に向けた。
――【旧式魔法無効化】【時代遅れの加護】
ブシュンッ……!
上空の巨大火球が、まるで線香花火のように儚く消え失せた。
『な、なにぃぃぃっ!? 我が最強の獄炎魔法が!?』
「構造が単純すぎるんだよ。セキュリティホールだらけだ」
俺はあくびを噛み殺しながら、アリアに合図した。
「アリア、やっていいぞ。ただし殺すな。ポチが壊した遺跡の代わりにする」
「はい! 分かりました師匠!」
アリアが嬉々として飛び出す。
彼女は空中で氷の大槌を振りかぶった。
「時代遅れの粗大ゴミは、処分します!」
『小娘ごときがぁぁぁ! 我の防御障壁は絶対……』
パァァァァンッ!!
軽快な音が響いた。
アリアの一撃は、魔神の自慢の障壁を紙のように破り、その土手っ腹を直撃した。
『ぐべらっ!?』
魔神ゼギオンは白目を剥き、キリモミ回転しながら中庭に墜落した。
ズドォォォン!!
ポチの隣に、新たなクレーターができる。
「……弱いですね」
アリアが着地し、埃を払った。
墜落した魔神は、ピクピクと痙攣している。
『馬鹿な……我は……終焉の……』
「はいはい。分かったから」
俺はクレーターの縁に立ち、魔神を見下ろした。
「お前、魔力だけは無駄に多いな。ちょうどいい、この宿の暖房設備が古くて困ってたんだ」
「え?」
リリアーナが目を丸くする。
「ヴィ、ヴィクトル様? まさか魔神を……?」
「ああ。魔力タンクとして再利用する。合理的だろう?」
俺は魔神の首根っこを掴み、強制契約魔法を発動した。
――【隷属契約:家電モード】
『や、やめろぉぉぉ! 我はプライド高き魔神……! 暖房になどなりたくないぃぃ!』
「却下だ。冬は暖房、夏は冷房になれ」
バチバチバチッ!
契約完了。
こうして、数千年ぶりに復活した「終焉の魔神」は、我が家の空調設備として第二の人生(神生)を歩むことになった。
「ふぅ。これで冬も快適ですね、師匠!」
「そうだな。ポチ、新しい友達ができてよかったな」
「ワンッ!」
ポチは嬉しそうに、小さくなった魔神(手のひらサイズに圧縮済み)を鼻先で転がして遊び始めた。
『解せぬ……』
魔神の嘆きは、誰にも届かなかった。
魔神、エアコンになる。
今回の敵は「OSが古すぎた」ために敗北しました。
ヴィクトル師匠にかかれば、神だろうが悪魔だろうが「便利な道具」です。
「魔神かわいそうw」「そのエアコン欲しい!」
と思っていただけたら、
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