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その頃、竜騎士団の中庭では、凄まじい騒ぎが起きていた。


「早く医者を呼べ!!」


「デルダ!聞こえるか!?もうすぐ医者が来る、頑張れっ!!」


叫び声が飛び交い、竜たちの嘶きと、血の匂いが入り混じる。


デルダはいつものように、一番槍として異形種の魔物へ真っ先に突っ込んでいった。

今日の魔物は小型で、空から見れば動きも鈍く、容易に見えた。


だが、それが油断だった。


ここ数日、連日のように魔物の出現報告が相次ぎ、誰もが焦っていた。

討伐を早く終わらせ、次に備えたいという焦りが判断の一瞬を奪ったのだ。


デルダが先頭で魔物に接触しようとした、その瞬間。


魔物が、飛んだ。


空を滑るように跳躍した異形種。

今まで誰も、飛ぶ魔物など見たことがなかった。

竜たちの反応が、わずかに遅れる。


デルダは自分の竜フェイを守ろうと咄嗟に飛び降り、剣を構えて魔物に斬りかかった。

だが、空中で空を支配する存在に人の身で敵うはずもない。


「ぐっ……!」


悲鳴とともに、デルダの体が宙を舞った。


腹から肩にかけて、魔物の太く鋭い爪が深々と切り裂いていた。

鮮血が飛び散り、地面に叩きつけられたデルダの体はぐったりと動かない。


次の瞬間、地上にいた別の魔物が彼に狙いを定める。

それを見たイーライは迷うことなく竜から飛び降り、地面に着地すると同時に魔物へ斬りかかった。


「デルダを守れ!!」


イーライのその声で、次は地上戦が始まった。

幸い、地上の魔物は飛翔していた個体とは種が違った。

イーライと他の騎士たちが協力し、どうにか殲滅することに成功する。


上空では、ブラッドとアクオスが息を合わせてデルダを切り裂いた魔物を追い詰め、ブラッドの鋭い風の刃が仕留めた。

魔物は耳障りな断末魔を上げながら地上へ真っ逆さまに落ちてゆく。


アクオスはそれを見届ける間もなく地上へ飛び下り、デルダの元へ走る。


「デルダは!?」


デルダの横でイーライは膝をつき様子を見ていたが、顔が青ざめている。

謎の魔物に触れた者は、専門医に見せるまで誰も触れてはならない。

かつてアクオス自身が苦しんだ、あの事件の教訓が今も徹底されていた。


「……危ないかもしれません。触れられないので血も止められない……一刻も早く、騎士団へ運びましょう!」


デルダは特製の布で包まれ、デルダの竜、フェイの背に慎重に乗せられた。

しかし、フェイは主の異変を感じ取ったのか、誰も見たことのない速さで空へと飛び立つ。

そのスピードに唯一並走できたのは、竜王のブラッドだけだった。


ほんの数分後、フェイはデルダを乗せて騎士団の中庭へ降下した。

ひとりの医師が駆け寄り、包まれた布をそっとはぎ取る。


医師だけではなく、アクオスはも思わず息を呑んだ。


つい先ほどまで血の気を失っていたデルダの顔は、いまや黒ずんだ痣に覆われていた。

その毒々しい色は、ただの出血ではない。


「こ、これは……アクオス様……毒です。しかも、相当強い毒のようです……ここまで進んでいると……」


「なんとかしろ!!!」


アクオスは思わず怒鳴った。

遅れて到着した騎士たちが次々と竜から飛び降り、デルダを囲む。

中庭に緊迫した空気が張りつめた。


「デルダ!!頼む!生きてくれっ!」


「デルダさん!」


医師は必死に血を止めようと、止血剤を傷口に塗り込んでいた。

しかし、デルダの腹からは大量の血が流れ続け、まったく止まる気配がない。


もう助からない。


その現実を悟りながらも、誰ひとりとして声を出せず、ただ拳を握りしめて見つめるしかなかった。

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