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アクオスが、静かに泣くヘーゼルを腕に抱く少し前ーーー。



魔物の元へ急ぐアクオスはブラッドに跨り、魔物の出没地点に差しかかったあたりで他の竜騎士たちと合流した。


だが、団員たちはすぐに異変に気づく。

いつも冷静沈着な団長の姿が、今宵はまるで別人のようだということに。


「……団長……?」


デルダは思わず息を呑んだ。


普段なら、指示を飛ばしながら全体を掌握して冷静に動くはずのアクオスが、言葉一つ発しない。

ただ魔物の唸り声のする方角を睨み、鬼気迫る表情で、ただ突き進む。


その背に宿る気迫は、竜すら震わせるほどで団員たちは誰一人、口を開けなかった。

ただ無言で、その背を追う。


やがて、黒い影が視界に飛び込む。

その時の竜騎士団は全員、その光景に苦い顔をした。


(くそっ、王都にまで魔物が現れるようになったか……)


側面の壁を突き破り、すでに建物の内部に潜り込んでいる。

瓦礫が崩れ落ちる音と、低く唸る声が夜気を震わせた。


「……異形種だ!中にいるぞ……!」


イーライが叫んだその時だった。


魔物に向かって突き進んでいたブラッドのスピードが、唐突に落ちた。

竜の背に立つアクオスが前を射抜くように見据えた。


「ヘーゼル嬢っ!!!」


雷鳴のようなアクオスの叫びが夜空を裂いた。

普段、決して感情を露わにしないアクオスの慌てた声に、竜騎士たちの心臓は一斉に跳ね上がる。


「……今、なんと……?」

「ヘーゼル嬢だと!?」


信じられない名前に、全員の顔が強張る。

だが疑う間もなくアクオスは竜の背から飛び降りながら魔物に一太刀入れ、一直線に建物の中へと走った。


竜騎士団の団員たちは慌てて後を追い、次々と下降態勢に入った。


デルダは、下降の最中にちらりと目に入った下界の光景に、思わず息を呑む。

焼け焦げた地面、崩れかけた建物、そして……アクオスが駆け寄っていく先の小さな影。


(……まずい……)


背筋を走る戦慄を、彼は即座に断ち切った。

今は動揺している場合ではない。


竜から地上へ飛び降りながら急先鋒で突き進むアクオスの背を視界に捉え、デルダは瞬時に状況を分析する。


(炎……!)


以前、似た性質の魔物と交戦した記憶が脳裏をよぎる。


「炎だ!」


デルダの叫びを合図に、炎を操る竜に騎乗した騎士たちが一斉に動いた。

竜の喉奥から噴き上がる灼熱の炎が、狙い定めて魔物へと放たれる。

さらに、その後方から、風を操る竜たちが羽ばたき、強烈な気流を生み出した。


炎は風に煽られ、うねり、渦を巻き、威力を増す。


四方から放たれた猛炎が、逃げ場を塞ぐように魔物へと襲いかかった。


轟音と共に炎の奔流が迸り、建物の中を赤々と染め上げた。

魔物は悲鳴をあげ、身をよじる。

熱風が吹き荒れ、空気が焦げる匂いがあたりを満たした。


「ギャァァァァァァァ!!!!!」


断末魔が建物全体を震わせ、闇の中に響き渡った。


竜騎士たちは竜に乗ったまま下界のその光景を見下ろし、炎の中でヘーゼルを腕に抱えるアクオスの姿を目にした。

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