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「空はいかがでしたか?」


ヘーゼルは顔を輝かせて答える。


「アクオス様……素晴らしかったです。思っていた何倍も早くて……もう、胸がいっぱいです……」


少しアクオスと話をしていると、竜たちは自分たちの目当てである竜の薬草の方へ歩き出した。どうやら、薬草を食べに行くようだ。


薬草園と竜の薬草は、父にお願いして決められた時間に決められた量の水を与えてもらっていたため、萎れていることはないようだ。

しかし、少し心配になったヘーゼルは、竜たちの後に続くように、竜の薬草の方へ歩みを進めた。


二頭の竜はまっすぐに竜の薬草へ向かう。

薬草に到着すると、もぐもぐと夢中で食べ始めた。


その様子を見たヘーゼルは嬉しそうに二頭を近くで観察する。

やはり二頭の竜は、ヘーゼルが枯れないように摘むのと同じ手法で、株の中でも一番若い茎を選び、二節目あたりを上に引っ張るようにして抜いて食べている。


(やっぱり竜は、この薬草のことを知っているんだわ……)


そう思いながら、ヘーゼルも早速、竜の薬草を摘みはじめた。


(竜騎士団の方は忙しいのだから、早く摘んでしまわないと!)


夢中で薬草を摘んでいると、竜の涎が飛んできた。どうやらよほど美味しいらしい。

薬草にかかったその飛沫は、涎と言っても水のように無色無臭で、ヘーゼルは「あとで洗えばいい」とあまり気にせずに作業を続けた。


その後、素早く薬草園に移動し、化粧品やハンドクリームに使う薬草も手早く摘み取る。

本当は父に顔を出すつもりだったが、竜騎士団の忙しさを思い出し、わがままは許されないと考え、すぐに帰ることにした。


薬草をある程度摘み終えると、ヘーゼルは急ぎ足でアクオスたちの元へ向かう。

竜たちは薬草を食べ終え、澄んだ湖の水を飲んでいるところだった。


「お待たせいたしました!すべて摘めましたので、いつでも帰れます!」


竜を見ていたアクオスは、ヘーゼルが走ってくるのを眩しそうに目を細めて見た。


「では、ガゼット子爵の邸に行こうか」


「え?いいえ!?大丈夫です。皆様、今日はとてもお忙しいと聞きました!私の用事は終わりましたし、もう帰りましょう」


そう言ってみたものの、アクオスは無視して歩き出す。


「ダミアン、カルビン、少しこちらで休んでいてくれ」


「はい、わかりました、団長」


ダミアンとカルビンは「一休みできるぞ!」と、嬉しそうに湖畔に腰を下ろし、自分たちの竜を眺めながら寛ぎ始めた。


「え?良いのですか?お忙しいのでは……」


「大丈夫です。今抜けているのは三人だけなので、特に問題ありません。あの二人も朝から忙しかったので、丁度良い休憩になるでしょう」


「そうですか……では……少しだけ父に顔を見せて、すぐに帰りますので……」


そう言ってヘーゼルも嬉しそうに笑った。


アクオスは自然とヘーゼルの邸に足が向く。以前訪れた時も感じたが、不思議な感覚だった。『学園から自分の家に帰るときも、こんな感覚だったな……』と、ぼんやり考えていた。


「あ!ヘーゼル様じゃない!」


突然、大きな声で呼ばれた。ぼんやりと考え事をしていたアクオスは、慌てて顔を上げて警戒する。


「リコル!それと……ダンも!!ただいま!」


リコルと呼ばれた女性と、その隣にひょろりと背の高い青年が並んでおり、ヘーゼルは二人に向かって走り出した。


「果樹園はどう?問題ない?」


二人に抱きつきながら、ヘーゼルは矢継ぎ早に質問をする。

よく見ると、青年の顔は真っ赤になっていた。


それを見たアクオスは足早に近づき、青年とヘーゼルの間に割って入った。


「ヘーゼル嬢、こちらは?」


リコルはメレドーラの至宝、アクオスを見て目を大きく見開き、顔が見る見る真っ赤に染まった。


「あ、アクオス様……えっと、この二人は私の兄弟のようなもので……うちの果樹園を任せているリコルとダンです」


「リコル、ダン。こちらは、私がお世話になっている竜騎士団団長のアクオス・メレドーラ様です」


「え? アクオス・メレドーラって、あの噂のメレドーラの至宝じゃない!?」


思わず口を滑らせてしまったリコル。

慌てて手で口を押さえるが、時すでに遅し。

さすがにアクオスに失礼だと思ったヘーゼルが、とっさにフォローした。


「アクオス様、この子は貴族の何たるかを知りません。大変失礼な物言いで申し訳ございません」


アクオスは一瞬苦笑いを浮かべたが、すぐに優しく微笑みながら言った。


「構いませんよ」


ヘーゼルは少しほっとして、アクオスが話を続けるのを聞いた。


「竜騎士団団長のアクオス・メレドーラだ。いつもこちらの領民にはお世話になっている。ありがとう」


「……いえ!そんな、こちらこそ!」


リコルは相変わらず顔を真っ赤にして、声もいつもより上ずっている。

対照的に、ダンはじっとアクオスを見つめ、少し警戒しているような表情だった。


「お父様は中にいらっしゃるかしら?」


ヘーゼルはダンの態度に少し気を取られたが、ダンは見知らぬ人に警戒しているのだろうと判断し、とりあえずそのままにして、父親の所在を聞いた。


「……はい。先ほど帰って来たばかりのようです……」


ダンがぼそりと返事をする。


「ありがとう、ダン、リコル。私はまだ王都に用事があって、今薬草を取りに戻っただけなの。お父様に会ったら、すぐに王都に戻らないといけないの。また二人にはしばらく果樹園を任せることになるけど、よろしくね」


「うん……」

「わ、わかった!」


ダンもリコルも、それぞれに頷いて返事をする。

ヘーゼルは微笑み、「どうぞ中へ」とアクオスを邸の中へ案内した。


玄関先に二人きりになったリコルが、小声でダンに話しかける。


「……ねえ、ダン……」


「なんだよ!」


ダンは不機嫌さを隠そうともせず、鋭い声で返す。


「ごめん。だけど……あれは、かなわないわね」


「は?何言って……」


「……アクオス様のあの目を見たでしょ?残念だけど、あきらめたほうがいい……」


ダンは言葉に詰まり、拳を握りしめる。


「……別に、なんとも思ってねーし。あきらめるとか意味わかんねーよ……」


強がるように吐き捨てると、くるりと背を向けて果樹園の方へ歩き出す。


「ふふ……やっぱりね。初恋は実らないっていうし……これで、少しは私を見てくれるといいんだけど……」


リコルは寂しげに、けれど期待を滲ませてつぶやくと、小走りでダンを追いかけていった。

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