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シャナ様が微笑みながら、


「やはりヘーゼルさんは普通のご令嬢とは違いますね。こうして話を聞いていると、研究者としての誇りを感じます」


と静かに評した。


ヘーゼルは一瞬、周囲のキラキラした顔ぶれに気後れしそうになったが、温かい視線の数々に励まされ、肩の力が少し抜けた。


貴族の中には、位が低く尚且つ女だということで、馬鹿にして話を聞かない人々がいる。

だが、ここでは「普通の自分」でも、研究者としての自分がしっかりと認められる。

そんな実感が彼女の心を静かに満たしていた。


「偶然の発見から生まれたとはいえ、こうして皆様に認めていただけるのは、やはり師匠のおかげです」


ヘーゼルは微笑み、感謝の気持ちを声に乗せた。

その瞬間、ディナーの華やかな空気に、ほんの少しだけ冷たい風が吹き込んだように感じられた。


どうやら、その冷ややかさは隣に座るアクオスから放たれているらしい。

公爵家の面々もそれに気づいたらしく、自然とアクオスに視線が集中する。

ヘーゼルも何かを感じて、そっと視線をアクオスに向けた。


「アクオス様……?」


「いいえ、それはヘーゼル嬢の努力がなしたことで、あの男は関係ないでしょう」


アクオスにしては、それは冷たい言い草だった。

だが、ヘーゼルは前回、師匠とアクオスが対峙していた光景を思い出し二人の仲があまり良くないのだろうと推測する。


「う~ん……どうしたものか……」と、首を傾げるしかなかった。


しかし、公爵家の人々のほうが、もっと驚いているようだった。

普段のアクオスからは考えられない物言いだ。


アクオスは昔から悪口や批判など口にすることはほとんどなかった。

それが今、なぜか不機嫌そうにヘーゼルに冷たい言葉を投げつけている。


しかも、ちゃっかりヘーゼルの隣に座って平然と食卓に加わっているのだ。


アクオスはここ何年も忙しさを理由に公爵家に顔を出しておらず、誘ってもいないのに、今まさに一緒に食事をしている。

どう考えても不思議な光景だった。


「……まあ、アクオス、それはヘーゼルさんの師匠に失礼ではありませんか?ご一緒にご研究なさっているのでしょう?何も知らないアクオスがそんな言い方をしたら、ヘーゼルさんも困ってしまいますよ」


ラグーナは、困り顔のヘーゼルを見てアクオスを窘める。


「いえ、母上、あいつは……とにかく、あの男がヘーゼル嬢を手伝うことなどないでしょう。少なくとも、自分のことしか考えていない奴です」


「……アクオス……あなた……」


アクオスの物言いに、さすがのラグーナも唖然とする。

だが、シャナだけは口角をくっと上げ、目元が笑い、どこか楽しげにその様子を眺めていた。


「あ、あの、アクオス様。師匠は確かに自分のことを中心に物事を考える方ですが、薬学に関しては信頼できる方です。アクオス様とは性格が合わないのかもしれませんが、そんなに悪い人では……」


ヘーゼルはなんとか師匠の印象を良くしようとアクオスに言ってみた。

しかし、結果は逆効果だった──。


「あなたは、あの男にこき使われているだけでは?もう少し正常な判断をしてください」


「え?……あ……す、すみません……そうですね……はい……」


アクオスに怒られ、シュンとしてしまうヘーゼル。

場の空気も、なんとなく重く沈んでしまった。


「アクオス、子供じゃないんだから、みっともない!」


その空気を切り裂いたのはシャナだった。


「なに、ゴネてるのよ。アクオスはヘーゼルさんのお付き合いに口を出す権利はないでしょ!……(まだね……)」


シャナがそう言うと、アクオスはため息をつき、ヘーゼルに向き直って謝る。


「ヘーゼル嬢……確かに、言い方が悪かった。申し訳ない……」


「い、いえ……私こそ余計な話をしてアクオス様に失礼を……」


なんとか場の空気を和らげようと、ヘーゼルは無理に微笑む。

その姿を見た、アクオスは皆に聞こえないほど小さな舌打ちをした。もちろん自分の行動に対する舌打ちだ。なんだかわからない苛立ちを鎮めようと深く息を吸う。


「確かに、余計な口出しをしました……あなたを傷つけるつもりはありませんでした。……申し訳ありません」


アクオスの胸の中には、自分への嫌悪感が渦巻いていた。


(なぜか、ヘーゼル嬢の口からあいつの話が出るとイラついてしまう……嫌な言い方をしてヘーゼル嬢を傷つけて……俺は一体、何をしているんだ……)


アクオスは、自分の行いを猛烈に反省していた。


その様子を、ヘーゼル以外のメレドーラ家の人々は、生暖かい目で見守っていた。

あのアクオスが、女性相手にあんなに動揺している。

先ほどシャナも指摘したが、まるで子供のようにやきもちを焼いているのだ。

しかも、本人は無自覚で。


「(((((これは、面白い!!))))」


その場にいる二人以外の全員は、目を輝かせ、アクオスの普段とは違う姿に心を躍らせていた。


食事も終わりに近づいたころ、ふとナーラスが口を開いた。


「助教授、そういえば……研究用の薬草は足りてますか?今、研究しているのって、あの貴重な竜の薬草ですよね?」


「あ、はい。そろそろ無くなるので、ガゼット領に取りに戻ろうと思っていたところです」


「たしか、ここまで馬車で三日かかったって……」


「ええ、こちらから馬車で三日で着きますので……」


「うーん……それって、ちょっと時間の無駄な気が……」


その言葉に、シャナがすぐに口を挟んだ。


「あら、ナーラス大丈夫よ。うちの馬車を使えば半分の日数で着くわ」


「い、いえ……そんな。また馬車をお借りするなど……」


「ヘーゼルさんは私の恩人ですもの。公爵家でお世話するんだから、そんなことは当然のことよ。遠慮しないで」


シャナは優しく微笑む。

そこで、アクオスがシャナに向かって話し出す。


「シャナ、大丈夫だ。竜なら半刻もしないで着く。今回は竜騎士団からの依頼でこちらに残ってもらっているので、竜に乗せていく」


「まあ!竜に?ヘーゼルさんは竜に乗れるの?」


「ああ、ヘーゼル嬢のことは竜が認めているからな。一人では無理でも、竜はヘーゼル嬢を乗せて飛ぶだろう」


ヘーゼルは目を丸くして、信じられないという表情になった。


「え……竜が……私を……乗せてくれるんですか……」


不安げな声に、アクオスが落ち着いた口調で答える。


「乗せてくれますよ。竜たちはヘーゼル嬢にまったく警戒心を抱いていません。最初は怖いかもしれませんが、すぐに慣れるはずです。念のため、竜騎士数人も同行します。明日でも大丈夫ですか?」


「も、もちろんです!」


「時間については、明日改めてお知らせします。それで大丈夫ですか?」


「はい! お願いします。いつでも出られるようにしておきます!」


アクオスはそれを聞くと、こくんと頷き、椅子から立ち上がった。


「父上、母上、それでは私は失礼します。どうかヘーゼル嬢をよろしくお願いします」


そう言ってアクオスはきちんとお辞儀をし、イライラした心を押さえ込んだまま、部屋を後にした。

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