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「なに?それに、そんな効果があるのか?」
「はい、師匠にご意見をいただきたくて……」
ヘーゼルはいま、師匠ベールの家に来ている。
先日アクオスから聞かされた、魔物避けの効果があるかもしれない竜の薬草。
その栞について、意見をもらいに来たのだ。
ベールは先ほどから、その栞をくんくんと嗅いでいる。
「そもそも竜の薬草は、お前が見つけたものだろう?書物にも載っていない未知の薬草だ。どんな効果があるかなんて誰にも分からん。今のところ、人間に対しては大した効能がない……というくらいしか……」
「はい。この栞を作るとき、殺菌作用の強いイヴィの葉液と、腐敗を防ぐノボの葉液、香り付けにラーブルの花、乾燥を防ぐゼブの葉液を使いました。分量はここに書き留めたのですが……昨日から作り直してみても、同じものができなくて……」
「ふむ。……分量は本当に、このメモの通りなのか?」
ヘーゼルから紙切れを受け取り、指で挟んだままその中身を確認する。
「はい。作りながら調整はしましたが、最後にはきちんと計算してまとめました」
「……確かに……最初に作ったものと、その後に作った三つ。どれも香りが微妙に違うな」
ベールは机に並べられた四枚の栞を摘まんで鼻に近づける。
「そうなのです……何度考えてもわからないのです……材料は同じはずなのに……」
「……よし。魔物を捕まえに行くぞ」
「……え?」
「悩んでいても仕方ないだろう。対象の魔物がいなければ、検証もできん」
「い、いやいやいや!竜騎士団でも手こずる魔物を、生け捕りにですか!?素人が無理です!考えただけでも恐ろしいです!!」
「やってみなければ分からん。やる前から無理だと決めつけるな。と、いつも言っているだろう?」
「……そ、それとこれとは別です!そればっかりは絶対無理です!!」
「……じゃあどうするんだ?人間の鼻には限界がある。匂いだけで再現できるはずがない」
「そ、それはそうなんですが……でも……」
「なら、竜騎士団に頼め。あいつらに実験体を用意してもらえ。そもそも依頼してきたのは竜騎士団なんだろう?もし無理だと言うなら…………魔物を捕まえに行くぞ」
「師匠……!!」
「それより……あの薬草を育てる場所は決めたのか?」
師匠は、自分が持ち込んだあの謎の植物を諦めていないようだ。
「…………いえ、まだです……」
「なら、その栞作りと同時に、薬草の栽培実験もしてみろ。魔物の近くで育ててみればいい」
「えっ……そんなこと、できるんですか?」
「魔物は獣と同じだ。穏やかな魔物なんて聞いたことがない。だが実験体にするなら最適だろう?傍らで種を育ててみろ」
「……!それは確かに!」
ヘーゼルは気づけば師匠の奇抜な発想に頷いていた。
家に戻ると、早速アクオスにウキウキと手紙を書いた。
だが、返ってきた返事にはたった一文字。
「否」
と、きっぱり記されていた。




