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メレドーラの才知と呼ばれるメレドーラ公爵、サキレスが呼び出されて向かったのは、アイゼン王国の王族用執務室だった。

机の向こうには、真剣な顔の王太子ザイル・アイゼンが座っている。


「サキレス、先日の件なんだが……」


「殿下、例の件はすでに手を回してありますが」


「ああ、そうだろうな………だが、新しい情報が入った」


「新しい情報、ですか」


「伯父上が、また裏で動いている」


「…………またですか。今度は何を?」


サキレスが呆れたように息をつく。


「……私もため息をつきたいよ。なぜ伯父上は、王座を諦められないんだ?弟に王座を取られた腹いせに、次代国王の甥まで狙うとは……執着が過ぎる」


ザイルが小さく笑った。


「殿下、笑い事じゃありませんよ。こちらにとっては迷惑でしかない。……国王陛下はなぜマーカス様を処分なさらないのです?」


「父上は平和主義者だ。本来、国王になりたかったわけではない。だからあんな伯父上にも敬意を払っている」


「それで殿下は、どうなさるおつもりで?」


「まだ決めかねている。死刑か、幽閉か、流刑か……」


「全部、重罪ですね。殿下の怒りの度合いがよく分かります」


「父上は退位まで伯父上をこのまま野放しにするだろう。ならば私が処理するしかあるまい」


「殿下は……相変わらず表ではマーカス様を慕っているように見せ、裏では虎視眈々と首を狙っている、怖い方ですからね」


「お前がそうしろと言ったんだ」


「あれは私の学生時代の論文であって、殿下に実行しろとは……」


「だが、そのおかげで伯父上の悪事の証拠は山ほどあるぞ」


サキレスが思わず笑う。


「ふっ……その証拠を使うのはいつですか?」


「もちろん決まっている。俺が国王になる前だ。伯父上の罪は父上に背負ってもらって、その断罪と同時に退位してもらう。そして俺は潔白なまま玉座に就く……これが最も後腐れのない方法だろ?」


「まったく……殿下も容赦ない」


「お前も付き合ってもらうぞ。王族の裏切りと断罪をテーマに書いた論文なんて、本来なら不敬罪だ」


「おや?殿下。こうして役立っている私を不敬罪にするおつもりで……?」


「……お前を不敬罪にすれば、弟のダブル騎士団長に瞬殺される。考えるだけでも恐ろしい」


「弟たちはセンスがありますからね。きっと犯人が誰か悟らせずに始末しますよ」


「……笑えん」


ザイルは眉間にシワを寄せて顔をしかめた。


「それで、新たなマーカス様の企みとは?」


サキレスは促されてもないのに、ソファーに腰を下ろす。ザイルもマーカスの正面のソファーに座った。


「相変わらず、俺を亡き者にしようと企んでいるが……それがな、どうやらメレドーラ家も狙っているらしい……」


「は?うちですか?」


「正確には、お前と……アクオス。もしかするとカイロスも……?」


「馬鹿馬鹿しいにも程がある。なぜうちを?」


「お前は俺の右腕だし、お前が潰れたら俺も終わりだ。アクオスはあの美貌で竜騎士団長だ、逆恨みするやつが多い。しかも竜騎士団を潰せば国の根幹が揺らぐ。そうなれば俺たち王族は終わりだ。カイロスは……まあ、脳筋で鬱陶しい……」


「……カイロスは信者がたくさんいますし、目をつければ死ぬまで追いかけていきます。敵に回れば厄介です」


さすがにサキレスも、ザイル殿下の言い草をさらりと言い直した。


「ある意味、最強の我々兄弟を狙うとは……馬鹿なんですか?」


「たしかに、伯父上は頭がよくない。長男なのに国王になれなかった男だしな……ところで、サキレス、今自分で最強とか言ったか?」


「我々が最強でなかったらなんなんです?謙遜なんてしませんよ」


サキレスは腕を組んで上を向いて何か考えている。


「……と、言うわけでお前たちも十分気をつけろ。お前たちは確かに最強かもしれないが……特に身近な者に注意しろ。残念ながら……伯父上はそういう人間だ」


「……マーカス様を刑に処する前に、拷問も追加しておいてください」


「それはお前がやるつもりか?」


「いけませんか?私ならギリギリ生かしてお渡ししますよ……弟たちはわかりませんが。」


「…………考えておこう」


二人とも少しの間、それぞれ頭の中でいろんなことを考えていた。

しかし、先にサキレスがつまらなそうに伸びをしてから、おもむろに立ち上がる。


「さて、では弟たちへこの件を伝えにでも行きますか…………ああ、殿下。マーカス様ですが……殿下が国王になる前に片付けると言ってましたが……それ、早まっても問題ないですよね?」


「問題はないが……お手柔らかにな」


サキレスは口元を歪めながら、ザイルに一礼すると何も言わずに王太子の執務室を出て行った。

その背中を見送ったザイルは、扉がカチャリと閉まるのを確認してから、ふっと息をついた。


「…………伯父上、狙った獲物が悪すぎる。あいつは魔物よりたちが悪い。せめて生きて引き渡してくれればいいのだが……」


サキレスは昔から、自分の一族を大切にしている。

近ければ近いほど、その思いは強い。


今回のこの成り行きはザイルの計算通りだが、そのザイルがここまで見越して話を進めていることも、サキレスにはお見通しだろう。


問題はアクオスとカイロスの動きにある。

もちろん、サキレスならうまくやらせるはずだが、結果は誰にも予想できない。


ザイルは、親友を標的にした伯父マーカスという頭の痛い問題に、静かにため息をついた。

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