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「アクオス、赤い花の調査結果が出たぞ」


ノックもなしに、ずかずかと部屋に入ってきたのはカイロスだった。


「……カイロス、せめてノックぐらいしろ」


「まあまあ。それより……あ、そうだ。母上のお茶会、止められたのか?」


軽口を叩くカイロスに、アクオスはわずかに顔を歪める。


「……いや。未然に防ぐことはできなかった。茶会の最中に割って入ったが……」


そこで言葉を切ると、アクオスの頬がみるみる赤くなる。


「……なに思い出して照れてんだよ。気持ち悪い」


珍しく引き気味の視線を送りつつ、カイロスは勝手にソファへ腰を下ろした。

アクオスはわざとらしく咳払いし、しばらくしてからいつもの表情に戻る。


「……まあ、その話はいい。で、花の結果は?」


アクオスも腰を上げ、カイロスの正面に座る。


「やっぱり、お前が言っていた通り……人為的に作られた代物らしい」


「そうか……」


「調査部がな、小さい魔物にあの花を少量与えたらしい。そしたら体の一部が変化して、狂暴化して暴れたそうだ」


「ああ……この前、カルビンが調査部に呼ばれて討伐した個体か。少し話は聞いたが……」


「人為的ってことは、何か目的があるはずだ。そっちの調査は、うちで進めることになった」


「ああ、頼む」


「……なあ、アクオス。ここだけの話だが……事件を起こしてるやつに、心当たりは?」


「……いや、特にはない。ただ、異形の魔物が明らかに殺しづらくなってきている気はする。花を食べる量の問題なのか……花そのものが強力になってきているのか……」


「そうか。それも調査部に伝えておく」


「ああ、そうしてくれ」


「……ところで、ヘーゼル嬢はもう帰ったのか?」


「……ああ、帰った」


「次に会う約束は?」


「……いや」


「……アクオス、それでいいのか?」


黙ったまま一点を見つめる弟を、カイロスはじっと観察する。よく見ると、ほんのり頬が赤い。兄だからわかる程度の、わずかな変化だ。


「ふむ……そういえばヨーデルが言ってたが、今度マイル村で大きな祭りがあるらしい。カップルに人気の花祭りだそうだ。俺は会議があって行けないと、ヨーデルに即断ったら大変な目にあったけどな」


アクオスはその話にふっと笑みを浮かべた。

ヨーデルはカイロスの婚約者で、とても快活な女性だ。アクオスと同じ騎士団に所属している。


「ヨーデルが怒るのも無理はないな。カイロスはもう少し婚約者をかまってやれ。この間、俺にも『カイロスがいつも仕事優先で!』って文句を言ってきたぞ」


「はは、かわいいだろう?」


「……何を惚気ているんだ……」 


アクオスは呆れた顔をする。


兄のカイロスは騎士団長としては優秀だが、婚約者のヨーデルをよく放置する。

そのたびにヨーデルはアクオスの元へやって来て、兄の悪口を延々と聞かせる。

もっともヨーデルは筋肉質な男が好みらしく、アクオスの顔立ちには一向に興味を示さない、珍しいタイプの女性である。


「まあ心配するな。俺は俺で、仕事帰りにあいつの部屋に行ってチェスとかやって、かまってやってるからな。大丈夫だ」


「……おい、何してる……大丈夫じゃないだろう……」


「いいんだ、婚約者だからな」


「そんなわけあるか。いくら婚約者とは言え、未婚のご令嬢の部屋に上がり込むなんて……母上が聞いたら殺されるぞ」


「……聞かせなければいいだけの話だ」


「……カイロス、ヘーゼル嬢の話を母上にしたのはお前だったな……」


「……さて、なんのことだか?」


そう言うと、カイロスはソファーからゆっくり立ち上がり、うーん、と大きく背伸びをしてから、涼しい顔で扉へ向かって歩き出した。


「ああ、花祭りな。ヘーゼル嬢の領地の近くだし、誘いやすいんじゃないか?あのお嬢さん、薬師だったろ?きっと花が好きだろ?」


カイロスはそういって、さっさと部屋から出ていった。

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