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(うう……消えてなくなりたい……)


今、ヘーゼルは両手で顔を覆い、ぐったりと馬車に揺られていた。しかも、その馬車は、公爵家の紋章入り、座れば腰が沈みすぎて二度と立てなくなるんじゃないかというほどふかふかの高級仕様だ。


全てはナーラスのあの爆弾発言から始まった。


その瞬間、自分の口から出ていた「家族に会いたかった」発言の意味に気づき、血の気が一気に引く。慌てて否定しようとしたのに、ラグーナとシャナは妙に生暖かい視線を送ってくるだけ。


そして……アクオスは、耳まで真っ赤に染めて口元を押さえ、俯いてしまった。もう話しかけるのすら怖い。


「か、帰ります!」


反射的にペコペコ頭を下げながら出口へ向かうヘーゼル。

だが、シャナが「馬車を用意したから乗って行って」と微笑む。

「いえ、自分で馬車を手配してるので!大丈夫で……」と、強めに断ったその瞬間、自分のスカートを踏みつけて盛大に転倒。


「ヘーゼル嬢!」


心配したアクオスに手を取られ、あろうことか抱きかかえられてしまう。


(え?なに?お姫様抱っこ?え??)と、パニックを起こしているうちに、気づけば……


(……あれ?馬車の中……?)


どうやらアクオスにひょいと持ち上げられ、そのまま公爵家の馬車に収容されたらしい。

自我を取り戻したときには、すでに馬車はガゼット領へ向けて全速力で走っていた。


(恥ずかしすぎる……馬車の外でラグーナ様とシャナ様が、ものすごく楽しそうな笑顔で手を振っていた気がする……)


思い出しては反省、反省しては思い出す……そんな羞恥地獄のループを繰り返すうち、見覚えのある景色が窓の外に広がってきた。


(ちょ……公爵家の馬車、早すぎない?行きは三日かかったはずなのに……王都を出て一日半じゃない……?)


ヘーゼルは、久しぶりの我が家に気がつけば到着しているという、夢か現実か分からない状況にただボー然としていた。


「お帰り、ヘーゼ……ル……?」


馬車の音を聞きつけて走ってきた父は、門の前でその馬車を見た瞬間、足を止めて固まった。


そりゃそうだ。

どう見たって高位貴族用の豪華な馬車で、その中から娘が降りてきたのだから。


さらに果樹園の子どもたちも、道端まで走ってきて、馬車を見た瞬間にぴたりと動きを止め、目をまんまるにしている。


(……うん、それはそうよね。私だって自分でびっくりしてるもの……)


「た、ただいま帰りました……お父様……」


「あ、ああ……ああ、お帰り……。ヘーゼル?この馬車は……メレドーラ家の紋章が付いているが……どうして……??」


さすが父。

紋章を見ただけでメレドーラ家と分かるあたり、本当にすごい。

……って、感心してる場合じゃない!


「お、お父様、それは後でお話しするわね……」


御者が下りてきて、荷台からヘーゼルの荷物を下ろし始める。


(待って、それ、なんでここにあるの?……)


確かに私の荷物は、別の荷馬車に積んであったはず。いつの間に、どうやって乗せ換えたの?そもそも、私が頼んでおいた馬車はどこへ行ったの?


パニックで消えてしまいたいと思っていたあの時間に、一体何が起こっていたのか……もう、考えるのもやめた。


(……うん、まあ、いいか……忘れよう……そうだ、それがいい……何もなかったことにしよう……それが一番平和だ……)


「みんな!ただいまー!お土産買ってきたわよー!」


心の奥で現実逃避しつつも、笑顔で子どもたちを手招きする。

お土産という魔法の言葉に、立ち止まっていた子どもたちは一斉に歓声を上げ、わーっと駆け寄ってきてヘーゼルに抱きついた。


その小さな腕の温もりに包まれながら一通りみんなに挨拶を終えると、今度は御者の男性の方へ歩み寄る。


(……いや、どうやってここまで来たか全然記憶ないけど……丸三日かかる距離を、半分のスピードで走ってきたのよね……)


当然、御者だって馬だって疲れているだろう。

ここで「はい、お疲れさま、それじゃお帰りください」なんて言えるほど、ヘーゼルの心は石ではない。せめてお茶でもと誘ってみた。


しかし、御者の男性は首を振って、にこやかに答える。


「このまま少し先に、人も馬も休める場所がございます。そちらでゆっくり休ませますので」


そう言って「これで失礼いたします」と、礼儀正しく馬車を発進させて去っていった。


その日の夜、王都での出来事を父に詳しく話している間、父はずっと目をまんまるにして愕然としていたのは言うまでもない。

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