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翌日。


公爵夫人が指定した店に着くと、入口に掲げられていたのは大きな看板。


[本日は貸切です]


「……貸切?」


目の前にそびえるのは、三階建ての豪奢な建物。

どう見ても、普通のカフェには見えない。

ヘーゼルは上を見上げしばし唖然としていた。


恐る恐る扉を押し開けると、壮麗な服を着た男性が一礼して立っていた。

執事だろうか……いや、明らかにカフェの店員ではない。

執事にしか見えない。


「ガゼット様、お待ちしておりました。ご案内いたします」


「は、はい……」


(え、え?待って……ここ、カフェじゃない……よね?……このドレス……完全に場違いなのでは……?)


案内に従いながらも、なるべく首を動かさず、目だけで周囲をきょろきょろ。

大理石の床と壁、重厚なランプ、手の届きそうにない壺や絵画……素人目にも高価そうなものばかりが並ぶ。


(……ここ、本当にお店なの?)


緊張で心臓が忙しなく跳ねる中、三階へ。

男性が扉を開くと、そこは大きな窓から街を一望できる、広々とした部屋で、数人の人がいた。


「ヘーゼル・ガゼット様、はじめまして。シャナ・メレドーラです。お忙しい中、わざわざお越しいただきありがとうございます」


はじめに微笑みながら声をかけてくれたのは、想像していた以上に美しく華やかな女性だった。

その場にいるだけで空気が明るくなるような、まさに華のある美女。

彼女の装いは貴族としては控えめかもしれないが、その内面から滲み出る凛とした気品と、自信に満ちたオーラが、逆に周囲を圧倒していた。


「は、はじめまして、メレドーラ公爵夫人・・・・・・本日はお招きいただき、誠にありがとうございます・・・・・・あ、あの、こちら、薬草で作りました化粧品とハンドクリームです。いくつか作りましたので、よろしければ・・・・・・」


その場に立つ美女の圧倒的な存在感に、ヘーゼルは思わず一歩、身を引いてしまった。


びくびくしながら、手土産代わりに用意してきた化粧品とハンドクリームを差し出す。

正直なところ、公爵夫人がこんな安物を使うとは思えない。

それでも、この化粧品は、ヘーゼルが時間をかけて研究し、何度も試作を重ねて完成させたものだ。肌を明るく見せ、ふんわりと柔らかく整える効果がある。


ハンドクリームもまた、手をふっくらとさせ、皴を目立たせず、張りのある状態を保つ自信作だった。

近所のおばさんやおばあさんたちには大人気で「これがないと困る」とまで言われている品である。


「まあ、ありがとうございます。わざわざご用意してくださったのですね。」


公爵夫人はにこやかにヘーゼルの手土産を受け取ると不思議そうに見ている。


そんな緊張した空気を切り裂くように、今度は後ろから元気いっぱいの青年が勢いよく飛び出してきた。

そして、何の躊躇もなくいきなりヘーゼルの手を掴む。


「は、はじめまして!僕はナーラス・メレドーラです!アグルス学園の二回生で薬学を専攻しています!ずっとガゼット助教授にお会いできるのを楽しみにしていました!今日は色々なお話を聞かせてくださいね!それで、助教授!最近助教授が発表された研究結果についてなんですが……!」


青年は手を振り回しながらまくし立て、その勢いのあまりヘーゼルは思わずビクッとして、一歩後ずさる。

まるで嵐のような熱意に圧倒され、彼女の目は思わず白黒した。


「ナーラス、ダメよ。ガゼット様がびっくりなさってるじゃないの」


そんな青年の勢いを優しく制したのは、近くに立つ上品な女性だった。

可愛らしい顔立ちに柔らかな微笑みを浮かべ、落ち着いた声で諌める。


「ナーラスが驚かせてしまってごめんなさいね。はじめまして、私はラグーナ・メレドーラです。お会いできて光栄ですわ。それと、わざわざ手土産まで用意してくださってありがとうございます。私も使わせていただきたいわ」


この部屋にいる誰よりも穏やかで落ち着いた雰囲気を纏う彼女は、ひと目で位の高さがわかる。

その品の良さは自然と周囲を和ませ、ヘーゼルも少しずつ緊張がほぐれていくのを感じた。


「はじめまして……失礼ですが、もしかして前公爵夫人でいらっしゃいますか?」


ヘーゼルは少しおずおずと、その名前を口にした。


「ええ、そうですわ。そして、アクオスの母です……アクオスがお世話になっているようですね。あの子と仲良くしてくださって、本当にありがとうございます」


前公爵夫人は優しく微笑みながら、静かに頷いた。


「い、いえ!そんな、とんでもないです!私の方こそお世話になっておりまして……」


恐縮しつつも慌てて深く頭を下げるヘーゼルの姿を、柔らかな眼差しで見守る公爵夫人。


「さあ、では挨拶も済みましたし……軽食をご用意いたしました。ご帰郷前に、どうぞ軽く召し上がってください」


公爵夫人がそう告げると、ヘーゼルが座る椅子を丁寧に示す。


(なぜか上座を勧められてしまったわ……恐れ多くて、とても座りづらい……)


ヘーゼルは少し戸惑いながらも、その席に静かに腰を下ろした。

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