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「ええ!?明日、お帰りになってしまうの!?」
シャナは、受け取った手紙を握りしめ、声を上げた。
そこには、公爵夫人への憧れと感謝、そして、明日、自分の領地に戻るためお茶会に参加できないという、丁寧すぎるほど丁寧なお断りの言葉が並んでいた。
「シャナ、ヘーゼルさんは来られないと?」
「ええ……お義母様、明日、領地にお戻りになるそうです」
「まあ、それは残念だわ……」
シャナはラグーナに手紙を差し出す。
ラグーナは静かに目を通し、そして口元にやわらかな笑みを浮かべた。
「……本当に心のこもったお手紙ね。最近では珍しいわ。カイロスが言っていた通り、優しいお人柄がよく出ている」
ラグーナは同封されていた栞を手に取り香りを嗅いでにっこり笑う。
「ええ、私の文字を褒めてくださったんですよ。それも、一生大切に保管するとまで……!ああ、だからこそ、お会いしてお話ししたかったのに……それに、ナーラスがとても楽しみにしていたんです」
「そうよねぇ……普段あんなに静かなあの子が、人に会えることであれほど浮き立つなんて……でも、さすがに帰り支度をしている人を引き止めるわけには……」
「……あっ!」
シャナの目が輝く。
「お義母様!うちの馬車なら一日半でガゼット領に行けますわよね!?」
「……ええ、早馬を使えば可能でしょうね……まさか……シャナ」
「そうですわ!明日の昼までにお茶会をすればいいんです!服がないとおっしゃっていたけれど、それなら、袖を通していないドレスを……」
「待って。そのまま差し上げるのは、施しのように受け取られてしまうかも」
「……確かに……では、アクオスからの贈り物として……」
「無理ね。あの子、呼んでもすぐには来ないわ。しかも、私たちがお茶会するなんていったら、阻止しにくるかも……」
アクオスの行動が想像できすぎて、二人は同時にため息をつく。
だが、ラグーナの表情がふと明るくなった。
「……お茶会だから難しいんじゃない?街のカフェならどうかしら。気取らない場所なら服装も気にせずに済むし、短い時間でもお会いできるかもしれない」
「お義母様……さすがです!それですわ!」
シャナは花が開くように笑い、侍女を振り向く。
「すぐにカイトを呼んで!それとカフェは貸し切りにしないと!」
「我が嫁ながら……あなたのその行動力、見習いたいものね」
「あっ!その前に、手紙の返事をすぐに……」
ラグーナはくすくす笑って机に向かうシャナを眺めた。
「ど……どうしましょう……」
ヘーゼルは、届いたばかりの手紙を握りしめ、部屋の中を行ったり来たり。
シャナからの手紙には……
お茶会はまた今度にしましょう。
明日午前中、街のカフェに行きますので、お帰りの時間までご一緒にお茶をしませんか。
私たちも軽い服装で参りますので、ご都合いかがですか?
と、柔らかい文面が綴られていた。
「……これ以上は、さすがに断れないわよね」
街のカフェならドレスは……到着した日に着てきた、少しだけいいものがある。
高位の方とのカフェくらいなら、あれで何とかなるだろう。
「でも……困ったわ。もう夜だから、手土産も買えない……。あ、そうだ。薬草が余ってたわね。今から作れば間に合うかも……」
急ぎ「お気遣いありがとうございます。伺わせていただきます」と手紙への返事を書き、ヘーゼルは乾燥させた薬草を、すでに帰るために整理整頓してあった鞄から取り出すと、手慣れた動きで鉢に入れ、すりこぎを回し始めた。




