表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/68

34

「まったく、ふざけてやがる……なんなんだ、あいつは!」


会議が終わり、夕暮れの騎士団の庭を歩くアクオスとカイロス。

カイロスは、先ほどの会議でのマキュベリー侯爵の一件をまだ引きずっていた。眉間には深いシワ、拳は固く握りしめられたままだ。


「仕方がないさ……竜騎士団が多めに予算を取っているのは事実だし、それに……竜舎に無断で入ってきた侯爵令嬢を、追い返したこともな」


アクオスがため息混じりに言うと、カイロスは思いきり顔をしかめた。


「……そんなもん、ただの私怨じゃねえか。ったく、あいつ一回、魔物の群れにでも放り込んでやった方がいいぞ。理不尽ってもんを思い知るからな」


「はは……一秒と持たないだろうな」


アクオスが肩をすくめて笑うと、カイロスは真剣な顔でぐっと拳を握り直す。


「くっそ〜……絶対あいつを、ぎゃふんと言わせてやる。例の赤い花、調査部に催促してくる!尻でも叩いてな!」


「そっちは騎士団にまかせる……では……」


アクオスが軽く手を上げて立ち去ろうとした、その時。


「あっ、待った!そうだアクオス、お前に伝えておくことがあった!」


「?なんだ、急に……」


「母上とシャナが、茶会を開くらしいぞ」


「……それがどうした?いつものことじゃないか?」


「いや、今回はちょっと違うんだよ……その、ナーラスが尊敬してる助教授を招くってさ……」


「ふうん。ナーラスのためにも、それは良いことじゃないか。何か問題でも?」


「いや……まずくはないと思うんだが……あー、あれだ、以前、竜騎士団に来てたろ?」


「竜騎士団に?助教授が?……知らないな、そんな人物は」


「だからあれだよ、女性の……ほら、竜を手懐けるって噂の……ヘーゼル・ガゼットだ」


「……ヘーゼル嬢?」


アクオスの足がピタリと止まり、目をぱちくりと瞬かせた。

頭の中で何かが電気のように走ったようで、思わず聞き返してしまう。


「なぜ、彼女が……?助教授……?」


「彼女、薬学の世界じゃかなり名の知れた人物らしいぞ。ナーラスは彼女の研究結果にだいぶ影響を受けたらしくてな」


「は?……で、それがなんで……母上たちとの茶会になるんだ?」


「だから、母上が張り切っているらしい……」


「いや、理由になってないだろう?どうして茶会になるんだ?」


カイロスは、しばし言葉に詰まったあと、ふっと悪戯っぽく笑った。


「……え?だって、アクオス、お前……ヘーゼル・ガゼットのこと、好きなんだろ?」


「!!!!」


アクオスは、カイロスの言葉に雷でも落ちたかのようにその場で硬直した。目を見開き、まるで時が止まったかのように動けない。


「……好き?……」


口からこぼれた言葉は、まるで自分自身に問いかけるような、掴みきれない響きを持っていた。


「あれ? 違うのか?」


カイロスが首をかしげながら、さらに追い打ちをかける。


「昨日、食事に行っただろ?アクオスが女性と二人で出かけるなんて前代未聞だぞ。好きじゃなかったら、そんなこと絶対しないと思ってたが……?」


「……好き? 俺が……ヘーゼル嬢を……?」


アクオスは、自分の胸に視線を落とし、心の奥を探るように言葉を紡ぐ。


「えっ、おいおい……まさか……気づいてなかったとか言うなよな?」


カイロスが焦ったように眉をひそめた。


「いや……たしかに話しやすくて……一緒にいて、心地いい相手ではあるが……でも、それって……好き、なのか……?」


「ちょ、嘘だろ!?本当に気づいてなかったのか、お前……?」


「彼女は……なんというか、好きっていうより……懐かしい……温かくて……そう、家族みたいな……」


「家族!?それって……夫婦じゃねぇか!いきなり最終地点に到達してんぞお前!」


「…………」


アクオスは、何も言い返せなかった。心の奥に落ちた一滴の言葉、「好き」が、静かに、でも確実に波紋を広げていた。


カイロスは呆れながらもニヤリと笑い、アクオスの肩をぽんっと叩いた。


「おい、お前、もしかして初恋か?……」


アクオスは、自分の心に芽生えている感情が何なのか、ようやく輪郭を帯びてきたような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ