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「……というわけで、団長にも春が来るかもしれません」
「まさか?アクオスが?それはさすがにねぇだろ!?」
ガキン、ガキンッと、金属がぶつかり合う音が響く。
筋肉質で屈強な体を持ちながらも、繊細な動きで剣を振るうのは、アクオスの兄、カイロス・メレドーラ。
その相手をしているのは、細身の身体でしなやかに、まるで舞うような動きを見せるイーライだった。
「あいつは、そんなタマじゃねぇよ。女に惚れられることはあっても、自分が惚れるなんて……ありえねぇって」
「……一概には言えませんよ……っと!」
イーライは、カイロスの上段からの斬撃をさばき、跳躍して後方へ下がる。
「アクオスは、あの顔のせいで今まで散々な目に遭ってきたんだ。子供のころなんて女に襲われることもしょっちゅうだったしな!」
カイロスが低く構え、足元を狙って剣を突く。
イーライはそれを軽やかにかわして空中でくるりと回転。
「確かにそうかもしれません。でも、今回は『竜に認められた』女性です。団長が靡くのも、無理はないかと……」
「竜に認められた女?そんなやつが本当にいるのかよ?」
「いたんですよ、それ、が!」
タイミングを見て、イーライが懐に飛び込む。
だが……。
「残念っ! イーライ、まだまだ甘いな!」
カイロスは素早く体を捻り、剣を背中に振り下ろす。
刃は寸前で止まり、その風圧だけで、イーライの髪を結んでいた紐がぷつりと切れる。
ふわり、と黄金の髪が宙に舞った。
イーライは髪をかき上げながら、ふぅ、と息をつき、剣を鞘に収める。
「……負けました」
両手を上げて降参の意を示すイーライに、カイロスは満足そうに頷いた。
「前より無駄な太刀筋はなくなったが……ほんのわずか、背中が開くクセはまだ抜けてないな」
「ご指導、感謝します。カイロス様」
イーライが頭を下げて礼を述べると、カイロスも剣を鞘に収めた。
「……で、さっきの『竜に認められた女』ってのは?」
「ヘーゼル嬢のことです」
「ヘーゼル……?」
「ええ、ヘーゼル・ガゼット子爵令嬢」
「ガゼット……ああ、あの『竜の湖』の領主のところか」
「その通りです」
「……で、どんな感じで認められたんだ?……まさか、女だてらに強いのか?」
「いえ、まったく。めちゃくちゃ弱そうです」
「……じゃあ、なんで竜に?竜は強いやつを認めるのだろう?」
「……正直、理由は不明です。ただ、彼女自身は薬師で、竜が好む薬草を育てているとか。竜が懐く理由は、それだけではなさそうですが……」
「ふーん。……で、その令嬢は、美人か?」
「そうですね。美人というよりは可愛いタイプですね。性格はとても穏やかで……好感が持てますよ」
「そっかぁ~。アクオスは可愛い子がタイプだったのか~……」
「それはどうでしょう? ただ……彼女と話している時の団長、口調が柔らかくなりますし、時々、彼女を見る目が……警戒心がまったくないように見えるんです」
「……あ~、そりゃもう、恋だな。あの警戒心の塊のアクオスが……大人になって……」
カイロスがしみじみと呟く。
「……カイロス様、くれぐれも、あの二人の邪魔はしないでくださいね。せっかく団長が落ち着くかもしれないんですから」
「………………もちろんだ」
「今、返事に間がありましたよね!? 絶対、何か企んでますよね!?」
……とは言ったものの。
イーライはよく知っている。
カイロスは、筋金入りのアクオス大好きブラコンだ。
(……なんか、あの顔、やらかしそうだな……)
内心そう思いながらも、イーライは気を取り直した。
「さて、竜舎の壁の建設の進み具合でも見てくるか」と踵を返した。




