表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/129

22

ブラッド。


その名を聞くだけで、騎士たちの間に緊張が走る竜。

竜王と呼ばれるその存在は、アクオス以外には決して近づこうとせず、たとえ他の竜騎士団員であっても、数歩近づくだけで威圧のあまり膝をつくほどの圧を放つ。


普段は竜舎にはおらず、どこか遠く離れた谷で気ままに過ごしており、アクオスが心の奥で必要としたときだけ、その気配を察して現れる。

そんな特異な竜である。


「いくらヘーゼル嬢でも……あのブラッドに近づくなんて……」


イーライは信じられないといった様子で呟いたが、アクオスの横顔には、どこか確信めいた表情が浮かんでいた。


彼らは竜舎を出て、広々とした野原のような場所へと移動していた。

アクオスの説明によれば、そこに竜王がやってくるから会ってみないかと促されたのだ。


(あの、白くて赤い目の竜……)


ヘーゼルは、かつて自分を助けてくれた白い竜に、ずっとお礼が言いたかった。

残念ながら、これまでその機会はなかったが、今日、会えるのかもしれない。

胸の高鳴りを抑えきれず、彼女は空を見上げてその姿を待った。


ビュウウウウウーーーー!


風を裂く鋭い音がどこからともなく響き渡り、突如、目の前に巨大な白い竜が現れた。


イーライとデルダは、ブラッドにこれ以上近づくことができず、離れた位置からその様子を見守っている。

もしブラッドの威圧によりヘーゼルが倒れた場合、すぐに駆け寄れるよう、二人はぎりぎりの距離を保ちながら、彼女の無事を見届けていた。


猛スピードで飛来したとは思えないほど、竜はまるで舞い降りるように、柔らかく地面へと着地した。

その優雅な動きに、ヘーゼルは言葉を失い気がづけば一筋の涙が頬を伝っていた。


白い竜は、まずアクオスの前に降り立ち、じっとその顔を見つめる。

しばらく、竜とアクオスの間で目に見えない対話が交わされたようだった。

そしてやがて、白い竜はゆっくりと首を巡らせ、まっすぐにヘーゼルの方を見据えた。


その瞬間、ヘーゼルの全身にぞわりと震えるような空気が走った。

まっすぐに向けられたその瞳は、かつて湖から自分を助けてくれたあのときと、まったく同じ、深紅の赤をたたえていた。


白竜ブラッドは、しばらくじっとヘーゼルを見つめていたが、やがてゆっくりと、一歩、また一歩と歩み寄ってきた。


イーライが小さく息を呑む。


「……ブラッドが動いたぞ……!」


「……子爵令嬢はブラッドの威圧を受けてないのか!?」


ブラッドは、威圧でも怒気でもない、けれども言葉にできないほど圧倒的な存在感をもって、ヘーゼルの目の前に立った。彼女は一歩も引かず、ただ静かにその姿を見上げる。

その目には恐れの色はなく、むしろどこか懐かしさすら滲んでいた。


「……やっぱり……あなたが、あの時の……」


小さく、確信に満ちた声が漏れる。

ブラッドはその言葉に応えるように、ふう、と短く鼻から息を漏らし、巨大な顔を彼女の目線の高さまでぐっと下げた。


ヘーゼルの瞳が潤み、胸の奥が熱くなる。


「ありがとう……あの時、助けてくれて……ずっと……言いたかったの……」


両手を胸の前にぎゅっと重ねて、彼女は深く一礼した。

その姿を、ブラッドはしばらく見下ろしていたが、やがてゆるやかに首を振り、頭をほんのわずか、彼女の顔に近づけた。


風がふわりと吹き抜ける。

その瞬間、空気の重さがふっと和らいだ。

イーライとデルダもようやく体の緊張を解き、互いに顔を見合わせた。


「……信じられない……」


「……あのブラッドが……団長以外の人間に……」


アクオスは黙ったまま目を細めていた。

その横顔には、かすかに笑みに似たものが浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ