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「驚きましたね!なんだったんでしょうか?」
ダミアンが並走しながら話しかけてくる。
「……」
デルダは黙ったまま、思案顔で竜を飛ばしていた。
やがて竜舎に戻ると、飼育係のヤンがすぐにフェイとジルを誘導し、それぞれの部屋へと入れてくれる。
「ちょっと団長のところに行ってくる」
デルダはダミアンにそう告げ、竜舎を出て演習場方面へ向かった。
広場の横には、騎士たちの待機所がある。
その場所は観客席から見えにくく、一般人の目に触れないように設計されていた。
アクオスがそこにいるのも、そのためだ。
彼が一度でも人前に姿を見せれば、模擬戦どころか演習自体が中止になりかねない。
それを痛感した経験があるからこそ、今では決して模擬戦中は姿を晒さないと心に決めていた。
今回も、彼は陰から模擬戦の様子を見守っていた。
当然、先ほどフェイとジルが突然客席の方へ飛んでいったことも見ていた。
(フェイが……?珍しいな……。人に危害を加えるような竜ではないから静観していたが……あの旋回は……)
アクオスは、次の組の騎士たちが戦う演習の様子を目で追いながら、先ほどの異変を反芻していた。
観客の多くは「竜が近くに来てくれた!」と喜んでいたが……
竜は、そんな気まぐれで動く存在ではない。きっと何か理由があっての行動だ。
「……なんだったんでしょうね、さっきのは」
副団長のイーライが、困惑した表情で声をかけてきた。
「ああ。確かに……いつもと違う動きだった」
「何かを見つけて、それに向かって飛んでいったように見えました」
「ああ……そうだな」
アクオスは、竜たちが旋回していた客席を目を細めてみる。
だが、そこは人の波に埋もれ、『何か』の特定は難しかった。
(あのあたりに……何かがあったのか?)
アクオスはあとで、フェイたちの様子を見ようと心に書き留めた。
「団長~~~!!」
裏口から、先ほど惜しくも敗れたデルダが勢いよく飛び込んできた。
「……デルダ、練習不足じゃないか?」
デルダの声に気づいたイーライがくるりと振り返り、ニヤッと意地悪そうに笑って見せる。
「もーっ! イーライさん、またそうやって茶化すんだから! たしかに俺たちは負けましたけど、ダミアンは惜しかったでしょう!? カーターとはこれで五勝五敗、次回に期待しててくださいよ!……いや、それよりもですよ!」
「フェイたちの動きのことか?」
「そうなんですよ、団長!ちょっと気になることがあって……」
「気になること?」
アクオスが口を挟むより早く、イーライが先に反応した。
「ほら、この前食堂でした話があったでしょう?」
「食堂……?」
イーライが首をひねる。いつの話だ?という顔だ。
「ほら、あの、不思議なご令嬢の!」
「不思議な令嬢……?」
アクオスも、話が見えずに首を傾げる。
イーライも、ポカンとした顔で首をかしげるが、しばらくして思い出したのかハッとする。
「ああっ!あれか。湖のほとりで、竜が自分から領主の娘に近づいていったって話だな?」
「そう、それです! しかもジルが、その令嬢の差し出した草を手ずから食べたってやつです!」
「デルダ、だからそれはさすがに……何かの見間違いじゃないか?」
イーライはやはり信じられないように言う。
「見間違いなんかじゃありませんって!だって、そのご令嬢が、さっきあそこの席にいたんですよ!」
「お前らの竜が向かっていった先に?」
「そうです!絶対に間違いないです!俺、視力いいんですよ!」
デルダとイーライのやり取りを黙って見ていたアクオスは、小さくため息をついた。
そして静かに二人の間に割って入る。
「……デルダ、いいから順を追って、落ち着いて説明してくれ」
デルダはアクオスに、先日の出来事を一から丁寧に語り始めた。
アクオスは一言も発さず、黙ったままじっとデルダの話に耳を傾ける。
「……で、さっき、その令嬢をあそこの席で見つけたんです!」
デルダが語り終えると、アクオスは腕を組んで唸るように言った。
「なるほど……確かに、にわかには信じがたいが……」
そのときだった。
「よう!デルダ!」
背後から声をかけてきたのは、竜騎士のカルビン・アイーダ。デルダとは同期だ。
彼は何気なくその場を通りかかり、ふと足を止める。
「さっき、お前の竜が『リベル薬局』のカレンさんのところに行ってただろ?何かあったのか?」
次の瞬間、
その場にいた全員が、揃ってカルビンにツッコミを入れた。
「「「カレンさん、誰!?」」」




