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「おはようございます!」


朝、ヘーゼルはかなり早い時間からリベル薬局の前でカレンを待っていた。

果樹園の仕事柄、もともと朝は早いのだ。


「おはよう。早いわね。もしかして、ずいぶん待ってた?」


「いいえ、そんなに待ってません!」


実際には二時間ほど待っていたが、王都の街並みを眺めているうちに、あっという間に感じていた。


「少し歩くけど、大丈夫?」


「はい、足は強いので、ひと山ぐらいなら休まずに越せます!」


「ひと山って……ヘーゼルさん、ちょっと変わってるわね」


カレンは悪気なく、明るく笑いながら言った。


「そうですか?まあ、田舎者ですから……王都の作法もよく分かっていないので、変なところがあったら言ってください。その都度、直しますね」


「……ごめん。そうじゃなくてね。楽しいズレだから、直さなくていいのよ。それがあなたの素敵な個性なんだもの」


カレンは、まるで妹に話しかけるようなやわらかな口調で言う。


「そうだ。練習を見たら、街で買い物にでも行かない?案内するわよ」


「え?そんな……お店の方は大丈夫ですか? 私のためにカレンさんのお時間を使わせてしまうのは……」


「大丈夫!もともと今日はお休みなの。どう?行きたい?」


「は、はい!……それならぜひ!」


前のめりなヘーゼルの返事に、カレンはくすくすと笑った。


「楽しみね!練習も、買い物も!」


「はい!」


二人は、竜騎士団の練習場まで、たくさんのおしゃべりをしながら歩いて行った。

話してみると、カレンはヘーゼルより六歳年上で、付き合っている男性はいるけれど、まだ結婚はしていないのだという。

ヘーゼルは素敵なお姉さんができたようで、胸がドキドキしていた。



「わああああああああ~~!!!」


大きな歓声が響いた。


カレンが持っていたチケットで中に入ると、練習場はすでに満員だった。

すり鉢状に造られたこの場所は、観客席がぐるりと練習場を囲む構造になっており、練習場の中央に広がる広場を見下ろすように造られていた。見渡す限り、どの席にも人が座っており、空席は見当たらなかった。


まだ練習開始の時間ではないはずなのに、あちこちから興奮気味の歓声が上がっている。


「ここよ、ヘーゼルさん!」


カレンに案内されて、チケットに書かれた席に腰を下ろす。

比較的下の方の席で、練習場を間近に見渡せる、なかなかの良席だった。


「ひっ……人がたくさん……!歓声もすごいです!!なんだか、ちょっと怖いくらい……。竜は、こんな大きな音にびっくりしないんでしょうか……?」


急に竜のことが心配になり、ヘーゼルは不安そうにカレンを見上げた。


「いつもここでやってるから、もう慣れてるんじゃないかしら?」


「そうなんですね……」


ホッとしたように息をついたものの、ヘーゼルはそわそわと落ち着かない。

こんな場所に来るのも初めてなら、これだけの大勢の人の中に身を置くのも初めてで落ち着かない。

椅子にちょこんと座ったまま、緊張した面持ちで、周囲をきょろきょろと見渡していた。


そのとき


「ゴーーーーーン!!」


大きな鐘の音が響き渡った。

その音にびくりと肩を揺らすヘーゼルを見て、カレンはくすりと笑う。


「さあ、始まるわよ!」


鐘の音が空にこだますると、雲の切れ間から竜が四頭、空高くから急降下してきた。

まるで空に裂け目ができたかのように急に現れた竜たちに、観客たちは一瞬息を呑み、歓声を忘れる。だが、次の瞬間には、


「わーーーーーっ!!」


四頭の竜に向けて、大歓声が巻き起こった。

竜騎士に手を振る者、エールを送る者、その声で会場は割れんばかりの盛り上がりを見せていた。


「最初の模擬戦は、この騎士様たちよ。まずは二対二で試合を行うの。勝った二組の上位の竜騎士が、最後に一対一で戦うのよ」


「うわぁ……皆さん、すごく興奮していますね!それに、竜がとっても綺麗!!」


よく見ると、竜たちの尻尾の先には、それぞれ黄色と青のリボンが結ばれている。

どうやら、そのリボンの色でチーム分けされているようだ。


「ヘーゼルさん……やっぱり見てるところは竜なのね……。竜騎士様たちの戦う姿もとってもカッコいいから、そちらも見逃さないでね」


「はい!」


竜が二頭ずつ向かい合い、合図を待っている。

中央に立つ審判が大きな旗を振ったその瞬間、


バサッ、と竜たちが一斉に舞い上がった。


竜の背に乗った騎士が模造刀を構え、相手に向かって切りかかる。

相手の竜はそれを軽やかにかわし、再び空中を旋回する。


練習試合とはいえ、本番さながらの白熱した戦い。

ヘーゼルは瞬く間にその迫力に引き込まれ、思わず手に汗を握った。

あの竜の速さに付いていける騎士は本当にすごい……。

そう思って見守っていると、決着は突然訪れた。


黄色のリボンを結んだ赤い竜が、黒い竜の下へと潜り込む。

その動きに気を取られた一瞬の隙をつき、すかさず、もう一頭の黄色いリボンを結んだ黄茶色の竜が横をすり抜け、騎乗していた騎士の腕を狙って模擬刀を打ち払った。


ガキンッ!


鋭い音とともに、模擬刀が空中を舞い、地面へと落ちていく。

この模擬戦では、刀を落とすか、竜が地に降りてしまえば負けになるのだという。


審判が勝利チームの名を高らかに読み上げる。


「わああああーーーー!」


歓声に包まれる中、黄色のリボンを結んだ竜が二頭、上空から広場へと舞い降りてきた。


竜騎士たちは竜の背から軽やかに飛び降り、観客へ向かって一礼する。

そしてすぐに竜に飛び乗り、空高くへと飛び立っていった。


その姿が空の彼方に消えると、間を置かず次の模擬戦が始まる。


次に姿を現したのは、先日ヘーゼルが出会ったあの騎士たちだった。


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