表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

14

このガゼット領から王都までは、馬車で三日かかる。

途中には宿もなく、馬車の中での寝泊まりとなる。


(竜騎士たちは、よくこのガゼット領の湖に来るけれど……竜で飛べば、王都からなんて、きっとあっという間なんでしょうね)


そんなことを考えているうちに、最初の休憩場所に到着した。


馬車は馬に引かれて進むが、一頭だけでは負担が大きいため、道中にはいくつか馬小屋が設けられており、定期的に馬を交換しながら旅を続けていく。

休憩場所では、ヘーゼルも水を飲んだり、体をほぐしたりして休憩を取る。

気分転換もかねて、馬車から遠く離れないように気をつけながら、あたりをゆっくりと散歩することにした。


森林浴のように気持ちのいい風が頬をなで、足元には可憐な草花が揺れている。


(へぇ、この辺にも野生の薬草が生えてるのね……)


ヘーゼルはふとしゃがみ込み、元気そうな薬草を指先でそっとつついて観察する。

すると、視界の端に、見たことのない奇妙な花が目に留まった。


(あれ……何かしら? あの花……見覚えがない花だわ……)


その花は、血のように鮮やかな赤。葉にはトゲのような突起があり、茎は鈍い紫色をしている。

全体的に小ぶりな植物だが、八株ほどが固まって群生しており、不思議なことに、周りを見渡してもその一角にしか咲いていない。


なんとなく気になって、ヘーゼルはゆっくりと立ち上がり、その花の方へ歩み寄った。

近づくにつれ、ツンと鼻を衝くような刺激臭があたりに漂い始める。


(うっ……すごくきつい匂い……一体この花、何なのかしら……?)


思わずハンカチを取り出し、鼻を押さえながらさらに近づいてみる。

匂いはさらに強く、思わず顔をしかめるほどだった。


(これだけ臭いが強いと、動物なら酩酊してしまいそう……でも、この一角だけに生えてるって、不自然よね。誰かが植えた……? )


見たことのない植物に不用意に触れるのはよくない。そう思いながらも、妙な違和感が頭から離れない。


(抜いておいた方がいいのかも……でも……)


葛藤しながらその場に立ち尽くしていると、徐々に頭の奥がじんわりと痛み始めた。

重たくなるような鈍痛に眉をひそめる。

しばらくして、ヘーゼルは花から離れ馬車の方へと足を向けた。



ヘーゼルが馬車に揺られること三日。

ようやく、王都の街に到着した。


ヘーゼルの住むガゼット領とは比べ物にならないほど、活気に満ちている。

行き交う人の多さに圧倒されながら、視線を巡らせれば、色とりどりの看板が軒を連ねていた。


(これ全部見て回るには……一年はかかりそう……!)


驚きと興奮を胸に抱きながらも、ヘーゼルは今回の目的、リベル薬局への薬の納品に向かう。

父に渡された手書きの地図を頼りに、大きな荷物を抱えて人混みを抜けていった。


道に迷うことなく、なんとか薬局に到着。

中に入ると、店員らしき若い女性と、年配の女性がちょうど会話をしているところだった。


「まだ薬は入ってこないのかい?一週間前には届くって言ってたじゃないか」


「申し訳ありません。薬を作っていただいている薬師の方が体調を崩されまして……。他のお薬でしたら、ご用意できるのですが」


「いいや。あの薬じゃなきゃ駄目なんだよ。お坊ちゃまが欲しがってるのは、あれなんだ」


声を荒げる年配の女性に、カウンターの店員は困り果てた表情を浮かべている。


(これは、まずいところに来てしまったかも……でも、どう考えても私の薬の話よね……)


だとしたら、ここで黙っているわけにはいかない。ヘーゼルは意を決して声を上げた。


「あ、あのっ!」


ピンと張り詰めた空気の中で、二人が同時にヘーゼルへと視線を向けた。

カウンターの女性が、はっと我に返ったように、慌てて声をかける。


「い、いらっしゃいませ!」


一方、年配の女性は不審げにこちらをじっと見つめていた。


「……こんにちは。ダンカン・ガゼットの娘、ヘーゼルと申します。遅くなってしまい申し訳ありません。薬の納品に参りました」


丁寧に頭を下げるヘーゼル。

すると、カウンターの女性が嬉しそうに目を輝かせて叫んだ。


「ビギンズさん!いま言っていた薬師の方です。お薬、届きましたよ!」


ヘーゼルは重たい鞄を足元に下ろし、中から袋に詰めた薬を取り出す。


「いつもご贔屓いただき、ありがとうございます。ご所望のお薬は、どちらでしょうか?」


ビギンズと呼ばれた女性は、目を細めて頷き、袋の中を確認すると、満足そうに多めの薬を買い求めて帰っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ