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その頃、カイロスはザイルと難なく合流していた。


「カイロス、伯父上は……?」


「大丈夫です。ご自身の騎士を伴ってどこかへ向かわれようとしていましたが、城の騎士が安全な場所へ誘導しております。まだその異変には気づかれていないようです……」


「……そうか。他に怪しい者は捕縛したのか?」


「……まだ奴らの足取りがつかめていません。ですが、この状況ならすぐに尻尾を出すでしょう」


カイロスとザイルが歩を速め、短く会話を交わしたそのとき、道をふさぐように、毛を逆立てた魔物が飛び出してきた。

牙をむき、荒い息を吐く。赤く濁った目は、明らかに何かに興奮している。


「っ……!」


ザイルがわずかに後退した瞬間、カイロスが叫んだ。


「殿下は後ろへ!アダン、殿下を目的地までお連れしろ!」


ザイルの恋人役として、先程まで演じていたアダンは今ではすっかり騎士の顔でそこに立つ。


「はっ!」


アダンは即座にザイルの前に飛び出して人混みを縫って走り出す。

カイロスは殿下を逃がすため、魔物と真正面から向き合い、剣を横に構えて間合いを計った。


竜の加護を持たない一般の騎士にとって、異形種の魔物の討伐は決して容易ではない。

それでも……


(殿下だけは、逃がす!)


魔物がザイルを追おうとし、身体の向きを変えかけた。


「行かせるかよ!」


カイロスは地面を蹴り、渾身の一撃で足を薙いだ。

重い剣が肉を裂き、魔物はよろめきながら不快な声を上げて膝をつく。

その直後、頭上から突風が叩きつける。影がふたりを覆った。


「カイロス!」


聞き慣れた声。


ブラッドが急降下し、その背に立つアクオスが既に剣を抜いていた。

ブラッドは翼を大きくはためかせ、巻き起こる風だけで砂埃と魔物の動きを奪う。

アクオスの剣が閃き、カイロスが足止めしていた魔物の胴を一刀で断ち割った。


魔物は悲鳴を上げる暇もなく崩れ落ち、黒い灰となって消えた。


「アクオス!俺は殿下を追う!ここは任せたぞ!」


「ああ!」


カイロスが走り出し、アクオスはブラッドへ合図を送る。

白い翼が地面を叩き、次の瞬間には次の魔物へと風を裂いて飛翔していた。




ザイルとともにいた少女、アダンはザイルを庇いながら走っていたが……


「っ……殿下、伏せてください!」


前方の建物の陰から魔物が姿を現した。

黒い体毛、膨れあがったコブ。

大きさはそこまで大きくはない。

口の奥では赤い光がちらつき、熱を帯び赤い目がぎらぎらと輝いている。


「……火を、噴く……?」


ザイルが息を呑む。

しかしアダンは一歩前に出て、盾を構えた。


「殿下、逃げてください!ここで時間を稼ぎます!」


その声音には、静かだが確かな覚悟が宿っていた。

魔物が喉を震わせ、ゴウッ、と空気が焼ける低い音が響く。


「来い……っ!」


アダンは盾を掲げ、足を踏みしめ、迫る炎に備えた。

だが魔物が吐き出す火炎は、常軌を逸していた。


(やはり……敵わぬか!?)


炎が視界一面を覆い尽くしたその瞬間、


キィィィンッ!!!


横合いから叩きつけるような突風。

それは炎ごと空気を切り裂き、軌道を無理やり逸らした。


「遅くなりました、殿下!」


カイロスは大剣を横一文字に振り抜き、大きな風圧を生じさせると、炎の壁を薙ぎ払ったまま、ザイルの前へ滑るように降り立った。


「殿下、ご無事ですね?……ここから先は危険度が上がります。魔物除けはお持ちですか?」


ザイルは胸元から魔物除けを取り出し、しっかりと頷く。


「ああ、持っている」


「それを肌身離さずお持ちください」


カイロスはアダンへ視線を送る。

アダンが無事であることを、互いの視線だけで確認した。

だが……カイロスがその視線をザイルへ戻したとき、すでに黒づくめの集団が、音もなくザイルを取り囲んでいた。

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