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それは店を出てすぐ、突如、ヘーゼルたちの前に飛び出してきた。
「ま、魔物!?」
赤い目をしたキツネ型の魔物。
尻尾が六本揺れているのを見て、ヘーゼルは一瞬で異形種だと悟った。
アクオスは躊躇など欠片も見せない。
腰の剣を瞬時に引き抜き、その魔物を容易く切り裂いた。
直後、本会場の方向から何かが破裂するような大きな音が響き、続いて悲鳴が上がった。
「アクオス様!!」
アクオスは声のしたほうへ視線を向け、目を細める。
「……出てきたな」
その小さな呟きは、ヘーゼルには届かない。
ぶわりと風が巻き起こり、次の瞬間、アクオスの竜、ブラッドが頭上に姿を現した。
ヘーゼルはすぐに状況を察し、ブラッドとアクオスの動きを妨げないよう数歩後ろへ下がる。
アクオスはヘーゼルにちらりと視線を寄こすと、大きく叫んだ。
「ヨーデル!頼むっ!」
言うが早いか、アクオスはブラッドの背へ飛び乗った。
「お任せをっ!」
気づけば、ヘーゼルの目の前には騎士装束のヨーデルが立っていた。
周囲を見回すと、いつの間にか他にも数名の騎士がヘーゼルを囲んでいる。
「ヘーゼル嬢、申し訳ありません!ヨーデルから離れずにいてください!」
そう告げ終えると同時に、アクオスは返事を待たずブラッドを操り、悲鳴の上がる方向へ飛び去っていった。
「ヘーゼル!ここから移動します!ついて来てください!」
「は、はいっ!」
緊迫した空気の中、ヨーデルの鋭い声で我に返ったヘーゼルは、すぐにその指示に従って走り出した。
アクオスから「魔物が出た場合は自分は行かなければならない。他の騎士がすぐに合流しますので、その指示に従って欲しい」と、あらかじめ言われていた。
ヘーゼルは、気合いを入れて目の前のヨーデルから離れないように、その背中をしっかりと見つめた。
メインストリートには魔物の群れが押し寄せ、逃げ惑う人々でごった返していた。
だが、どこからともなく現れた騎士たちが巧みに誘導しているため、混乱は最小限に抑えられている。
アクオスは上空から街全体を鋭く見渡した。
はるか遠く、だが肉眼で捉えられる距離に、数匹の竜がこちらへ向かって飛来してくるのが見える。
竜たちは一気に速度を上げ、あっという間にアクオスの元へ到着した。
「団長!始まりましたね!」
「……ああ。イーライ、デルダ、すぐに行けるか?」
「もちろんです。後発隊もすぐ来るでしょう。行きましょう」
「任せてください!すぐに動けます!!」
「よし、あの先頭に見える一番大きい奴からだ!」
アクオスの号令と同時に、デルダが風を切って急降下した。
「イーライ、デルダ!他の連中が来るまでは無茶をするな!」
「「了解っ!」」
上空から見下ろすと、街の中心部へ押し寄せる大量の魔物が視界一面に広がっていた。
その光景に、デルダは思わず顔をしかめる。
「……すごい数だな。えげつない……」
手綱を握り直し、デルダは竜フェイに声をかけた。
「行くぞ、フェイ!」
フェイは急降下し、先頭を進む大型の魔物へ一直線に向かう。
デルダは剣を抜き放つと、真上から振り下ろした。
魔物は巨体のわりに粗雑な動きで抵抗したが、皮膚は思ったほど硬くなかった。
デルダの剣はあっけなくその体を切り裂き、魔物は鈍い音を立てて地面へ崩れ落ちた。
「イーライさん、たいした魔物ではありませんでしたが……こいつら、どうやら一心不乱に街の中心部を目指しているようです」
デルダはそう言いながら、次に迫りくる魔物に向けて剣を構えた。
イーライも水竜ネイロの背で体勢を整え、間髪入れず攻撃を仕掛ける。
「切っても切っても、どんどん出てくる……!こんな数、初めてだ!」
デルダは襲いかかる魔物を斬り伏せながら眉をひそめる。
「フェイ、まだ来るぞ!右だ!」
フェイが鋭く吠え、翼をたたんで急旋回。
閃く爪が飛びかかってきた魔物の頭を軽々と引き裂いた。
血飛沫が宙に散るが、フェイは怯むどころかさらに加速する。
イーライのネイロは喉奥に魔力を溜め、ごうっと水圧の砲弾を吐き出した。
圧縮された水流は一直線に伸び、数匹の魔物をまとめて串刺しのように吹き飛ばす。
「くそっ、本当にキリがありませんね!」
「だが押し返す!ここで食い止めなきゃ街が危ない!」
二人が歯を食いしばったそのとき、上空が影に覆われた。
風が巻き上がり、空気が震える。魔物たちが本能で身を縮こまらせた。
「団長……!」
白い稲妻のようにブラッドが降り立つ。
光を反射する鱗、膨れあがる魔力の圧……それだけで周囲の魔物が震え上がった。
その背に立つのは、もちろんアクオス。
「デルダ、イーライ!下がれ!ここからは一気に叩く!」
アクオスの声が響いた瞬間、ブラッドの翼が大きくはためく。
ただそれだけで暴風が走り、周囲の魔物がまとめて吹き飛んだ。
「ブラッド、行くぞ!」
手綱を軽く引いた小さな動きに応じ、ブラッドが咆哮する。
空気が爆ぜた。
圧そのものが衝撃波となって前方へ奔り、触れた魔物を一斉に地へ叩き伏せ、千切り飛ばす。
「相変わらず、ブラッドの一撃はえげつないですね……!」
イーライが苦笑を漏らす。
ブラッドは滑空しながらアクオスの指示で群れを薙ぎ払う。
ひと振りの翼、ひとつの咆哮。
それだけで進路が開けていく。
アクオスは冷静に指示を飛ばした。
「二人は右と後方の魔物を抑えろ!正面は私とブラッドで殲滅する!」
「「了解!!」」
竜と竜騎士が本気を出した時の蹂躙は圧巻だった。
空と地を支配し、押し寄せる魔物の大群を、まるでそよ風のように押し返していく。
そして、アクオスの視線の先、
さらに奥で、巨大な影がうごめいているのが見えた。
「……まだまだいるようだな。行くぞ、ブラッド!」
アクオスを乗せて、ブラッドが次の獲物へ飛翔した。




