表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/129

113

祭りの中心街は、屋台を行き交う人々の声でにぎわっていた。

王太子ザイルは平民風の薄手の外套をまとい、髪も後ろでざっくり束ねている。

隣を歩く少女は、街の娘に見えるよう髪を下ろし、素朴なワンピースを着ていた。


しかしその実態は……

騎士団所属の女性騎士。ザイル付きの護衛の一人である。


ザイルは恋人に向けるようなにこやかな笑顔で少女に渡された串焼きを受け取る。

人混みのただ中で、あえて普通の青年のように振る舞う。


表向きは、王太子の極秘行動を隠すための偽装デート。

だが、ザイル自身にはひとかけらの浮ついた気持ちもない。

少女も同じだ。

徹底して周囲を警戒しつつ、時折ザイルの腕に触れて見せ、自然な恋人らしさを装っている。


そんなふたりを、少し離れた高台から見下ろしている男がいた。

ザイルの伯父にあたる人物、マーカスである。

マーカスはザイルを見つけた瞬間、口もとをゆっくりと釣り上げた。


「……楽しそうにしているではないか、ザイル……」


屋台を回りながらザイルが少女の手を引く。

人混みを歩きながら、ふたりは笑いあっている。

恋人同士に見えるその姿は、あまりに無防備。

まもなくこの村を襲うはずの魔物の脅威など、夢にも思っていないだろう。


「……ザイルよ、今のうちだけだ。生きて戻れるとは思うな」


マーカスはひとり言のように呟き、顎を上げて空を見上げる。

そこには、煙を含んだ風が流れていた。

遠くの建物の影に、不自然な揺らぎが生まれている。


まだこの会場のものは気がついていない魔物の兆候。


ザイルが死ねば、次の王位継承順位一位はマーカスだ。


(そろそろだな)


魔物の開放をしたらマキュベリー侯爵のカールが祭り会場に『赤い花火』を打ち上げる手筈になっている。

それが、マーカスが会場から姿を消す合図だ。


侯爵はすでに魔物の誘導が終わり、どこかの裏路地で花火を上げる準備を整えている。


「赤い花火が上がれば、私はすぐにここを退く。……後は勝手に……死んでくれるだろう」


ザイルが誰といようが知ったことではない。

護衛だろうと村娘だろうと、死の巻き添えにされるだけだ。

その程度の命など、マーカスにとっては塵ほどの価値もない。


「まったく……王太子がこんな様子であっけなく最後とは、笑うしかない。死の間際に、なんの警戒心もなくお楽しみとはな……」


人混みの中、ザイルは少女の頬についた蜜を指先でそっと拭い取る。

少女は『本当に照れた娘』のように顔を赤らめ、ザイルの袖をぎゅっとつかんだ。


その微笑ましい仕草を眺めながら……

マーカスの口もとは、ゆっくりと、あまりにも醜悪な笑みに歪んでいく。


「滑稽だ……ザイル。お前にはこれが、人生最後の祭りだ」


ぽん、と乾いた音が空に響いた。

祭りを盛り上げる花火が夜空を彩り、観客がいっせいに歓声を上げる。


「わあ!花火よ!」

「きれい……!!」

「ほら、見て!青い花火だ!」


ぽん、ぽん、と色とりどりの花が空に咲き乱れ、

会場の真上にも大輪の青い花火が広がる。


そんな中、誰かがふと指をさした。


「あれ……赤い花火だぞ!珍しいな!!」


「赤なんて、見たことないぞ」


祭り客はその赤い花火の珍しさにはしゃいでいたが、

マーカスはその瞬間、静かに目を細めた。


『合図』だ。


赤い光が空に広がるのを確認すると、

彼は黒い外套の裾を翻し、音もなく祭りの喧噪から離れていく。


「……さあ、始まるぞ。ザイル、もう、二度と会うことはないだろうが……」


冷たい笑みだけを残し、マーカスは街の中心、王族の観覧席から姿を消した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ