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食堂に集っていた竜騎士たちは、合図がかかると同時に席を立ち、竜舎へと急ぐ。


竜舎に辿り着くや否や、彼らは迷うことなく、それぞれが生涯を共にするパートナーである自分の竜のもとへと走り寄っていった。


イーライも、自分のパートナーである漆黒の鱗を持つネイロに飛び乗り、空へと舞い上がる。そのすぐ後ろには、デルダとダミアンの姿もあった。


「出現は南の農村の手前!森から出て、村へ向かっている!」


出現した魔物の情報を一人の騎士が大きな声で周りの騎士に叫びながら状況を説明する。


「くそ、よりによって人里近くに……!」


デルダが舌打ちした。


風を切り裂き、数頭の竜が次々と空へ舞い上がっていく。

緊張感が空気ごと肌を突き刺す。


魔物は『コア』という核を持ち、その存在によって力を得ている。

小型でも油断すれば命を落とす相手。

それを迎え撃つのは、竜と共に空を駆ける選ばれし騎士たち、竜騎士団だ。


「ッ!見えました、あれです!」


先頭を行く竜騎士が指さした先で、黒く巨大な影が森の外れをのっそりと移動していた。

木々の合間から姿を現したそれは、これまで誰も見たことのない異形の魔物だった。

近頃、このような異形種の出現が相次いでいる。

しかもそれらは、通常の魔物とは比べものにならないほどの力を持ち、竜騎士団ですら討伐に苦戦を強いられていた。


眼下にいる魔物は、背には棘のようなものが生え、黒くゴツゴツした頑丈そうな皮膚に覆われている。目や口がどこにあるのまったくわからない。

その魔物が唸り声のような咆哮をあげ、空気を震わせた。


「異形種か……でかいな……中型以上だ。異形種の魔物を舐めるなよ、ダミアン」


「は、はい!」


デルダの竜フェイが咆哮し、デルダを乗せたまま一気に降下する。

それに続くジルに乗ったダミアン。


他の竜たちもデルダに続き、魔物に向かって急下降していく。

討伐戦の幕が上がった。


魔物に最初に飛び込むのは、決まってデルダだった。


デルダは、最初の一撃で魔物の強さを測ることができる感覚の持ち主だ。

その一瞬で敵の力量を見極め、どの戦法で挑むかを即座に判断する。

それが、デルダが「一番槍」と呼ばれる所以である。


フェイに乗ったデルダは、魔物の懐へ一気に飛び込んだ。

フェイに的確な指示を与えながら、魔物の目前すれすれまで接近し、剣を構えてその頭部を狙う。


だが魔物も、ただの獣ではない。

迫りくる気配に気づくと、巨体を跳ね退き、大きな手で虫を払うようにデルダへと振り下ろした。

鋭く風を切るその一撃は、デルダのすぐそばを掠める。


フェイは見事にそれをかわし、天へと舞い上がる。

周囲では、他の竜騎士たちも次々と魔物に挑んでいった。

しかし今回の魔物は、驚くほど俊敏だった。

どの攻撃も、まるで動きを読んでいるかのように躱される。


デルダは、魔物の頭上高くからその様子を観察し、ある結論に辿り着いた。


「イーライさん!閃光弾を準備してください!!!!」


眼下では数頭の竜が突進していたが、どれも届かない。

魔物はすべての攻撃を意に介さず、軽やかに回避している。


「あれに、目があるのか!?……わかった!すぐに投げられるが、合図は任せるぞ!!」


イーライは腰のバッグに素早く手を伸ばし、閃光弾を取り出す。その動きに迷いはなく、彼はデルダの判断を疑っていなかった。


デルダは急下降しながら、大声で仲間に叫んだ。


「光が来る!!みんな、魔物から離れろっ!!」


その声に反応し、騎士たちはそれぞれの竜を操り、一斉に高度を上げていく。


「イーライさん、今ですっ!!」


デルダの合図に、イーライが渾身の力で閃光弾を魔物めがけて放った。

魔物に命中した閃光弾が、轟音とともに爆ぜ、眩い閃光を辺りに放つ。


魔物はたまらず咆哮を上げ、暴れるようにその場でもがいた。

鋭い爪が地を裂き、空をえぐる。

だが、明らかに動きが鈍っている。


「今だ!魔物は動けないでいる!首を狙え!」


イーライの声に応じて、上空に待機していた剣を持った騎士たちが、一斉に魔物へと急降下する。


だが、その瞬間、魔物が怒りに満ちた咆哮を上げながら立ち上がった。

魔物は目を庇い、唸るように息を吐き、やみくもに暴れている。


「くそっ!まずい、暴走だ!!」


デルダが思ったより早く、光を失い怒り狂った魔物が暴走を始める。


激昂した魔物の動きは予測がつかない。

それは竜と騎士の連携を断ち切るほどの危険を孕んでいる。


降下していた騎士たちは慌てて手綱を引き、竜を急旋回させた。

しかし、すべての攻撃をかわしきれるかは、運次第だった。


その時、


ビュオーーーッッ!と、鋭く風を切る音が、竜騎士たちの遥か頭上から聞こえてきた。

その音を耳にした騎士たちは、瞬時に反応し、魔物の頭上から一斉に離脱する。


雲を裂いて現れたのは、白く巨大な竜の姿。

風を巻き上げながら、真っ逆さまに降下してくる竜は、燃えるような赤い瞳を持つ、白の竜王ブラッド。

その背には、竜騎士団団長アクオスの姿があった。


「団長!!」


騎士たちはアクオスの登場に気づくと、即座にその進路を空け邪魔にならぬように空中を離脱していく。


「イーライ!!あいつ一体だけか!」


アクオスはブラッドの背に立ち、速度を緩めぬままイーライに問いかける。


「ええ、あの個体だけです!!目を潰した直後から暴走してる!!」


イーライの返答を聞くやいなや、アクオスは腰の長剣を引き抜いた。

人よりも長く、両手で扱うその剣を構え、彼はブラッドの手綱から手を放す。


腰を低く構え、重心を剣に込めると、竜の背から飛び出し、そのまま魔物の急所を狙って突っ込んでいく。


暴れ狂う魔物の体をするりとかわし、首元へと一閃。


ザンッ――!


空気を震わせるような音とともに、アクオスの剣が魔物の首筋に深く食い込んだ。

魔物は地響きのような咆哮を上げ、よろめきながら足元から崩れ落ちていく。


血飛沫が四方に飛び散る中、それを避けてアクオスはすぐにブラッドの足をつかみ、空中へと跳ね上がった。ブラッドはそれに応えるように羽ばたき、鮮やかに空を舞う。


そして、魔物の巨体が、地面へと崩れ落ちた。

その衝撃は大地を揺らし、辺りに重たい振動を響かせる。


魔物の動きが完全に止まったのを確認したイーライたちは、地上に舞い降りた。

というのも、魔物によっては群れで行動する種類も存在する。

竜騎士団の任務は、魔物を倒すことだけではない。

討伐後は空から周囲を警戒する者と、地上で魔物の状態を調べる者に分かれ、二手に分かれて対応する。


周囲の安全を確認し、異常がないことを確かめたら

後に到着する城の騎士団へと引き継ぎ、竜騎士団の仕事は完了となる。


アクオスが再びブラッドの背に乗り、あたりを警戒しながら空を旋回している中、地上ではイーライとデルダが魔物の亡骸に近づいていた。

倒れた巨体は、首が離れても、なお痙攣し動いているが、もはや抵抗の意思はない。 


「……こいつは、いったい何なんだ?」


デルダが魔物の首元に近づき、皮膚の表面にある太い棘を見ながらつぶやく。


「ただの魔物じゃない。皮膚の硬さと動きの速さが異常だった……?


イーライは厚手の皮の手袋を嵌めると、懐から金属の器具を取り出し魔物の体表を慎重に切り開いて中を確認する。


中からは、黒く結晶化したような異様なコアが現れた。

通常の魔物とは明らかに違う、不自然な色と密度を持った魔核だ。


「コアが歪んでる……異形種は、自然発生したものではないかもしれないな……」


「森の中に異常が何かあるのかも……?」


デルダが小さく言い、辺りの空気が一瞬、冷えた。


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