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「……そうか……マキュベリー家の執事は魔の森で死んでいたか……」
「ええ。第二騎士団団長のホークスより報告が上がってきました」
王太子の執務室。
向かい合わせに座ったザイル、サキレス、カイロスの三人の間に、重い空気が落ちる。
「カイロス、遺体は持ち帰ったのか?」
「いえ。本日は別任務があり、そのままにして帰還しています。明日、回収に向かう予定です」
「……明日になれば魔物に食われ、残らぬ可能性もあるが……暗くなった森は危険度が増す。判断としては妥当だ」
難しい顔のザイルに、サキレスが別の書類をめくりながら口を開いた。
「殿下、調査部の塔からの報告ですが……例の赤い花の無効化に成功したようです」
「おお!それは朗報だ。さすがはベールだな」
「……ただ、無効化した花はあの独特の匂いも消えるようで、そこから先の調整を……。まだ完全に完成したとはいえないようですが」
「そうか。しかしベールなら……いや、ヘーゼル嬢がいれば、それも時間の問題だろう」
「そう願いたいですね。こちらでは、薬が完成した際に備え、引き続き花の所在を追っています」
「ああ、頼む、サキレス」
サキレスが軽く頷くと、今度はカイロスが地図筒を手に前へ乗り出した。
「では殿下、護衛の件です。こちらの地図をご確認ください」
テーブルいっぱいに広げられたそれを見て、ザイルが目を細める。
「……これは、マイル村の地図か?」
「はい。殿下の『花祭り作戦』を遂行するための動線を組みました。殿下には村中の道を隅々まで覚えていただく必要があります」
「……隅々まで……。カイロス、それは嫌がらせか?」
「何をおっしゃいます殿下。花祭りを舞台に選んだのは殿下でしょう。殿下が一度でも動きを誤れば、市民が巻き込まれますよ」
「……カイロス、お前……まだ怒っているのか?」
カイロスの物言いに、ザイルが困ったように問いかける。
「怒ってなどいませんよ。王族を守る騎士団長が知らぬ場所で、殿下が勝手におとりになっていた……まあ、よくある話ですからね」
「……それは悪かった、と謝ったはずだろう……」
ザイルは明らかに不機嫌なカイロスを見て、サキレスへ『助けてくれ』と視線で訴える。
サキレスは肩をすくめた。
「カイロス、もうそのくらいにしておけ。殿下だって良かれと思ってされたのだ。……まあ、王太子として褒められた判断ではないがな」
「サキレス……もういい。私だって分かっている。無茶だし、軽率だった。ただ……王族として、これ以上この件に周りを巻き込みたくなかったんだ」
サキレスはため息を吐く。
「だとしても、行動に移す前に、ひと言相談してほしかったですよ……」
「……それも反省している」
カイロスもあきらめたようにため息をつく。
「では、ひとまず反省はそこまでにしていただいて。……殿下、よろしいですか?作戦の説明を始めます」
「わかった。隅々まで覚えるとしよう……」
「では、当日の配備ですが……」
そこから、三人の作戦会議は夜がふけるまで続いた。




