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「来るぞ!」


誰かの声とともに、森の中から地響きを伴って大きな影が飛び出してきた。


「魔物だ!かなり大きい!!しかも一匹じゃないぞ!!」


ヘーゼルは思わず肩をすくめ、必死に首を上げ、空を見る。

先ほどまで旋回していたダミアンとカルビンの竜が、いつの間にか姿を消していた。


その直後、豪風が吹き荒れる。

ベールは咄嗟にヘーゼルを抱きかかえ、飛ばされないよう体を抑えた。


低空を竜が突進していく。

風圧は軽く人を吹き飛ばすほどで、ベールに支えられなければ、ヘーゼルは確実に飛ばされていただろう。


竜は魔物めがけて体当たりをするように見えた。

しかし、ダミアンの竜ジルが空へ垂直に登り、一瞬のうちに魔物の一匹が地響きを立てて倒れた。


次の魔物も、カルビンの竜、ラウの炎に包まれ瞬く間に地面へ崩れる。


三体目はすばしっこく、死角から飛び出し騎士たちに襲いかかる。

騎士たちは応戦するが、押されて隊が崩れそうになる。


(大変!このままだと、誰かが怪我をしてしまう!)


ヘーゼルは荷物から魔物除けの薬を取り出し、飛びかかる魔物に投げつける。

しかし、軌道が逸れ、魔物の後ろでパリンと弾けただけだった。


魔物は漂う香りに一瞬躊躇したが、すぐにヘーゼルを狙って跳びかかる。

ベールはとっさに彼女を覆い、庇った。


そのとき、空を切り裂くように一つの影が飛んできた。

風を裂く羽音とともに、ヘーゼルたちに襲いかかる魔物を軽く一振りで薙ぎ払い、上昇する。


「……竜?」


音が次第に大きくなり、空気が揺れる。

いつの間にか、ヘーゼルたちのそばにいた竜騎士団の二人が視線をそちらに向け、誇らしげに背筋を伸ばした。


ベールも空を見上げ、低く呟く。


「……やっと来たか……」


白銀の鱗を持つ巨大な竜が、隊列の頭上で円を描く。

太陽の光を受け、鱗が鏡のようにきらめいた。


その背に立つのは、氷のように冷たい青い瞳の男。

アクオスが手綱を軽く引くと、竜は地面からわずかに浮かんで静止する。

風圧でヘーゼルの髪が揺れた。


「……アクオス様!」


思わず声が漏れる。

ダミアンとカルビンが小さく敬礼し、アクオスもわずかに顎を引いて応えた。


「遅れてすまない。調整に手間取った」


彼は竜の背から飛び降り、軽やかに着地する。

周囲の騎士たちはざわめくが、誰も声を上げられない。

竜騎士団団長アクオスと竜王ブラッドの圧倒的な存在感に圧されて。


ベールは肩をすくめた。


「三人目ってのは、やっぱりお前か」


「当然だ。ヘーゼル嬢が来るなら、私が来ない理由はない」


淡々とした口調ながら、不思議と頼もしさがある。

ヘーゼルは胸の奥が、少しだけ軽くなるのを感じた。


アクオスはヘーゼルに視線を落とした。


「……大丈夫ですか?怪我などはしていませんか?」


「はい、おかげさまで、皆、無事です」


ヘーゼルの無事を確認すると、アクオスは隊を見渡した


「……この隊の責任者は?」


「は、はい!第二騎士団団長、ホークスです」


すぐさまアクオスの前に進み出て挨拶するホークスは、緊張の面持ちだ。


「……まったくなっていないな。危うく怪我人が出るところだった」


「も、申し訳ございません」


ホークスは深く頭を垂れる。


「カルビン!」


地上におりてきていたカルビンを見つけ、声をかける。


「はい、団長」


「ホークスとともに、こちらの隊に加われ」


「わかりました」


「よろしく、ホークスさん」


「……よろしくお願いします」


普通であれば、ホークスが屈辱を感じてもおかしくない。

だが相手は竜騎士、騎士の中でもエリート中のエリートだ。

たとえ自分より若くとも、その実力は天と地ほどの差がある。


ホークスはそれを理解しているゆえに、表情ひとつ変えずアクオスの命令に従った。

そもそも、この国一番の腕と言えるアクオスの命令を、断れる者はいない。


他の騎士たちも、目を輝かせてアクオスを見つめる。


(そういえば、ゼルダも言っていたっけ、彼にはファンクラブがあると)


まさに、アクオスは騎士たち皆が憧れる存在なのだ。


「ここから先、何が起こるかわからない。自分の責務を必ず全うしろ。竜騎士団のカルビンと、副団長のホークスの命令は絶対だ。細かな指示も聞き漏らすな」


「「「「はい!」」」」


その一声で、隊列の空気が一気に引き締まった。

士気を高めた一行は、いよいよ魔の森の奥へと踏み込む。


「……赤い花の香りがします……」


あの、鼻を突くような、甘く強烈な匂いを発する花の香りが徐々に強まってくる。

神経を鈍らせるような香りだ。


「ああ、凄いな。花もまだ見えていないのに、匂いだけでそこにあると知らせてくるとは……」


ベールも、強烈な香りに顔を歪める。

聞けば、向かっている場所にはあの赤い花が十株ほど群生しているらしい。


「十株でこの匂いか……確かにこの強烈な香りなら、魔物もすぐに気づくな」


「……ホークスさん、あの、あそこにあるあれは……」


騎士の一人が、奥まった場所にある木の根元を指す。


「なんだ?」


「どうかされましたか?」


ヘーゼルが首を向けて視線をやろうとした瞬間、アクオスの背中が視界を遮った。


「ヘーゼル嬢は、こちらの事は気にされないように」


「え?」


急に視界を奪われ、アクオスの背中を仰ぎ見るヘーゼル。

ベールはアクオスの態度を見て、何かを悟ったように頷いた。


「カルビン、確認を」


アクオスは素早くカルビンに声をかける。

カルビンは何も言わず、木の方向へ歩き出す。

問題の場所に着くと、彼はアクオスに何か合図を送った。

アクオスも手で応える。


二人があまり声を出さないのには理由がある。

大きな声を出せば、魔物に勘づかれてしまう。

そのため、アクオスは可能な限り静かに動くことを命じていたのだ。


「ヘーゼル嬢、動かずこちらにいてください」


そう言うと、アクオスはカルビンの方へ向かった。

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