混乱
訓練室に再び静寂が戻る。教師たちが駆けつける中、豪炎寺 燈矢は警戒する教師たちを黙らせ、ゆっくりと凱音に近づいた。豪炎寺は凱音の汗だくの顔を真正面から見据え、問いただした。
「おい、如月凱音。お前、いつから『炎』の能力を持っていた?」
凱音は混乱しながらも、自己認識を主張する。
「何を言っているんだ、豪炎寺……。俺の能力は、氷だ。これは、能力の暴走で――」
「暴走だと?」
「お前が申告した能力は知っている。確かに『フロスト』だ。だが、今、お前が出した炎はなんだ?あれは、俺の『フレイム』と熱量も波長も、瓜二つだ。氷の能力者が、どうやったらあれほどの炎を出せる?」
凱音の頭の中で、混乱が極まる。
(豪炎寺は、この炎が俺の「氷の能力の変異」ではなく、「炎の能力」だと断言している。しかも、俺の炎が豪炎寺の能力と酷似しているだと?まさか、俺の『フロスト』が……)
自分の手から炎がでたという現実は、凱音の自己認識を根底から揺さぶる。
「俺は…… 炎なんて、知らない!」凱音は半ば叫ぶように否定する。
燈矢はそんな凱音を一瞥し、冷静に結論を突きつけた。
「嘘をついているか、それともお前自身が、自分の能力を理解できていないか。どちらにせよ、お前は危険すぎる。――次はお前の氷と、俺の炎で、訓練をさせてもらうぞ。如月」
豪炎寺は宣戦布告ともとれる言葉を残し、教師たちに囲まれて硬直する凱音を置いて、訓練室を後にした。




