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公平の神は公平に抽選で聖騎士を選ぶ  作者: 園日暮


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9 会議場の聖人たち


 初めに死があった。


 偉大なる始まりと終わりのカオス。それが世界を創り、その死が神々を生んだ。

 死より生まれしあまたの神々。


 最初に生まれしは、中庸の神カテドラル

 司るものは 不変 平等 中心 縁


 次に生まれしは、大地母神マザーグース

 司るものは 生命 大地 守護 魔


 公平の神ジャッジ

 司るものは 公平 秩序 法 無


 解放の神エア

 司るものは 解放 自由 混沌 無限


 戦女神サレナ

 司るものは 死 戦 支配 勇気


 そして、最後に生まれくる、知の神アダムカドモン

 司るものは 英知 伝達 罪 人類


 この六柱が神の中でも最も力持つ存在であり、六大神と呼称される。

 六大神を中心とした神々はこの世界を完全なものにするために、新たな神を生み出そうとした。

 すべての神から祝福を授かって生まれ出でる神王――万能神マイティ。

 司るものは 永遠 創造 未来 矛盾


 だが、万能神マイティが完成することはなかった。神々に裏切り者が現れた。

 言わずと知れた解放の神。すわち邪神エア。

 エアは異界の力を取り込み、自らが神王とならんとした。

 邪神と化したエアに、公平神ジャッジと万能神マイティの二柱が戦いを挑む。

 それを発端として、次々に神々の戦いが始まった。

 大地母神マザーグースと戦女神サレナが戦いをはじめ、太陽の神デイライトと月の神ルナシーが争う。

 戦はすべての神が肉体をなくし、この世界に直接干渉するすべを失って終結した。


 これが神の時代の終わりである。



 そして、邪神と呼ばれる解放の神エアは、いまだに六大神の一柱である。


 これに異を唱え、邪神を外し万能神を六大神に入れようという運動があった。

 これに賛同しその運動に加わった聖騎士は、ことごとくその加護を失った。


 知の神の加護を受け、聖騎士ギルド創設者の一人でもある賢者ノスト=ラダムスによると、「人が神の序列を決めようなどとする、傲慢の罪」ということらしい。


 どうやら神々の間では、邪神を六大神の一柱として認めているらしい。


 人間にしてみればシャレにならない魔物被害なんて、神にしてみれば庭に蟻が巣を作ったぐらいの感覚なのかもしれない。

 それとも、人間ごときがどれほどの被害を受けようと、神にしてみれば知ったことではないということかもしれない。


 そんな話を聞くと、むしろ「邪神」呼びの方がまずいのでは? 

 神の罰を受けたりしないだろうか。これまでずっと邪神呼びだったし、多分平気だろう。



 ……まあそんなわけで、六大神の一柱より加護を受けた少年と情報交換をしただけ。

 それだけ……とはいかなかった。



 聖騎士ギルド暗黒大陸支部中央本部。

 ギルドの支配地域にある建築物で、最高の高さを誇る建築物。

 ルージュシティの中心部にあり、他の建物の軽く数倍の高層ぶりは、遠景で見ると本当に際立っている。


 その内部、ギルド内裁判にも使われる部屋に、俺たちは呼び出された。

 そこに鎮座するはギルドのお偉方々。


 ギルド長。開発部長。聖騎士団総帥。統括部長。法務部長。聖人騎士団。


 「やべえよおっさん。ここにいるやつら、おれ達より強い奴らばかりだぞ」

 フェイの奴はよく分からない理由でソワソワしている。

 見習いから従騎士に上がったばかりの俺たちより弱い聖騎士なんて数えるくらいしかいねえよ。


 「恐れるものは何もなし。私たち何も悪いことしてない」

 毅然した顔で宣言するフラン。

 その顔の下では、組んだ手と足が落ち着きなくソワソワしている。


 俺は……まあ大丈夫だろうと思っていたのだが、なんか釣られてちょっと不安になってきた。不安3割、安心7割ぐらい。


 「……ええ~、……それでは当査問会を開始いたします」

 司会の聖騎士の開会を呼びかける声もちょっと上ずっている。

 なんかあの人もえらく緊張しているな。


 まずギルド法務部長が進み出て、俺たちに神技カンナギを掛ける。


 「公平の神よ。その公平なる定めに従い、今ここに御身の奇跡を。『人理掟ギルドロウ』」

 光が俺たち3人を包む。抵抗しないようにと言われていたが、ちょっと身構えてしまう。


 え~っと、確かこれは、ギルドの決まりに違反していないか、嘘をついていないかが判別されるやつだったはず。

 法務部長は無言で着席した。

 これは問題なかったってこと?

 把握していないようなギルドの法、第何条第何項第何号に違反してますとかいわれないで良かった。


 その後も進行は問題なく進んだ。

 これは俺たちの査問というより、ギルドがジャスの持ち込んだ件を議論する場なんじゃあ……。


 そして、俺たちはジャスについての印象を証言するように求められた。



 「嘘を付いてる風じゃなかった……には見られませんでしたし、特に何か企んでる風でもなか……ないようでしたので、言い分を素直に受け取ってもいいかと……思います。邪神ってそういうやつに……ええと……そんな素直に欲望のままに生きる人間を加護するとか聞いてる……ますし、そうだと思います」


 「正直、恐ろしいと感じました。別に危険は感じませんでしたし、そんなそぶりもありませんでした。ただ……ええと……その、余裕……のようなものが見られました。いざとなれば自分の力で何とでもできる。だから余裕でいられる。そんな風に思いました」


 「ええ……フェイ従騎士が先ほど述べたように、自分も素直――純粋な所があると感じました。フラン従騎士の証言のように、敵意はないですが、危うさも秘めている。そんな印象も受けました。


  ――ただ、神の加護を授かった人間ってもんは、みんなそんなところがあるとも思いますね。……よく聖騎士にいるガキと同じかな……と」



 証言が終わったら、俺たちの出番もほぼ終わった。後は議場の隅っこで会議が進むのを黙って見ているだけになった。

 「もう、帰ってよくね?」

 フェイが囁くが、いちおう何かまだ聞くことが出てくるかもしれないからな。それで留められているんだろう。



「あまりにも危険すぎるかと」

 議題は……ジャスの内地への亡命希望についてだ。


 亡命理由は、この暗黒大陸にいると信徒に狙われるのが煩わしいので、教団の勢力が薄い内地ポセイダン大陸に移住したいというものだ。


 別に内地でも邪神教団はいるが、この暗黒大陸と比べればごく少数。大っぴらには活動できず、地下に潜って潜伏している。

 過去に何度かの諍いが起こり、信徒たちは殲滅されるか、この暗黒大陸へ逃げ出すかした。

 それとは別に、内地でも今も邪神の加護を授かる人間は生まれている。この暗黒大陸でも邪神以外の神の加護を授かるものが生まれ落ちるように。

 神々は、人の生息地の勢力争いなどに興味を示さないものだからな。


 「それほどに強力な信徒――ではないにしても、邪神の加護を受けた人間を内地へ連れて行くのは賛成できませんな」


 徹底的に排除という訳ではないが、招き入れたい存在でもない。その意見に賛同するものは少なくないようだった。


 「ワタクシは賛成いたします」


 そう口火を切ったのは、長い金髪を時間のかかりそうな縦ロールにしている美女。戦闘の邪魔にならないのだろうか。

 あれは確か、戦女神サレナの聖騎士。ギルドでも数少ない聖人級聖騎士の人だったはず。名前までは思い出せないが。

 

 意外だ。戦女神の聖騎士はもっと好戦的だと思っていた。


 「亡命の希望が通らないのであれば、その者は教団に与して安寧を得ようとするでしょう。教団を利する結果になります。それならば多少の危険を承知でこちらに取り込む方が、有益だと思われます」


 やはり戦い脳系の人で良かったか。


 その後も、議論は紛糾した。

 無理もない。


 ギルド長―――正確には聖騎士ギルド暗黒大陸支部長。

 月の神デイライトの加護を授かった聖騎士で、この支部で唯一の従属神級聖騎士。

 その年齢はとうに100を超えていると言われているのに、外見はまるで訓練施設にすら入る前の少年のよう。唯一その髪色だけが年齢を現すかのように真っ白だ。

 そんな見るからに常人離れしているギルド長でさえ、神より神器を授かるという奇跡には遭遇していない。


 そうなんだよな。全く意識してなかったけど、あのジャスという少年。神器まで授かってるってことは、死後神になって邪神に使える存在になる。その可能性が高いんだよな。

 それは……ほっといていいのかって感じになる。


 そのジャスは「しばらくこの辺りにいますから」とだけ残していった。

 監視とか付けているんだろうか。気づかれるから止めてるかな。心証を害するし。

 放置しているとも考えにくい。

 教団に潜入させているスパイに見張らせているという辺りだろうか。

 邪教徒から狙われるのは日常と言っていたし、それならジャスも不審には思わないだろう。


 「――それで他に意見は?」

 暇に明かせて、埒もないことを考えている間にも会議は進む。

 意見を求めるギルド長がこの件についてどう思っているのか。その表情からはまるで伺えない。

 一人の出席者が許可を求め意見を述べ、他の出席者がそれに続く。


 議会はもめ続けている。


 「……ならばいっそ」

 そう声を挙げたのは聖騎士団総帥のネバー様だ。

 ブラウンの髪をきちっとオールバックにまとめた50代の老騎士。長い間現場で聖騎士を育成する役目に従事してきた。その経歴にふさわしい重厚さを持ち合わせている。

 その総帥が声量を挙げて反芻すると、議場は静まり返った。


 「いっそ、その少年と信徒どもを食い合わせるか? 適度に弱った所を両方とも始末し、神器は封印する。一石二鳥の作戦だな」


 発言する者は誰もいなかった。その場に満ちているのは、拒絶、の空気。


 「そのようなことを望むものはおりません」


 強い言葉で断言したのは、ギルドの職員たちの長。キャッチ統括部長だ。


 身長の小さい、白髪のおばあさんにしか見えないが、職員たちからギルドのおふくろさんと呼ばれ慕われている。一方で実の家族とは疎遠で、絶縁関係だとも聞いている。


 「だろうな」

 総帥も静かに同意する。


 神の法に従いし聖騎士たちに、そんな企みを是とする者はいなかったようだ。

 総帥の誘導によって議の空気は決まった。


 「――では、決を取る」


 ギルド長が厳かに宣告する。





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