8 神階の愛し子
ようやく、俺たちも見習いから昇格し、従騎士級になった。
聖騎士はギルドによって定められた階級がある。
見習い級 ここから始まる。試用期間みたいなもの。
従騎士級 ようやく正式に聖騎士の一員として認められた。
正騎士級 一人前の聖騎士。大部分の聖騎士はここに属す。
騎士長級 他の聖騎士の指揮や命令役をこなせると認められた。
大騎士級 選ばれた一部の英雄と呼ばれる域に達した者たち。
聖人級 人外の領域。
従属神級 死後、神になるとも言われる。神階級。
一番下からの脱却といったところだ。
従騎士級になったことで、俺たちだけで任務をこなしていいことになった。
フェイは単純に喜んでいるが、ウイメ正騎士からは釘を刺された。
「従騎士級からは、もう助けてくれる補助はない。身の丈に合わない任務で全滅するも自己責任さ。せいぜい気を付けるこったね」
といってもやることは哨戒任務だ。
特に今は魔物だけでなく使徒とも遭遇することがあるから注意せよとのお達しがされている。
それがわかるが、久しぶりの自分たちのパーティーだけでの任務。気分を変えて少々遠出もしたいというフェイの意見も取り入れて、結構奥地まで来る任務を受けた。
この辺りまで来ると建築物も見当たらない。自然のままに近い環境となる。ギルドの影響もほとんど及ばない土地。必然、邪教の使徒に遭遇する可能性も増す。
慎重に行動する必要があるだろう。
前回は何とかなったが、今度は使徒に会ったら逃げるぞとフェイには念押ししておいた。
「ん? ……こっちだ!」
突然、そのフェイが走り出した。
「オイ!」
いきなりのこれだ……かと思ったが。
「ダイジョーブだって…………ほら」
フェイの向かった先は、谷の上。
そこから谷の下を覗き込んでみると、なにやら争っている一団。なるほどこの位置からなら、向こうからは気づかれない。
さすがにそこまで考えなしじゃなかったか。
俺はほっとしつつ、谷底の光景を眺める。
一人の男――若いな、フェイたちと変わらないぐらいの――少年が三人の男に追われている。
そして――――
「使徒だな」
追っている三人が邪神の神技を使うのが確認できた。
「使徒――! 助けたほうがよくない?」
「それはどうかな」
フランの提案にフェイが待ったをかける。
「……追われてる方も邪教の信徒じゃないのか、あれ」
確かに。
こんな場所にいる時点で、選択肢はかなり少ない。
追われている少年の服装は、明らかにこの大陸の原住民のものだ。
となると……。
「邪教徒同士で内輪もめか?」
邪神こと解放の神エアの教義は、すべてが自由。望むままに行動せよ、というものだ。
もちろん信徒同士の殺し合いもどんどん推奨。
なので同士討ちだったとしてもおかしくないのだが……。
「信徒同士の同士討ちなら、勝手にやらせときゃいいんだよ」
「でも、そうじゃないかもしれない」
スパイ活動のために現地民の恰好をしているギルド側の人間かもしれないし。いや、それしては若すぎるか?
信徒とは違う現地の罪なき原住民かもしれない。
まず、はたしてこの暗黒大陸に邪教の信徒でない人間がいるのか?
信徒の中でも聖騎士のように、邪神より加護を授かった者たちは「使徒」と呼ばれ、特権階級にあるらしい。ならば、あれは貴族が奴隷をハンティングと称していたぶるような、胸糞の悪いものと同様の行動なのだろうか。
「見殺しにはできない」
フランは助けるに一票。
「罠かもよ。よくあるぜ、そういうの。助けに入ってくる奴を獲物にするための演技」
フェイは意外に冷酷だ。そうでもないか。血の気が多いだけで、進んで人助けをする奴でもないか。助かりたい奴は自分で助かれという派だ。
俺たちがのんびり議論をしている間も、一団は争っている。
少年はひたすら逃げの一手。わりと余裕があるようにも見える。その背にはやけに大きな長物を背負っている。全身に布が巻かれており、中身は見て取れない。
大剣か? それしては丸く厚みがある。馬上槍のようにも見えるが、あまりにも場違い感がある。
「おっさんはどうよ?」
「レイクさん?」
二人が俺の意見を求めてきた。
俺としては……
「助けようか」
罠だった場合、そこからでもまだ取り返しがつく。だが、見殺しにしてしまったら、それは取り返しがつかない。
助けるが俺の意見だ。
「よっしゃ、じゃあ行くぜ!」
方針が決まった途端、さっそく飛び出すフェイ。反対していたのに、真っ先に飛び出していく。
その足で崖を飛び降りていく。絶好調だな。
加護の力が戻った自分の身のこなしを見せつけるように、華麗に降下していく。
俺には無理。
フランに「制御」の魔法をかけてもらい、落下速度を落として半ば転がり落ちながら、なんとか崖を滑り降りる。
全身鎧と加護による肉体の強化で、それでも怪我もしていない。していたら回復するつもりだったが、その必要もなかった。
フランには崖上から魔法で砲撃してもらう。
俺が崖を降りた時、すでにフェイは間に入って追っていた使徒たちを挑発していた。
その使徒たちがそれぞれ神技を使う。
「解放の神よ!」
「『奪取』!」
「果てまで解き放たれよ!」
「法の盾!」
俺もフェイの前に5つの盾を出現させる。
ひとつ、ふたつの神技は自力でしのいだフェイだったが、最後のひとつはしのぎ切れなかった。
空気が圧力から解放されたように、爆発的に拡散するして衝撃がフェイを襲う。確かあれは邪神の神技「拡散」……だったはず。
「拡散」の面攻撃の5分の4が、見替えだけの盾をすり抜けてフェイを吹き飛ばす。
まずいか?
相手は思ったよりコンビネーションを取ってくる。
フェイのダメージは大したものでもなかったらしく、すぐに立ち直るがこれはとっととかく乱だけして撤退したほうがいいかも。
俺はようやくフェイの隣まで駆けつける。
それにまだ罠の可能性もある。逃げていた少年の方だって、敵じゃないとは限らな――
「解放!」
そう思って後ろを伺おうとした時、後ろから聞こえた。
それは以前に戦った使徒も使っていたものと同じ名前の神技。
しまった罠だったか。
そう思う間もなく、かれらは肉体から解放された。
以前の使徒が使ったものとは効果の格が違う。
少年を追っていた3人の使徒。かれらは塵すら残さず、跡形もなく暗黒大陸の大気と同化した。
一瞬で蒼白になった顔色で、俺は後ろを振り返る。
後ろから飛んできた神技は俺たちを飛び越えて、3人の信徒を微塵にせしめた。
やばいなこれは、あの信徒たち3人よりこの少年の方が遥かに強い。なんで逃げてたんだ?
……ここは、とりあえず。
「ありがとう。助かったよ。……余計なお世話だったかな」
本当に助かったのかはともかく、まず礼をしておく。
「いえ、礼には及びません」
少年は礼儀正しく返してきた。
「そりゃそうだよな」
フェイは物おじせず少年に相対している。ちょっとふてくされた気配がする。それはいいが、気は抜くなよ。
「助けなんて必要なかったじゃねえか。なんで逃げてたんだよ」
こちらより遥かに実力が高そうな邪神の使徒にもこの調子だ。
たぶん、俺らもあの「解放」一撃で消えるぞ。
もしかして直感で敵じゃないと感じているのか?
俺もそうあって欲しいが。
「争いは嫌いなので」
「……ふ~ん、まああんだけ強けりゃ、弱い者いじめにしかならないもんな。そりゃつまんねえよな……、だったらなんでやったんだよ」
「争いは嫌いですが、僕を助けようとした人を見殺しにしてまで避けようとは思いません」
どうやら敵意はない……で、いいのかね。
少年はジャスと名乗った。
作り物かと疑うような造作の整った少年で、その銀髪も神秘性をかもしている。
なるほど、神に愛されているなどと言われていても納得する説得力がある。
そう、彼は邪神――解放の神エアの加護を受けた聖騎士……でもなく、使徒……でもない。
どの集団にも属していない。
ただの邪神の加護を受けただけの少年だった。
そして、信徒たちからは邪神――解放神の愛し子などと呼ばれているそうだ。
その理由、そして使徒たちに追われていた理由は、彼の授かった加護がひときわ強力なものだったということ。それにもう1つ。
彼は邪神より『神器』を授かった。
背中に背負っていた長物がそれで、覆っていた布をほどくとその中には一振りの大剣があった。
剣というより巨大な爪か牙のような黒い刀身に、ちょっことした柄が付いているという印象を受けた。
「これが神器……初めて見た」
「私も……」
「そりゃそうだ」
「神器」なんてはそうそう見れるものでもない。
加護を授かったも聖騎士が道を究め、己の命と引き換えに神より授かるもの。それが「神器」。
神器は聖騎士の力を飛躍的に高めてくれる。
さらには神器と共鳴し、共に成長を重ねた者は、死後魂を神によって救い上げられ、新たな神の座に列する。その神の従属神となると言われている。
かなりやばいアイテムだ。
それをジャス少年は何の代償もなしに、加護と同時に授かったという。
同時に面倒も授かった。
次から次へと、神器目当ての使徒たちが襲い掛かってくる。幼いころからずっとそんな生活だという。
「さっきみたいにか」
「ええ」
キリがないので、いちいち襲ってくる奴らの相手をする気にもなれないと語った。
さっきの強さで、この感想……つまり……どれだけ返り討ちにしたのか。ジャス少年には否はないが、ちょっとうすら寒さを感じる。
「よく諦めないよな。実力差は明らかだろ」
「彼らは、実際に試してみないと納得しないんだ。使徒になるような人たちは、だいたいそういう人たちだよ」
「……しかし、どういうんだろうな?」
「なにがです?」
「ギルドと邪神の教団は敵対してるだろ。お前さんは……」
「ジャスでいいよ」
「ジャスは、どういう立ち位置になるんだ。教団に属していない人間も暗黒大陸にはいるんだっけ?」
「大部分は力で支配されているだけで、教団には属していても心まで服属しているわけじゃないよ。それに教団からは隠れて潜んでいる人たちもいる」
少年たちはすっかり馴染んで会話を交わしている。フランはそんな二人を眺めながらフェイに「ちょっとやめなよ」なんて言っている。
そして、俺はそれを後方で見守っている。
いかん、すっかり保護者だ。まだ、そんな年齢じゃない。
現地の生の声を聞けるのはありがたい。
「ジャスはどうなんだ」
「ばくは嫌いなんだ。教団も、邪神も」
ジャス少年は、解放の神を邪神と言い切った。
俺たちの言い方に合わせただけか、それとも―――
助けは必要なかったが、助けの礼――正確には助けようとした礼だとジャスはこの暗黒大陸について、俺たちの知らない、いくつかのことを教えてくれた。
最近ギルドの勢力下によく出没するようになってきた邪教徒たち。
あちこちに「扉」を開いていったり、小競り合いが絶えない。
それは四大主教と呼ばれる、教団の幹部の一人が、配下を引き連れちょっかいを掛けてきている。そのせいだろうと。
さらに教団の影響にない原住民の隠れ里。その場所や、彼らがギルドの保護下に入りたがってる、などの情報を教えてくれた。
さらにフェイがジャスに、一回試しに戦ってみてくれと模擬戦を申し込んだ。
まったくこいつは……。
訓練施設時代も、俺の法の盾を万物貫通で貫けるか試してみたいと言い寄ってきたことがあったな。
止める俺たちにも介せず、ジャスは気軽に受けた。神技だけでなく近接戦闘力でも俺たちとは一線を画した強さを持っていることを見せ付けられた。
その後、なんかフェイとジャスは爽やかに「お前やるな」などとやり取りを交わしている。
「今更だけど……良いの?」
「本当に今更だな」
フランはジャス少年に対して隔意がある。やはり邪神の加護を受けた人間には警戒心がぬぐえない。
「わりと興味深く、話聞いてなかったか」
「……うう、……つい」
「……問題ない、とは思うけどな」
邪神の加護を受けたってだけで敵認定するものではないと思う。
ギルドだって、そうではない、と思いたい。
実際に邪教徒たちとは争ってたわけだし。
「神器」まで所有している邪神の加護者ともなれば、重要人物だろうが、俺たち程度にそんな重要人物をどうこうできるはずがない。
警戒されないように情報を入手してきました、とでも言っとけばいいだろう。
さらに模擬戦というか、ガキのじゃれあいを終えたジャス少年は、ある提案をしてきた。
「僕はギルドの方に亡命したいのですが、取り次いで――もらえませんか」
そして、俺たちは帰還して、ギルドに報告する。
次の日、俺たちは呼び出され、聖騎士ギルド査問会を受けることになった。
ステータス
ジャス
腕力 49(+25)
器用 40(+25)
知力 38(+25)
敏捷 44(+25)
生命 47(+25)
精神 46(+25)
技能 ダークプリースト(エア)14(+4) ファイター 9 レンジャー 6 シャーマン 8




