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公平の神は公平に抽選で聖騎士を選ぶ  作者: 園日暮


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3 異界のミノ


 かつて、神々がまだこの世に肉体を持っていた時代。


 邪神こと解放の神エアは、異世界との「ゲート」を開いた。

 そして、扉からあふれ出す異界のエネルギーを手にし、神々の中でも最強の存在に至らんとした。

 それを契機として神々の間で争いが勃発し、それはやがてすべての神を巻き込む、神々の最終戦争が始まった。

 その結果、すべての神は肉体を失い精神だけの存在となり、人に加護を授けるといった形でしか現世に影響を及ぼせなくなった。


 その神々がいなくなっても、邪神の開けた異界への扉は残った。

 その『扉』から流れ込んでくるエネルギーが、この世界の物質に接触すると変異を起こし『魔物』になる。

 例えば、異界のエネルギーとこの世界の「牛」が混ざり合えば、ミノタウロスが生まれるというように。


 魔物は異界とこの世界のものが交じり合ったゆえか、この世界の生き物を襲い食らう性質を持っている。


 この暗黒大陸の極北には、神々の時代に邪神が開けた極大の「扉」が今も存在しており、それにより無尽蔵に魔物が生まれ続けていると聞く。

 これは伝承や神話のたぐいだが、邪神を信奉する教団のうち邪神の加護を受けた高位の使徒は、自らの手で扉を開く神技が使える。こっちはまぎれもない現実だ。


 この奥に「扉」があるのか、それとも別の場所から迷い込んできたのか。

 どちらにせよ、調査の必要がある。あのミノタウロスをなんとかして。


 ミノタウロスを発見した俺たちは、ミノに見つからないよう少し引き返して、戦闘準備を行う。

 調査に関してはこっちに任せっきりだったフェイは、戦闘に関することとなると積極的になる。


 万能神の加護を受けた者は器用な者が多く、だいたい何でもできる。鍛冶を司る神は別にいるが、フェイも鍛冶のスキルを持っており、愛用の武器は自分で鍛えた自作だ。

 先端が鉤爪のように曲がった剣。

 防具は動きやすさを重視した軽鎧。これもさすがに自作ではない。


 フランは魔法使い。


 記憶だと訓練施設にいた時、強力な魔法を何十発もぶっぱなしていた姿を見た覚えがある。

 頼みにさせてもらおう。

 防具はなにかの動物の皮で作ったローブで、全身を覆っている。

 魔法使いの使用する「古代語魔法」は自然界のマナを使って行う。そのため身に着けるものも、できるだけ自然に近いものがいいそうだ。

 この暗黒大陸に来てから購入したもので、内陸より質のいい皮らしい。

 「これは○○のかわ~」と、ウキウキで不気味な皮の買い物に突き合わされた時のことを覚えている。


 フランには遠距離に徹してもらい、魔物には接近させないようにした方がいいかな。


 もちろん、フェイとフランも聖騎士なので、加護で肉体能力自体も上昇している。

 半端な魔物の一撃程度なら、全然平気だろうが、気を付けるに越したことはない。



 最初はフランが遠距離魔法で一方的にミノタウロスを倒すと提案したが……

 「相手は案山子じゃねえんだ。一発食らえばこっちに向かってくる。一発で倒せるならともかく、そうなったらおれとおっさんが相手することになるぞ。おれたちに当てずに魔法をぶちこめるのか?」

 「……」

 フランが不満気に口を閉ざすが、一発で倒せる自信はないようだ。


 結局威力もありつつ、その後のミノタウロスの行動を阻害させる傷を負わせる魔法を最初に打ち、俺がタンクをやり、フェイがアタッカーを担当することで結論づいた。


 作戦会議は終わり、俺たちはミノの近くまで戻った。

 ミノは中空を虚ろに眺めている。

 外見は生物的だが、厳密には生物といっていい存在なのか疑問である。

 そんなやつの生物的反応をどこまで信用していいか不明だが、今のところはミノはこちらには気づいていないと思っていいだろう。


 交戦を開始する。


 フランが呪文を唱え、酸性の霧を現出させる。

 酸性のもやは、意思を持つかのかようにミノの周りに流れていく。

 それに対し、ミノは全く反応を見せない。

 無害な霧だと思っているのか、それともスイッチが入らないと動かない肉人形フレッシュゴーレムの類と同じなのか。


 酸の霧がミノに纏わりつき、皮膚を焼く。

 途端に反応があった。

 ミノは苦痛の雄たけびを上げると、霧を振り払おうと激しく身を動かす。

 しかし、魔法の霧はそんなことで散ったりしない。

 振り払おうとするたびに、さらに酸に身を焼かれるだけだ。


 酸はミノの皮膚と肉の一部を焼けただらせて、効果を失い消えていった。

 致命傷には程遠い。

 仮にこれが人であったなら、骨まで露出するほどに焼かれていただろう。改めて魔物の強靭さを目の当たりにする。


 ミノは俺たちを発見したようだ。怒りを込めて雄たけびをあげ、こちらに襲い掛かってくる。

 動くたびに焼かれた肉が痛むのか、動きにぎこちなさがある。


 すかさず、俺が前に出る。


 「公平の神よ! その力を」

 俺は公平神に呼び掛け、その奇跡を顕現させる。


 俺とミノの間に五つの盾が現れる。

 ハートに近い円形の盾は、縁取りが自然な形で内部に合流し、十字の模様を描いている。神の力で生み出されたものだけあって、神秘的な雰囲気を感じる装飾だ。


 これが公平神の神技、『法の盾』だ。

 物理的に破損されることのない盾であり、必中・・防御を誇る。


 だが、俺にそんなものは使えない。

 これは「法の盾」劣化版だ。

 俺が勝手に「ファイブジョーカー(ジョーカー入りファイブカード)」などと呼んでいる。


 五つ出現した盾の内、本物の「法の盾」は一つだけ。あとは幻の盾である。無論、自動で動いて敵の攻撃を防いでくれる必中効果もない。自分の意思で動かして攻撃を防ぐ。

 しかも、どれが幻の盾でどれが本物の盾か、俺にも分からないときている。


 俺の聖騎士としての能力では必中防御の「法の盾」は使えない。だが、必中から5分の1の確率でしか防げないリスクを負うなら、「法の盾」を使ってもいいと神の思し召しだ。

 それが俺の実力に応じた、公平の神との公平な取引の結果……なんだろうか?


 それはさておき、この盾でもやりようはいくらでもある。

 五つのカードの中に本物であるジョーカーが一つ。

 なら、それを相手に引かせればいいだけのこと。


 ミノは右腕に持った斧を無造作に振り回す。

 その軌道。斜め上から振り下ろされる道に、五つの盾を並べる。

 二つの幻の盾が、無抵抗にすり抜けられ、三つ目の本物の盾に当たった斧が弾き返される。


 トリックを知っている相手には通用しないだろうが、魔物相手にはこれで十分だ。

 すり抜ける盾とすり抜けない盾があるなんて、人間でも初見で見抜けるやつはそういないはずだ。

 ミノには何が起こったのかすら把握できないだろう。


 リスクを背負うことで発現できている神技なのに、取り扱いでリスクをなくして使う。実質リスクの踏み倒し。

 だが、神は何も言わない。

 これもまた公平神にとっては、また公平の一つだということなのだろうか。


 武器を弾かれた隙に、フェイがミノのふところまで一気に入り込んでいる。


 「よ~し、頼んだぜ万能神!」

 そして、武器に万能神の神技「万物貫通」を発現させる。


 万物貫通はその名の通りの万()を貫通させられる性能だ。

 訓練施設時代、俺の「法の盾」を貫けるかどうかやらせてくれというので、やらせてみたことがある。

 「法の盾」は()ではないので貫けなかった。


 そんな「万物貫通」だが、物であるなら容赦なく貫く。

 なかなかに危ない神技だ。


 フェイは先端が鉤爪状になっている剣の、鉤爪の部分にだけ万物を貫通する力を持たせた。

 というか、フェイの力量では武器全体にその効果を乗せることはできない。

 効果の出せる範囲に合わせて、武器を自作したというのが正しい。


 俺のジョーカーファイブと同じく、未熟なりに工夫してなんとか強力な神技を使っている状態だ。

 今後も効果が広がるごとに、武器を打ち直すつもりらしい。面倒くさないのかと聞けば、そういった作業はむしろ好みなのだそうだ。


 その名の通りの効果を発揮した剣の鉤爪部分が、ミノの右肩をたやすく貫通した。そして、そのままミノの肩を破壊する。

 俺の目には突っ込んで、引き抜いただけにしか見えないが、フェイはミノの腱なり骨なりだけを狙い、素早く切断しているのだ。

 よくできるな、そんなこと……。


 フェイの得意戦法であり、訓練施設では鎧の隙間から留め具をその鉤爪にひっかけてはがし取ったりとかしていた。

 器用な奴だ。自分で自分のことを天才とか自称している若いやつだが、あながちはったりだけでもないと思う。

 ただし、施設の教官からは、繊細で優麗ではあるが骨太の安心感には欠ける、とか評価を貰っていたっけ。


 ミノタウロスの上半身は人間と同じ構造に見える。

 実際にはどうなのかは知らないが、ほぼ同じと見て言いようだ。効果はあった。

 片腕の機能を失ったミノは、赤錆びた斧を持っていられなくなり、地面に落とす。


 ミノは無事なもう片方の腕をぶんわまして、フェイを振り払おうとするがその軌道は直線的。

 俺の現出させた直列に並んだ五つの盾に阻まれて、その拳はまたも弾き返される。


 その後も、俺が気を引いてその隙にフェイが攻撃。フランの出番もなく、フェイは鮮やかにミノタウロスを分解していった。


 元の姿を保てなくなるほどにバラバラにされたミノタウロスは、光の塵となり消え去る。

 ミノが消え去ったその跡に、一握りほどの結晶だけが残った。

 元の牛は取りついた異界のエネルギーに食われ、跡形も残らない。

 そのミノにとりついていた異界のエネルギーが結晶となって残ったもの。


 それが異晶石だ。


 万能神も真っ青な、万能のエネルギー源として多種多様な分野で幅広く活用されている。

 マジックアイテムの動力源になったり、魔法使用時の消耗を肩代わりしたり。乗り物の動力源からご家庭の灯りまで、何でも使える。

 もちろん、お値段の関係で使える範囲は各御家庭ごとに違ってくるだろうが。

 冒険者の収入源でもある。


 もともとは邪神由来、異界由来の二重にいわくつきの品なのだが、その事実が広く認知されるころには人々の生活に欠かせない動力としての地位を確保していた。

 なにしろ、魔物は神々の時代の終わりからいて、異晶石はそのころからずっと便利なブツとしてあったのだ。

 真実が知られた時には、すっかり人々の生活に紐づき切り離せないものになっていた。 

 もっとも、異晶石を使わない運動を促進している人たちもいる。だが、現在の人類が異晶石から離れて生活できるとは俺も思えない。


 魔物を倒して手に入れる異晶石の販売も、ギルドの収入源だ。そのおかげで俺たちもタダで訓練が受けられたわけだ。

 ミノの異晶石は回収して、ギルドに渡し報酬に変える。


 「イエーイ」

 フェイははしゃいで、フランにハイタッチを要求している。フランはしぶしぶとしたそぶりを見せるが、結局それに応えている。


 俺はというと、あっさりと勝利できたことに複雑な気持ちを抱いていた。


 ミノタウロスは熟練の冒険者でなんとか勝利できるほどの相手だ。

 それが、神の加護を受けた聖騎士ならば、訓練施設を卒業したばかりの見習いでもこんなに簡単に勝ててしまう。

 その事実に、素直に喜べない自分がいた。


 それはそれとして、ハイタッチには応えておく。



 ミノを倒した後も調査を続けた。

 洞窟の奥底。三階建ての建築物ぐらいもあろうを天井の高い吹き抜けで、俺たちはそれを発見した。


 「よく、こんなもんこんな所に作ったよな」

 フェイが呆れたようにつぶやく。


 そこには祭壇らしき空間があった。かつては、ここに住んでいた人たちが祈りの場としたのかもしれない。

 そんなものがこんな洞窟の中にあるとは、まったくフェイと同感だ。


 その祭壇の中心部に、それはあった。


 極彩色の断面を持つ、空間の亀裂。


 異界への「ゲート」だ。


 おそらく、ここから流れ込むエネルギーによってミノが生まれたのだろう。


 同時にこれを生み出した邪神の加護を受けしもの――「使徒」がいるはずだ。

 こんな場所まで牛が迷い込むはずもない。

 牛を連れてきて「扉」を開き、魔物を作った()()がいるはずだ。


 俺たちは警戒し周囲を探るが、人の気配はない。

 どうやら使徒は「扉」を開いた後、この場から立ち去ったようだ。


 「使徒ってのは、当て逃げみたいな野郎だな」

 フェイが吐き捨てる。


 邪神の加護を受けた者すべてが話が通じないわけではない。魔物とは違う。

 だが、邪神教団の教義は、何でも自由にやれだ。

 教団といっても、基本的に団員はみんな好き勝手に行動している。

 こんなところに扉を開いて、そのまま開きっぱなしにしていくような奴は、まともじゃないと思っておくべきだろう。


 「おっさん、閉じれないの?」

 フェイが気軽に言ってきたが、まず無理だな。


 邪神こと解放の神と、俺に加護を授けた公平の神は、対をなす双子神である。

 邪神が扉を開けられれば、公平の神は扉を閉じられる。

 邪神の使徒が神技で異界への「扉」を開けられるなら、公平の神にの神技でも「扉」を閉じられる。


 しかし、実際に「扉」を閉じられるかは術者の力量による。

 「扉」を開けられるのはそれなりに高位の使徒でないと無理なので、未熟な俺の神技で対抗するのは無理ってものだろう。


 だけど、まあ、いちおうやってはみるか。


 「公平の神に問う。我が祈りと引き換えに、公平なる取引の結果をこの場に権限したまえ!」


 神技は己が神に呼び掛けるだけで発動する。

 極論、「神よ!」だけでOKだ。

 ただし、それはあくまで略式なので、効果もそれなりのものに落ち着く。

 あんまり祈りが届かなかったというやつだ。


 聖騎士は試行錯誤して、神ごと、個人ごとに、自分にあった最も効果のある呼びかけを見つけ出す。

 時間的猶予があることもあって、俺は訓練施設で見つけた、最も効果のある神への呼びかけを使い、神技を行使する。


 「再構築リビルド


 俺の神聖魔法が扉に影響を及ぼす……が、


 「……揺らめきはしたね」

 慰めのつもりか、フランの声はいつもよりは優し気だ。

 やはり、俺の神聖魔法では扉を閉じることはできなかった。


 フェイは真剣な顔で扉を凝視していたが、

 「でも、少し前より縮んだ気はするぜ。このまま、後十回ぐらいやれば、消せるんじゃないの?」

 「いや、そういのじゃないから。一度やって消せないなら、何度やっても消せない。今度は縮みもしないよ」


 他の神の神技についてはそこまで詳しくないフェイは、その説明をいまいち飲み込めないのか、首をひねっている。


 ともかく、「扉」を放置するわけにはいかない。

 このままだと、また魔物が沸いてくる。

 近寄る動物や虫、さらには洞窟の岩肌や地面ですら、異界のエネルギーは融合し魔物に変えるのだ。


 あまりここに留まっていると、俺たちすら「扉」から流入してくる異界のエネルギーに触れて融合させられてしまうかもしれない。


 自分たちで閉じられないなら、閉じられる人を呼んでくるしかない。

 「扉」をこのままに立ち去るのは不安だが、悩んでも仕方がない。

 せめて洞窟の入口を瓦礫で塞いでおいて、ギルドに報告に戻ることにした。




キャラクターのステータスを記しておきます。   参考程度に

加護なしだと上限は24 技能Lvは10が上限となっています。

()内の数値は神の加護による上昇分


レイク

腕力 23(+10)

器用 25(+10)

知力 22(+10)

敏捷 26(+10)

生命 29(+10)

精神 28(+10)

技能Lv パラディン(ジャッジ)3 ファイター 2 レンジャー 2

    ギャンブラー 2 


フェイ

腕力 18(+3)

器用 37(+17)

知力  7(+1)

敏捷 36(+17)

生命 16(+3)

精神 27(+9)

技能Lv パラディン(マイティ)4 ファイター 3 グラップラー 3

    古代語魔法 1  鍛冶 1


フラン

腕力  6(+1)

器用 14

知力 25(+7)

敏捷 11

生命 20(+7)

精神 50(+30)

技能 パラディン(マザーグース)4 古代語魔法 6(+3)

   リサーチャー 2


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