20 神前の問答
追いついた。
「なんだよ。おっさんも来たのかよ」
フェイの奴は、ちょっと嬉しそうにぬけぬけと言ってのけた。
北の果て、すでに遠目に何か巨大なものが見えている。
あれが邪神の躯だろうか。
遠景に膨大な力があふれ出すのを、何かが塞いで止めているのが、俺にも感じられる。
こんな直前まで来て、俺たちはようやくフェイとジャスの二人に追いついた。
「来たのかよ、じゃない。まったく、こんな所まで来させやがって」
フランは睨みつけるだけで、何も言わない。
よく見ると目線は、フェイではなく、ジャスの方に行っている。
「止めに来た―――という訳でしょうか」
そのジャスは困り顔で呟く。
ん? こいつ、本当に、ただ困っているだけじゃないのか?
「止めに来た、とは違うな。お前さんらを『審判』しに来たのさ。ギルドにもそういってきた」
「なんだよ、それ。何が違うんだ。年寄は話が回りくどいな」
なんだろう。つい最近、同じことを思ったような……。
思えば、久しぶりの再会。向こうはギルド的には犯罪者扱い――いや、今のところは容疑者ぐらいか。ともかく、お互いの立場も変わった。
なのに、依然と変わりない調子の会話ができる。
一方、フランはそんな部分にも無言で不満を募らせている。
これは俺のいない間も、こんな調子だったんだろうな。
「まず、具体的にお前らが何をしようとしてるのか分かってないんだよ。止めるも何も、まずそれからだ。話せ」
「ではまず、僕の方から」
説明を求める俺に、ジャスが進み出てきた。
「ある日、いつものように神器を振るっていたら……」
日常的に振るうものだったっけ、アレ。
ともかく、神器が何かに共振しているのに気付いたらしい。
そして、共振が強くなる方向に向かってみると、ここにたどり着いたと。
ざっくりまとめるとそんなところだな。
「どうせここまで来たんのなら、この先は実物を見て話しませんか?」
誘ってるのは、アレだよな……。
「おいおい、大丈夫なのかよ。アレの近くなんだろ。魔物とか……」
「近づいてみれば、分かりますよ」
ジャスはさっさと歩きだす。
俺たちはしばし顔を見合わせるが、結局、フェイ、俺、フランの順にジャスを追った。
遠目に見えていた巨大なアレ。
巨大な穴に収まり、塞さいでいる、縦長の岩。
そう見えた。
その巨大な「扉」は、これまでに俺が見たどの「扉」とも違っていた。
まずすさまじく大きい。
これまで見た「扉」は、ちょっとした窓ぐらい。
四大主教グリムが開いた「扉」で玄関の扉ぐらいだった。
これは、かなりの遠距離からでも遠望できるほどに大きい。城門よりもでかいんじゃないか。
形も違う。
使徒どもが開いていた「扉」は、空間に亀裂が入るようにひび割れていて、その隙間から異界のエネルギーが流れ込んでいた。
この巨大な「扉」は滑らかな穴で、植物のように景観に溶け込んでいた。
ごく自然界な、異界への穴。
それを塞いでいるのは、『邪神の躯』……のはずだ。
巨大な「扉」をすっぽり塞ぐ、巨大な岩。
長い年月のせいか、表面はすっかりすり減って起伏がなくなっている。
人の形をしていると言われてみて見直せば、そう見えなくもない。
それが「扉」を完全に塞いでいるわけではなく、いくらかの隙間が空いている。
その隙間からは、これまでに感じたことがないほどの強烈な異界のエネルギーが漏れ出している。
異界のエネルギーはこの世界の物質と交じると、魔物と化す。
そのエネルギーは周囲の大地と混ざることなく、すべて巨岩に吸い込まれていた。
たしかにこれなら、魔物の害はないな。
だが、それ以上に……
「え~っと、それでどこまで話しましたっけ……そうそう、僕が初めてここに来た時のことでしたね」
もはや、はっきりと目に見えて激しく振動している神器。その揺れがうっとおしくなってきたのか、ジャスは神器から手を放し、地面に突き刺した。
フェイやフランも目の前に光景に息をのんでいる。
ジャスはそれに気づかない風に話を進める。
神器は、この巨岩と共鳴している。むしろ、この神器とやらは、元はアレの一部だったのかもしれない。
この大陸に伝わっている邪神の伝承の一つ。
解放神エアは他の神々を超えるため、異界からの力をその身に取り込んだ。
それは、今も続いている。
そして、エアは目覚める。すべての神々を超え、この世界すべてに解放をもたらすため。
そう、目の前にあるアレは、まぎれもなく解放神エアだ。
そして、今も力を増している。
さらにこの共振。
神器を肉体に近づけるほどに、共振は増す。
そう、共振。
神器だけでなく、肉体の方にも反応がある。
できるな。
ジャスはそう思ったそうだ。
邪神を――邪神の肉体を目覚めさせることが。
「降臨」
それは最高位の聖騎士や使徒が、その命と引き換えに成しえる神技の極み。
その身に、魂だけとなった神を降臨させることにより、その肉体は神にも等しい力を行使できる。
だが、その力に人の身は耐えきれず、例外なく死に至る。
命と引き換えの最終神技。
邪神の強力な加護を受け、邪神の愛し子とも呼ばれるジャス。その上、神器による補助もある。
ジャスなら「降臨」で邪神の魂を呼びだすことも可能だろう。
共振により肉体を蘇らせる。
「降臨」により、魂を呼び出す。
その時、邪神エアは神話の時代より、完全なる復活を遂げるだろう。
思っていたよりやばい案件だな、これ。
邪神の力を利用するとは聞いていたが、そこまでのことをするとは思っていなかった。
……それでも、俺はジャスは邪神を復活させるとは思わない。
それぐらいのことは、俺でも分かる。
「それが分かった時、思った。邪神が僕に神器を授けたのは、これをさせる為かなって。それで考えたんだ。
どうやったら、これを台無しにできるかな
って」
だろうなあ。
愛し子なんて呼ばれているが、それは一方通行の愛だ。
ジャスの方は、邪神に恨みすら持っている。
邪神の狙いなんて、叶えるはずがない。
そうなるはずだ。
…………さすがに、神ともあろう者が、そんなことも予想できないとは思えないんだが。
でも神はなあ……。人間とはあまりに精神構造が違う感じがあるからなあ。
本当にこれで復活するつもりだった、とも考えられる。
「……なんで、どうすれば台無しになるか考えたんですよ。最初は他の神を呼びだしてこの肉体を与えるとかできないかって、考えていたんですけど……」
そんな方法がさっぱり見つからず、そうこうしているうちに俺たちと出会い、そしてフェイと出会った。
フェイは力が欲しい。ならフェイにこの肉体をあげよう。
邪神の企みは台無し。フェイは力を手に入れる。
万々歳。
「本気で言ってんのか」
「何がです?」
う~む。前から思っていたが、ジャスのやつあまり情緒が育ってないな。
まあ育ってきた環境を考えると、納得だが。
普段の佇まいが泰然自若としてるから、そうは見えないのが厄介だな。
「……それで、どうやって、フェイをこの――肉体(?)の主にする気なんだ? フェイの魂だけ取り出して、こいつの中に入れるのか? どうやってやるんだ、それ? そんな神技でも使えるのか」
「さあ……どうしましょうか。まずは、来て、見て、考えようと思いまして。僕たちも来たばかりだし」
思ったより行き当たりばったりだった。
さて、それなら……
「フェイ」
呼びかけにフェイの体がビクンと揺れる。
叱られるのを恐れる子供のようだ。
それを恥じたのか、ごまかす様に強気な表情を作る。
「な、なんだよ」
「ジャスの話だよ。そういうことで間違いないか」
「…………ああ、そうだよ。こいつが」
扉に挟まっている巨岩を指す。
「使い物になるかどうか、品定めに来たのさ」
なるほどねえ。
「……それで、どうだった」
これで、使い物にならないから帰る、したらどうなるんだろう。
ギルド的には?
侵入禁止区域に入った罰だけで済んだりしないだろうか。
難しいかな。
「どうもこうも、まだ来たばっかだよ」
「こいつで、力を……ねえ。手に入るのかね。お前の望む力を」
それ以前に、フェイが自分の望む力なんて、そんなものを自分でもどんなものか理解できているのか。そこから怪しいな。
「そんなもん、やってみねえと、分かんねえよ」
「そうか~、なんか違うような気がするな~。他人事だけどな、客観ともいう。その客観的視点で見た結論を言うと、これでお前の望む力は手に入らないんじゃないかな」
「ただ、おれは力が欲しいだけだ。どんな力とか関係ねえよ」
そうかな? 本当に? 11才の時からフェイを見ている俺の結論によると、フェイの力への希求はそういったものじゃない気がする。
なんか見ていて痛々しい時がある。
「ふざけないで」
これまで黙り込んで聞いていたフランが、怒りを露わに……露わに……。あんまり露わじゃないな。
ともかく、怒りを胸に秘めて、物申す。
よし、言ってやれ。
勢いで言っちまえ。
俺は無責任に内心でけしかけた。
ステータス
フェイ
腕力 20(+5)
器用 39(+19)
知力 8(+2)
敏捷 36(+17)
生命 19(+4)
精神 27(+9)
技能 パラディン(マイティ)6 ファイター 6 グラップル 3 鍛冶 1 古代語魔法 1 レンジャー 2 シャーマン 1
ジャス
腕力 51(+27)
器用 42(+27)
知力 40(+27)
敏捷 46(+27)
生命 49(+27)
精神 48(+27)
技能 ダークプリースト(エア)15(+4) ファイター 10 レンジャー 6 シャーマン 9




