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13 不可視の声

 信徒の手下を取り逃がしてしまった。

 みんなと合流すると、そっちにも現れていたらしい。


 そして、フェイとジャスも逃がしたそうだ。


 「だってよ、やっぱ空飛ぶのはナシだろ、ナシ」


 相手を捕まえたのはベイル殿だけだった

 「危険人物はあぶりだせた。後は受け入れ態勢が整えば移動を開始する」


 そう言ってベイル殿は、他の聖騎士たちを呼び寄せた。

 そのまま彼らと魔物狩りを続け、里の住人を送り届けた。


 他の聖騎士たちは、呼び寄せたのか、最初から伏せていたのか。

 そんな俺の疑問など濁流のように押し寄せる任務の前に流されていく。


 ギルドの領域に侵入した邪教徒たちを一掃する、大討伐が行われることになったのだ。



 近頃の「ゲート」の異常発生についてギルドの調査が完了し、根本的対処に撃って出る。

 ジャスのもたらした情報もその一助になっていると思う。


 「教団は教主とトップとした集団だよ」

 俺たちもジャスからいくらかの情報を聞いた。

 「教主になれば、邪神より教団員すべてを支配し命令できる能力を授かる、と言われているんだ」

 「ホントかよ」

 「ぼくはどちらかというと、逆だと思ってる。邪神の加護によりそういう能力を手に入れた人が、教団を設立し教主になった。ここ300年ほどは教主の姿を見た人はいないそうなんだ」

 「……それは確実に、とっくの昔におっ死んでるんじゃないのか。教主は実質創設者一人で」

 「それがですね、姿は見なくても、声は聞こえるそうなんですよ」


 邪神教団にも階級がある。聖騎士ギルドにも正騎士級、騎士長級とランクがあるように。

 では教団の階級は誰が任命しているのか。

 それはいきなり当人に声が聞こえてくるそうだ。

 今日からお前は「司祭」。そっちのお前は「助祭」という具合に。


 「それは神の――邪神の声とは違うのか」

 俺も加護を授かる時だけ、公平の神の声を聞いた。

 「ええ、それとは違うそうです。ですが声が違うだけでとてもよく似ている現象だと」

 「それは……」

 教団の創始者である教主はすでに死んでいる。死んで、邪神の従属神となった。

 そして今も、教団を支配している。おそらくは生前よりも強い支配力で。


 「ですけど、『任命式』以外で声を聞くことも、命令されることもないそうですよ」


 これはジャスが使徒から狙われる理由もわかるし、ギルドがジャスを受け入れた理由も納得できる。

 神器なんて教主になりたい人間からすれば喉から手が出るほど欲しいし、ギルドが受け入れなければ新たな教主になりかねない。


 「現状教団を仕切っているのは『四大主教』ですね」


 教団四大主教。

 それぞれ「自立」・「自罰」・「自滅」・「自戒」の異名をもつ教団の大物。


 そのうちの「自立」は俺でも知っている。

 「やっぱりこちらでも有名人なんですね」


 「自立」のパルス。かつてはギルドの聖騎士だったが、教団に転んだ転向者。しかし、その加護は失われなず、二つの神より加護を授かった二重神恵者となっている。


 ジャスは「四大主教」全員と面識があるらしい。


 「『自罰』は話が通じる相手で、『自滅』は会話が成立しませんでしたよ」


 それで肝心の『自戒』。


 「実は『自戒』のグリムは、使徒なのに邪神嫌いで有名なんです」

 ジャス以外にもそんな奴がいるんだな。

 「それで少しは期待して接触してみたりもしたんですけど……、『自戒』のグリムは、会話はできるけど、話にならなかったかな」


 その「自戒」グリムが今回の件の元凶なのだ。

 手下を引き連れギルドの領域に侵入。「扉」や魔物を使った実験を行っている。


 ギルドは戦女神サレナの加護を授かった聖人級聖騎士マーガを討伐隊長とし、他数の聖騎士を導入。

 グリム及びその配下を討つための、大討伐を決行した。


 俺たちもそれに参加する。


 ジャスは参加しない。


 「お留守番ですね」と、ギルドで待機している。


 ギルドとしては不確定要素のジャスは作戦に参加させたくないのかね。


 「あの人はあまり会いたくない人なので、僕としては参加しないほうがいいかな。『レイクのおっさん』さんもフランさんも、遭遇しないことを祈ってますよ。フェイもね」



 「自戒」のグリムはギルドの勢力圏内。その東北部にある古代人エルダーの遺跡。現在、その地下に設けられた施設で実験を行っているという。


 その地下施設を地上から包囲し、逃げ道を潰す。

 さらに周辺を探り、発見された抜け道らしき通路にいくつかの部隊が侵入して、逃げ道を潰す。

 その後本隊による強襲が行われる手筈になっている。


 俺たちのパーティは調査部隊の一員に組み込まれていた。


 俺たち三人を加えて8人の大所帯パーティ。

 部隊長は大騎士級。4人が正騎士級。俺たちだけが従騎士級だ。


 しかし、なんで古代人は地下に施設なんか作ったのだろうか。不便なだけだと俺なんかは思うけど。


 「古代人エルダーにとっては地下も空中も海中も同じ。自由に行き来できる場所だったからだよ」

 フランが博識を披露する。

 「古代人エルダーにとっては地上に施設を作るより、地下を拡張して広げほうが壁や天井を作らなくて済むから楽。そんな感覚だったって説もある」

 「古代人は面倒くさがりだったのか?」

 その感想もどうかと思うぞ。


 「まあ、地下ここが古代人の遺跡とは限らないがねえ」

 声を掛けてきたのは同じ部隊の聖騎士。以前も護衛任務で一緒した、大地母神の聖騎士ウイメさんだ。

 相変らずのドワーフじみた体型で、人懐っこい笑みを浮かべている。


 「邪教徒どもが魔物を操れるって話が確かなら、魔物を操って地面を掘って作ったのかもしれないよ。力尽きるまで穴を掘らせて、力尽きたら魔物は異晶石になる」

 「一石二鳥か。嫌な使い方をする」

 「まったくだねえ」

 と、ウイメさんは笑い飛ばす。



 その誰が作ったか分からない地下通路を、抜け道がないか探りつつ進んでいくと……何に遭遇することもなく、どんどん進めてしまう。


 これはまずい流れなのでは?

 大負けも大勝ちもしないままベットレートだけがかさんでいっている時のような感覚を思い出した。


 「部隊長、ちょっと深入りしすぎなのでは」

 「うむ」

 そう思って提言すると部隊長も同じ思いだったようだ。苦虫を嚙み潰したような表情をしている。


 ここが脱出路として地下施設まで、保管、管理されている本物の逃げ道の可能性。

 だとすると、引き返して本隊より増員を貰い、出口で待ち換えておくべきでは。


 「……しかし我々だけが任務を遂行しないわけにもいかない。この道が途中で途切れていないか確認しなければ。増援を要求するにしても、嫌な予感がする、だけではな。余剰戦力があるわけではないんだ。それなりの理由が必要だ」

 「ですが、危険と遭遇してからでは手遅れになるのでは」

 「ああ…………、我々だけでは対処できない事態になった時は、レイク従騎士。お前たちのパーティが救援を呼びに行け」


 メンバーの中では一番若く未熟なメンツだからな、と続ける。

 それはそうだけどな……。


 続けようとした時に先行していたメンバーから、終点らしき地点まで来たと報告が入った。

 「聞いての通りだ。まずそこの様子を見てから進退を決める」

 部隊長は話を打ち切り、部隊から斥候レンジャー技能持ちを集め、終点らしき地点にある扉らしきものを慎重に調べようとする。

 扉というより、扉の形に壁に切れ込みがある。隠し扉のようになっているのか、それともただの壁か。



 だが、敵の動きは俺たちより遥か先をいっていた。



 「そんなせまっ苦しい所にいないで、もっと開放的にいこうよ」


 声は扉の向こうから聞こえた。


 「嗚呼、憎くて愛しい解放の神(アンチキショウ)よ。 その力、臣の前に。『解放リリース』」


 その瞬間、通路が開放された。

 ようやく二人並んで通れるぐらいだった通路が、巨大なトンネル状に広がり、扉も壁も解放・・されて消滅した。


 消えた壁の向こうには、さらに通路の跡。同じようにトンネル状に解放された通路だったもの。

 その先には、実験設備と思われる、いかがわしい設備と、複数の男女。


 今見た神技の強力さ。嫌な予感は的中した。この通路は敵の首魁が使うつもりの、直通の脱出路だったのか。


 「貴様が『自戒』のグリムか」

 部隊長は一瞬あっけにとられるも、すぐに気を取り直し、一歩進み出て問う。


 「いかにもそうだよ。そういう君たちはどちらの聖騎士さま?」


 男女の中の、ひと際背の高い灰色の長髪を垂らした大男が答える。


 「邪神の信者などに答える名はない」

 「そう、じゃあ、聖騎士а(アー)からエフってことでいいね」



 まずい。

 この戦力で勝てるのか。

 勝てないだろうな。


 部隊長もその辺は承知の上か、話しながら後ろに合図している。その合図を受けた聖騎士がマジックアイテムで本隊に通信を送っている。


 こちらの目的は、この主教を捕らえることでも、この道を守ることでもない。


 主教は動かず、配下と思しき5人も動かない。

 よく見ると、この間取り逃がしたミストと融合していた小男もいる。


 敵は全員使徒というわけではない?


 ジャスから聞いた話によれば教団は上の者に下の者が無条件で従う訳ではないらしい。

 それは教主のみの独裁的特権。

 主教という立場にいても教団の権威などで従わせることはできない。

 自らの手で配下にした人間しか、使える相手はいない。


 さらに観察するとやる気のなさそうな目をしたものもいる。協力を無理強いされている人間も少なくないと見ていいだろう。


 「なぜお前たちはギルドの勢力圏まで侵入してきた。何が狙いだ」

 部隊長は時間稼ぎの会話をしている。


 「うんいい質問だ。実験ってさあ、同じようにやっても、結果に違いが出てくるじゃない」

 「? まあ、その原因を突き止めるのが実験の意義だろうな」

 「そうそう、それで、同じ実験でも環境や場所で結果に変化が出るものなのだよ」

 「……?


  ……! 


  貴様、まさか、単に実験する場所を変えて、結果が変わるかどうか調べてみたかったからギルド勢力圏まで来た、などと言うまいな」

 「そんな、場所を変えてみたかったからだなんて、とんでもない。そんな気まぐれじゃないよ、きちんとした理由がある。50年周期で大陸を巡って、ずっと場所を変えながら実験をしているんだよ。それで今回はここいらにやってきたってわけ」


 なんだこいつは。幼児か。

 人の迷惑を顧みない思考に、絶大な力。

 これは質の悪い輩だ。


 「貴様……」

 激昂して、進み出かかっている聖騎士を部隊長が止めている。


 今の所、主教グリムにはやる気がない模様。


 「聖騎士との戦闘記録はあまり多くないんだよね。……じかで見たいなあ」

 などと、配下をけしかけようとしている。


 その言葉に答えたか、配下の女が進み出て、指示を出し始めた。ルビーの輝きを宿した前髪を大きく垂らしている。動いた時に見えたが前髪の下には大きな傷があった。


 その指示に従って他の4人が動き出すが、どこか緩慢な動きだ。

 やはりやる気がないのだろうか。


 そこにフランの火球ファイアーボールが飛んだ。

 部隊長から牽制の指示があったのだ。


 「支配ドミネート!」


 指示出ししていた女が邪神の神技を発動させた。あの女は使徒か。


 火球ファイアーボールは俺たちと信徒たち、その中間点で爆発した。

 どんな神技だ?


 驚くフラン。

 驚く俺たち。

 向こうの女も驚いている。


 一人、グリムだけが愉快そうに笑っていた。



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