11 傾向と遭遇
どうも今回はよく魔物に遭遇する。
「なんでも、最近魔物がよく現れるようになってきたらしいですよ」
「それで保護を求めてきたのか」
「それもあるでしょうね」
ギルドの保護下に入りたがっている現地民の隠れ里に向かう道中の森の中、これで何度目の襲撃だろうか。
「さすがに多すぎるな、これは」
交渉役として付いてきた、森の神の聖騎士ベイル殿も愚痴をこぼす。
つい今しがたも空を飛ぶ、コウモリと融合したであろう魔物が襲ってきた。
空中の敵にてこずっている俺たちをしり目に、取り囲む木々から伸びたツルが魔物を捕まえてズタズタに引き裂いた。
森の神の神技を使ったベイル殿。大騎士級の実力の持ち主だと聞いている。
「この異常頻度は、近くに「扉」があるか」
そのベイル殿の、あまりうれしくない予想。
「それなら使徒もいるかもしれないってことですか」
「……そう単純なら、いっそ楽なのだがな」
含みを持たせたベイル殿の発言の真意を問う間もなく、また新しい魔物が現れた。
今度のは気体の魔物。
なんでも異界の力と、空気中の微細な物質が融合した魔物だそうだ。白いミストのような塊が、邪悪な意思を持って襲い掛かってくる。
「また違う種類。しかも、融合しにくい気体との融合系か」
ベイル殿には何か思い当たることがあるのか。あるなら勿体就けずに言ってほしいものだが。
そんなことを考えているうちに、フェイが白い塊に突進していた。
空の魔物にはなかなか決定打を与えられなかったのでフラストレーションが溜まっているのか。
しかし、この魔物にも、通用する攻撃がない気がするぞ。
「万物貫通」の神技を宿した剣が、魔物を貫通する。
しかし、特に効果もなく、貫かれた先から元に戻っていく。別に「万物貫通」など使わなくても貫通しただろう。
勢いあまって体ごと魔物にぶつかって、そのまますり抜けている。
「ペッ! 水っぽいな」
唾を吐き出しながら悪態をつく。
体内に入って大丈夫なものなのか、アレ?
「大気中の水分と融合したタイプだね。イビルミストかな」
フランが古代語魔法で炎を生み出す。しかし生み出してから、どれほどの効果があるのか疑問に思い出したか、発射せず様子を見ている。
そうこうしているうちに、辺りからイビルミストが大量に溢れてきた。
不定形なイビルミストは形を崩し、触手のように伸ばした体の一部でこちらに触れようとしてくる。
「今度はやばい気がする」
先ほどイビルミストに突っ込んだフェイが、今度は必死でミストを避ける。
「攻撃態勢に入った時のイビルミストの体は毒性を持つようになる」
ベイル殿から注意が飛ぶ。
「それに帯電もしている。接触は避けろ」
ベイル殿は四方八方からツルを伸ばしイビルミストをぐちゃぐちゃに撹拌する。
寸断され一個体としての形状を保てなくなるほどに裁断されたイビルミスト。粉々になった全体がブルブルと震えたかと思うと、空気に溶け込むように拡散して消えて行った。今のがイビルミストの断末魔なのか。
フェイはいまいち有効打を見いだせず、避け続けるのみ。
ベイル殿と同じ方法を取りたがっているが、帯電したミストに触れたくなくて別の方法を探っている。
フランは炎で行くべきか、氷で行くべきべきか。悩みながら試行錯誤している。
俺はといえば……実はこの手のタイプとは相性が悪くない。
「公平の神、ジャッジよ」
「再構築」を神に乞い願う。
俺の目の前でイビルミストは空気に溶け込むように拡散して消えて行った。
その中心部に魔石だけが残り、地面に落ちる。
石や木、生物などの固体と融合した魔物とは違い、気体との融合は不安定なことが多い。
なので、あるべき本来の姿に戻す「再構築」が効きやすい。そして「再構築」が通れば、この類の魔物は一発だ。
そんな魔物と必死こいて戦っている俺たち他所に、何もしていないやつがいる。
ジャスだ。あいつは魔物と俺たちの戦いを、突っ立って見ているだけで何もしていない。
邪神の加護を授かった使徒たちには一つの特徴がある。
一貫していればいいというものではない主義で一貫している所だ。
ジャスは使徒ではないが、邪神の加護を授かったという点では奴らと同じ。
邪神の気に入る性質をしている人間の一人だ。
ジャスは争いが嫌いなので争いは避ける、と主張していた。
こんな時でも争いを避ける主義を一貫するようだ。
これまでの道中も一切魔物との闘いに参加しようとしなかった。
あいつの亡命希望はギルトへの功績と引き換えのはずだったが、そんな協力姿勢が見えない態度でいいのか?
「ええい! ちょっと、ジャス! お前、手伝え」
しびれを切らしたか、フェイがジャスに協力を要請した。
「ああ、了解」
ジャスは背中から神器の大剣を持ち出した。
言われれば戦うのか。
どういう基準で動いているのか、いまいち鮮明じゃないな
そこからはあっという間だった。
ジャスは踏み込みが見えないほどの速さで、次々にイビルミストを串刺しにしていった。神器で刺されたイビルミストはそれだけ消滅。
さすがは神器といったところか。
その後も作業的に串刺し続け、瞬く間にイビルミストの群れは壊滅した。
だが、気になる点がある。魔物を倒したのに、魔石が残らなかった。
それに……
「吸収したように見えたが。その神器に、魔物が……」
「ええ、この神器には異界のエネルギーを吸収する機能があるようなので。だいたいの魔物は刺せば、吸収して消えます」
「へえ、それでエネルギーを貯めて、従属神になる力にするのか?」
フェイが話に混ざってきた。
「いや、吸収したエネルギーは解放して放つこともできる。たぶん関係ないと思うよ」
ほ~と納得いったようないかないような声を挙げるフェイ。
そんな俺たちを見ている視線を感じる。
ベイル殿だ。あれは観察か……監視か。ジャスの実力を値踏みしているのか。
それにしても戦っている間にも思ったが、邪神の加護を授かったものの、一貫していればいいというものでもないというところまで一貫しているという共通点は、邪神がそういう人間を選んでいるのか。
気になったのでベイル殿に相談してみる。
「え?」
ベイル殿は意表を突かれた感で、それまでの値踏みするような目線から、呆けたような目になった。
「おいおい」
フェイの奴までなんだか呆れた様子になった。
「う~ん、あのな。レイク従騎士」
ベイル殿は慎重に言葉を選びながら話そうとしているようだ。
「……それは確かに邪神の……解放の神の加護者によくみられるというか、多い特徴ではある」
ジャスは何の話なのか興味深げにこちらに注目している。
「同時に、解放の神と公平の神は双子神で、……似ている所があるのか……公平の神の聖騎士にもよく見られる特徴なんだ、それは」
え?
「だよな~」
「あっ、やっぱりそれで良かったんだ。どう反応していいかと思った」
フェイとフランが何か納得している。
あれ?
「ははあ、なるほど」
ジャスまで得心が言ったという表情で頷いている。
「知っていますよ、それ。『お前が言うな』というやつですね」
なんだか納得いかないまま隠れ里に向かった。
里との交渉はベイル殿が担当する。
里長と彼が話し合っている間、俺たちは里を見て回った。
あまり広くもない里で、人口は総数で20人もいるかいないか。
簡素な家屋がまばらに建ち、自然の要害を利用して里の守りに使っている。
住民たちは期待と疑惑が入り混じった目でこちらを見ている。
ベイル殿が戻ってきて語ってくれたが、どうやら最近異様に里周りに魔物が増えたらしい。
それに伴い、里人たちの情緒も大分不安定になってきている。あまり刺激するのは避けてほしいとの要望があったようだ。
「……それでどうするんです? ここに聖騎士を派遣するのか。それとも、この里を捨ててギルド近くに移住する手伝いをするんですか」
俺の疑問ももっともだと、ベイル殿は応える。
「ここに聖騎士を派遣しても守り切れるかは怪しい。地理的にも移住がいいと思う。里長も賛成してくれた。……ただ」
ベイル殿は途中で切って、向こうで相談しようと促す。
「里人を連れていく際に不安がある」
里人のいない場所まで移動して話の続きをする。
「この魔物の異常な多さ。これは信徒が関わっている可能性が高い」
「いいじゃないすか。ついでに信徒も見つけてやっちまいましょうぜ」
フェイが景気よく発言するが、ベイル殿の心配している点は違った。
「わざわざこの里の近くに来て、この里は見つけられず、魔物だけ放っているとは考えづらい。里人の中に信徒が紛れ込んでいるかもしれない」
だとすると、里人を全員連れて行くことで、俺たちが信徒を招き入れることになってしまう。
「まず、その疑いを晴らしてからだ」
「……それであまり刺激するなという話になったというわけですか」
「里の人で怪しい人、分からないの?」
「教団の支配から逃げてきた人の寄り集まりなのでな、ずっとここに住んでいた人々ではないようだ。いわば全員、見ず知らずの他人に近い。寄り合い所帯だ。……結束などもないため、すぐに統率は乱れるぞ」
魔物害から逃れるために早く移住したい里人。
信徒を侵入させたくない俺たち。
さて、どちらを優先すべきか。
どうすべきか。
ステータス
ベイル
腕力 19(+2)
器用 33(+15)
知力 27(+7)
敏捷 30(+17)
生命 33(+17)
精神 21(+7)
技能 パラディン(ホールディング)6 レンジャー 6 アサシン 4