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「ツチノコの正体」


「ツチノコ」という言葉を聞いて、どんな姿を思い浮かべるだろうか。


日本各地で目撃情報がありながら、未だにその実在が証明されていない未確認生物(UMA)。

太く短い胴体に、先の尖った頭部。

普通の蛇とは違い、くびれがなく寸胴なフォルムをしている。


それでいて、まるでボールのように跳ねたり、太い体を転がして進むとも言われる。


そして――。


「ツチノコは人の言葉を喋る」


そんな奇妙な伝承も、一部の地域に伝わっている。


全国には「ツチノコを捕まえた者に懸賞金を出す」という自治体すらあるが、これまでにツチノコを捕獲した者は誰一人としていない。

目撃証言は増えるばかりで、決定的な証拠は出てこない。


「ツチノコは実在するのか?」


それとも――「実在してはならないもの」なのか?



今回、僕が訪れたのは、とある山間の小さな村だった。


ここでは「ツチノコが神の使いとして信仰されている」という話を聞いた。


UMAとしてのツチノコは広く知られているが、信仰の対象として祀られている例は珍しい。

そして何より、ここにはツチノコにまつわる「ある奇妙な掟」があるという。



村へ向かうため、僕はレンタカーを借りて山道を進んだ。

途中からは舗装もされていない細い道。


進むほどに、景色は静かになっていく。



村の入り口には、木製の鳥居が立っていた。

朱色はすっかり剥げ、木の表面は苔むしている。


集落に入ると、数軒の民家が並んでいた。

しかし、驚くほど人の気配がない。


僕はとりあえず、村の中心にあるという神社へ向かうことにした。



村の神社は、山の中腹にあった。

小さな社がぽつんと立っている。


本殿の中には、小さな木彫りの像が祀られていた。


それは、明らかに「ツチノコ」の形をしていた。



「珍しいでしょう?」


声をかけてきたのは、神主だった。


「ここではツチノコを神の使いとして祀っています」


「なぜツチノコが神の使いとされるようになったのでしょう?」


神主は少し考えたあと、言葉を選ぶようにして言った。


「昔からの決まりだからです」



どこか歯切れが悪い。


さらに話を聞くと、驚くべき掟があることが分かった。


「ツチノコを見た者は村を出なければならない」

「そして、ツチノコの姿を語ってはならない」


そんな奇妙な決まりが、この村にはあるという。



「見た者は、村を出なければならない……?」


「はい。ツチノコを見たことがある者は、この村にはいません」



それは、どう考えてもおかしい。


全国各地で目撃情報があるツチノコが、ここでは「誰も見たことがない」というのは矛盾している。



神主はそれ以上の説明をせず、僕はそのまま村を後にした。


しかし、僕はどうしても気になり、村の古老に話を聞くことにした。



「……ツチノコが、何か知りたいのか?」


民家の縁側に座っていた老人が、ぼそりと言った。


「ええ、神主さんから話は聞いたのですが……」


老人は、ため息をつくと、低い声で言った。


「ツチノコは、元は人間だったんだよ」



僕は、思わず言葉を失った。



「どういうことですか?」



「昔、この村では”選ばれた者”がツチノコになったんだ」



「選ばれた者……?」


「ツチノコはな、“人の言葉を喋る” んだよ」



僕は、背筋が冷たくなるのを感じた。



神主の言葉が、ここで繋がった。


「ツチノコを見た者は、村を出なければならない」


それはつまり――




僕は、ふと神社で見た木彫りのツチノコ像を思い出した。


あの像には、なぜか「手のような形をした突起」があった。


それが何を意味するのか、今なら分かる。




ツチノコとはかつてこの村にいた”誰か”――




夜、村を発つ前に、もう一度神社へ向かった。


木彫りのツチノコ像を見つめる。


すると――



背後で、かすかな音がした。



森の奥。


そこに、“何か”がいる気がした。



――「見てはいけない」。



村の掟が、頭の中で響いた。



僕は、そっとその場を後にした。




そして、それ以来――


ツチノコに関する記録は、僕の手元から”消えていた”。


(完)

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