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短編小説どもの眠り場

この空を、微笑みと名付けたい

作者: 那須茄子

 病院の屋上には、静かな風が吹いていた。

 青空の下、私は、弱りきった幼馴染みと共に座っていた。


「みぞれ、今日はどう?」


 私は優しく問いかけた。


「うん、今日は少し楽だよ。でも、もう長くはないって先生が言ってたんだ」


 みぞれは静かに答えた。

 私はみぞれの手を握りしめ、涙をこらえる。


「そんなこと言わないで。まだまだ一緒にいようよ、二人で」


 みぞれは私の手を握り返し、微笑む。

 力ない笑みではあるけど、いつもの優しい笑い方だ。


「ありがとう。あなたがいてくれるから、私は幸せだよ」


 そんな言葉を聞いてしまっては、私は何も言うことが出来なくなる。

 ずるい。私は今にも溢れ出しそうな涙を必死にこらえた。


 私は誤魔化そうと、再び空を見上げた。

 「今日はやけに青が透き通っているね」と不自然にならないよう前置きして。



 しばらくの間、言葉を交わさずに空を見上げていた。

 風が髪を揺らし、鳥のさえずりが遠くから聞こえてくる。


 みぞれがふと、私の名前を呼んだ。

 

「どうしたの?」

「あのね」

「何?」

「私ずっと、あなたのことが好きだった。あなたと過ごした時間は、私にとって奇跡だよ」


 私は思わず魅入った。

 そう言ったみぞれの言葉は、空から降る日の光に照らされるより、温かくて綺麗な音だったから。



 気付けば、私の頬は濡れていた。

 泣きたくなかったのに、堪えられず泣いてしまう。


「わ、私もずっとずっと好きだった。みぞれが私を好きなのと同じように」



 みぞれはその白い指でそっと、私の頬を拭い、そのまま顎に手を当てた。


「知ってる。あなたの気持ちもずっと前から」


 みぞれの顔がゆっくりと近づく。私もみぞれに近づく。

 

 唇を重ねた。

 その瞬間、世界が止まったかのように感じられた。



 みぞれの唇は冷たく、私はその冷たさに驚いた。


「……みぞれ?」



 いくら待ってみても、みぞれの声は聞こえてこない。

 瞳は閉じられ、静かな微笑みがその顔に残っているだけだった。まるで、空に向かって微笑んでいるみたい。

 





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