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プロローグ

 ……何故こんなことをしてるんだろう?


 この二時間ほどで何百回繰り返したかも記憶していない自問は、結局は自分の所為だと答えるしかない。

 頼まれたら断りきれない、ここ一番で押しが弱いお人好しな性格が悪いのだ。更には頼んできた兄貴が、いま通ってる高校の授業料や生活費を稼いでくれてるので、食わせてもらっている身の上として強く言えないのも悪いのだ。とどめに、弱みを握られてしまったのが最悪だった。

 でも、やっぱりこんなことを引き受けるんじゃなかった。場違いにも程があると思う。


 あまり広くない空間には、自分を除いて十人の少女が居た。歳はまちまちで、聞かされた情報が確かなら一番下は十三歳、上は十八歳だったはず。全員がかなり露出の多い服装をしていて、背中やおへそが丸見えでもあまり気にした様子は無い。

 本来なら、女の子同士で仲良く談笑でもしくれたら良いのに……嫌というほど張り詰めた緊張感が辺りの空気を重くしている所為で口を挟めない。ここに居る誰もが自らを誇示し、他を敵視しているからこそ生まれる独特の緊張感だ。

 ……はっきり言うと、思いっきり後悔してる。ストレス満杯な状態だ。普通の神経をしてる人なら、こんな場所に居たいとか思えない。一刻も早く逃げたいと思うだろう。

「十一番の忍野(おしの) 由美(ゆみ)さん。こちらに来てください」

「はいっ」

 短髪の男性スタッフに呼ばれたボブカットの女の子が力強く立ち上がり、自信満々に胸を張って出て行く。その子と入れ替わりにツインテールの少女が戻ってきたが、上手くいかなかったらしく、悔しそうに歯噛していた。――けど、気にする余裕は微塵も無い。

 ああ、最悪だ。とうとう順番が回ってくる。どうにか逃げ出せないだろうか?

 お腹が痛いと言って棄権するとか? ……無理だ。あの兄貴に小芝居なんか通用しないに違いない。確実に看破されて引き戻されるに決まってる。

 トイレに行くとか告げて脱出する? ……不可能だ。こんな最悪の服装で外に出るくらいなら、一時の羞恥を選ぶしかない。それに、もし脱出を選んだとしても――兄貴のことだ、この無理やり着せられた服に発信機のひとつくらい仕掛けてるはずだ。

 どうする? どうすればいい――


「十二番の星村(ほしむら) ヒカリさん。出番ですのでこちらに来てください」


「――!」

 ついに、ついにきてしまった! この最悪の時が!

 下手をすれば人生が破滅しかねない……リスクを伴う舞台がやってきてしまった。

 どうしよう? どうしたら良い? どうすれば良いんだ!?

 十一番の人が戻っても動かないこっちに、スタッフの人は首を傾げる。

「星村さん?」

「…………はい」 小さく返事をして、ゆっくりと立ち上がった。

 行こうとしなければ、下手をするとスタッフの人の立場が危うくなるかもしれない。兄貴はそういうことを平気でやる。絶対にやる。これは確定事項だ。

 ……そう、彼は何も知らないんだから悪くない。悪いのは全部兄貴だ。

 スタッフが待つ方へと重い足取りを向ける。かなり久しぶりにスカートなんかを穿いてるもんだから、股下がスースーして落ち着かない。ついでに、背後から十一個の威圧的な視線が突き刺さってきて、思わず逃げたくなってくる。

「準備はよろしいですか?」

「……はい」

 こうなったら、さっさと終わらせて帰ろう。どうせ合格する訳がないんだから。

「それでは――どうぞ」

 たいした緊張も無く、余計な意気込みもしない。

 男性スタッフの言葉に従って、『()』はステージの袖から出て行く。


『スター・ガールズキャラバン』――女性アイドル(・・・・・・)のオーディションの舞台に。





 そんな舞台の上に、『俺』――星村 (しょう)は立った。立ってしまったのだ。

 全ての始まりは三時間ほど前。兄貴が持ちかけてきた相談だった。

 それから口八丁手八丁で言いくるめられ、騙され欺かれた結果として、こんな場所に立つことになるとは思わなかった。

 しかも、スカート穿いて露出増やしたフェミニンな格好でなんて。


 ……ありえない。

 華やかな場所に不釣り合いだとか、気後れしてるとかじゃなくて。

 このステージに俺が立つこと、それ自体が――ありえない。

 どうしてか?


 ……そんなの、簡単だ。


 だって――


 ――俺、()なんだぞ?

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