不在の君
一緒に夕食をと岳弥に呼ばれた座敷で、誠通は戸惑いに襲われた。岳弥と豊、そして、初めて見る相手が座っていた。年の頃は誠通やあの白い着物の青年よりもいくぶん若い。小学校の終わりから、中学生ぐらいだろう。
あまりにもまじまじと見つめ過ぎたせいか、不審げに「なに?」と神経質そうな眉を顰められてしまった。その態度を窘めて、岳弥が、彼が年の離れた弟の清治だと紹介する。
この家に住まう三人兄弟は、ここに全員揃っていた。他に、この家に住む者はいない。
(じゃあ、あいつは・・・・・・?)
咽かえるような朱色の煌きの中にいた彼は、誰なのだろう。
なぜか彼のことを口に出して尋ねられず、誠通は疑惑を腹に押し留めたまま、食事の席についた。食卓はなく、ひとりひとりに丁寧に膳が用意されている。が、ひとつ、多かった。
「他にどなたかいるんですか?」
上座に置かれた五つめ膳に、誠通は岳弥に尋ねる。すると彼は、その穏やかな面で、躊躇いがちに微笑んだ。
「いえ、他には誰も。ただあれは、この家の古くからの習いのようなもので、必ずひとつ余分に用意するんです」
気になさらないでくださいと、そう促す岳弥の声に視線をそらしかけた、瞬間。誰も食べない膳の影を、またするりと白いなにかが過っていったのが見えた気がした。
目を瞠る。だが、いまのを見たかと問いかけようとした誠通を、清治の不機嫌な声がさえぎった。
「ねぇ、お腹すいた。早く座ってくれない?」
小生意気な、と睨みかけたが、自分に否があるので仕方なく誠通は腰を下ろす。もう白い影の気配は、部屋のどこにもなかった。
(なんだか・・・・・・)
丁寧に出汁をとられた上品な吸い物椀に口をつける。客人扱いだからなのか、元からそういう家だからなのか、膳には手間暇をかけた品が見目好く並んでいる。けれど――
(食べる気がしないな・・・・・・)
誠通の箸は進まなかった。