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第14話 野辺地学

「ありがとう、亜愛ちゃん」


「うん。一緒に見つけに行こ、優介くん」


 閃石の手を握り返しながら、佐藤は頷く。


「後で、俺の実家への行き方教えるから……」


 ふと、佐藤の言葉が止まった。


「……優介くん?」


 閃石が不思議そうに顔を覗き込む。


「あぁ、いや。今思い出したんだけどさ」


 佐藤はおもむろにスマートフォンを取り出した。


「そういえば昨日、俺のペンダントを買いたいって言ってた二人さ……」


 ティックトックアプリの画面を開き、検索欄に『ゲロ』と入力する。早速見覚えのあるサムネイルが目に飛び込んできた。そこそこバズっているのだろう。


「これ見て会いに来たって言ってたよな」


 音量をゼロにしてから動画をタップする。見覚えのある映像が流れだしたが、彼は落ち着いて動画を停止させた。それからコメント欄を開いてスワイプする。何をしているのかと、閃石亜愛が不思議そうに佐藤の表情を覗き込んだ。

 一方の佐藤は、画面に表示された無数の文章全てに目を通している。しかし、コメント欄を漁ってみるも、それらしき人はいない。でも、絶対にメッセージか何かを残していたはずだ。


「亜愛ちゃん、この動画撮ってた人誰か覚えている?」


「え? えっと、確か三年生の野辺地先輩だったと思うけど」


「のへち? 亜愛ちゃん連絡先持ってる?」


「え? え? あ、うん。毎日電話しよって言われて、ラインは交換したけど――」


「すぐに呼び出して、話したいことがある」


「ちょ、え? どうしたの?」


 戸惑う閃石と何かを決意した佐藤の目の前に、コーヒーが置かれた。


「お待たせしました、コーヒーとクラブハウスです」


 店員が割って入ったことで、閃石はそれ以上何も聞けなかった。ただ、彼に言われた通り野辺地先輩にラインする。駅前のカフェに来るようにと。


 野辺地学のへちまなぶがカフェに現れたのは、ラインを送った十分後だった。想定以上に早く到着した彼は、閃石亜愛の隣に着席するや、早速佐藤を睨みつける。


「おうおう、可愛い可愛い閃石ちゃんに呼び出されたと思ったらなんでゲロ野郎が居るんだ?」


 なぜか少しイライラした様子の彼を落ち着かせようと閃石がなだめる。しかし彼は虫の居所が悪いらしい。机をガンと蹴って勝手に閃石のコーヒーを飲んだ。彼はトラ柄の服装に身を包んでおり、トラの模様と同じ金色の髪を短く切りそろえた頭と特徴的な顎鬚が威圧感を放っている。少し小太り体系なのだが、元々スポーツをしていたのだろう。腕や首の太さが肉体的強さを醸し出していた。


「ちょ、先輩」


「なんだよゲロ野郎。こっちはお前のせいで朝から大変だったんだぞ」


「え?」


 先輩は閃石の肩に手を回しながらスマートフォンの画面を向ける。


「これ見ろよ、昨日のお前のゲロだ。これがバズった挙句ツイッターでも晒されて大学炎上騒ぎだよ」


「それは……」


 俺のせいなのか? とは言わなかった。むしろ被害者なのでは? とも聞けなかった。


「挙句の果てには居酒屋まで特定されてゲロまみれ居酒屋って風評被害まで受けたってさ。お前のせいで。お前が昨日ゲロなんか吐かなきゃこんな事にはならなかったってのに。さっきまで俺居酒屋の清掃手伝わされてたんだぞ」


 なるほど、来るのが早かったわけだ。朝から昼まで店の評判を落とした張本人としてタダ働きしていたということか。


 ちょうど清掃終わりに昨晩唾をつけてた女の子の一人、閃石亜愛から呼び出されたと。だから浮足立って会いに来た。ところがそこには自分がタダ働きする要因となった男がいたわけだ。それは確かに、イライラするかもしれない。が、今はそんなことどうでもいい。


「先輩、その動画に来たコメントとか、先輩宛のダイレクトメッセージとか見せてくれませんか?」


「は? 嫌だよなんでだよ」


「ちょっと今、人探ししてるんです」


「人探しだ?」


「はい。なんか変なメッセージとか来てませんでした?」


 野辺地学は怪訝な表情を浮かべたままスマホを操作する。


「知らねぇよ、ってか俺この動画今日中に消さないと訴えるって言われてんだよ」


「お願いします、消す前にもう少しだけ。変なメッセージが来てると思うんです」


「知らねぇ、来てねぇよ。大体がお前を馬鹿にする内容か店への誹謗中傷しかねえよ。あとはなぜか撮影した俺への文句。意味わかんね。もういいか? それだけならもういいだろ。動画消すぞ」


「せめて消す前にもう一回探してくださいよ!」


「あぁ、もううるさいな。そう言うんならお前が探してみろよ!」


 野辺地学から渡されたスマホを手に、佐藤は慌ててメッセージリストを確認した。佐藤のアカウントから見た通り、コメント欄には特に変なメッセージは見当たらない。少し胃が痛くなる誹謗中傷が載ってるだけだ。ならダイレクトメッセージ。


「うわ」


 ダイレクトメッセージのリクエストが恐ろしいほど届いていた。そのほとんどが住所や飲み会の実態について質問する野次馬たちだ。これは確かにイライラするだろう。


「いや、あった」


 適当にスクロールしていた彼だったが、すぐに異様なアカウントが目に留まった。アカウント名は『正義のバンディット』と書いてある。そのアイコンは、見覚えのある甲虫だった。違いと言えば、その虫が青色一色だったことだろうか。


 佐藤は正義のバンディットから送られてきているメッセージをタップして表示した。


「見つけた」


「え、マジ?」


 先輩を無視して文章を読み進める。間違いない。あの二人だ。

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